消費増税に伴う中小企業向け価格転嫁対策~誤った政策につける薬はない

「消費税率を現在の5%から8%、10%へと引き上げる際、中小企業は仕入れコストが3%、2%それぞれ引き上がる。だが、必ずしも販売価格が同じだけ上昇するとは限らない。立場の弱い下請け企業は、納入先の大企業から取引価格の引き上げを拒絶される可能性がある。価格転嫁が進まなければ中小企業の経営が悪化し、経済に悪影響が出る。これを防止するため独占禁止法や下請法に特別措置を設け、価格転嫁を進めやすくする」

「立場の弱い中小企業」を守るために、政府は「価格転嫁のカルテルは独禁法の適用除外とする特例」を作り、企業などから様々な電話やメールの相談を受け付ける「総合相談センター」を内閣府に置き、さらに専門的な法律相談ができる専用電話窓口を公取委と経済産業省に設け、転嫁拒否で悩む中小企業の対面相談に応じる窓口を各省や地方出先機関につくり、移動相談会も開く。

まさに盤石の体制で「増税に乗じた下請けいじめ」が生じないように全国規模で取り組む方針のようだ。そして「盤石の体制」で「増税に乗じた下請けいじめ」を防ぐための経費は、13年度予算に盛り込まれる。

「立場の弱い中小企業」を「増税に乗じた下請けいじめ」から守ろうとする政府の姿勢は、まさに「正義の味方」。しかし、政府が「正義の味方」を演じられるのは、「消費増税」があってのこと。完全なマッチポンプ。

「地位を悪用して違法に価格転嫁を拒否する大企業」が「増税に乗じた下請けいじめ」を止め、下請け企業の正当な価格転嫁を認めるということは、「立場の弱い一般消費者」への販売価格が上昇するということ。今のところ政府は「立場の弱い一般消費者」を守る姿勢は示していない。「立場の弱い一般消費者」が出来ることは、より安いものを買うか、購入量、購入回数を減らすかしかない。

政府がどんなに「正義の味方」の役を演じても、肝心の政策が方手落ちである以上、消費増税によって見かけ上「デフレ経済からの脱却」は図れる可能性はあるものの、「今日より明日が良くなると思うことができる社会」の実現は「先送り」にされる運命にある。

「増税に乗じた下請けいじめ」対策が、実際に必要不可欠な喫緊の政策であるかも定かではない。そもそも輸出型の大企業は、仕入の際に国内で支払った消費税は還付されるので、下請け企業が正当な価格転嫁を拒否する「下請けいじめ」をする強い動機はない。内需型の大企業も主戦場を国内から海外に移したり、新聞のように軽減税率を採用させたりするなど、幾つも逃げ道が用意されているので、政府が騒ぐほど大企業は困らないはずである。

そして、何といっても、「税額」ではなく、「製品単価」を下げさせればいいだけ。「製品単価」を引下げさせ、満額「税額」を支払う行為も、「増税に乗じた下請けいじめ」と認定するつもりなのだろうか。自由主義経済のなかで、大企業が下請け企業に対して、消費増税によっても税込購入単価が変わらないように「製品単価」引下げを要求することを、新たに制定する法律で規制できるのだろうか。

「消費増税原理主義者」の日本経済新聞は、政府が、消費増税が経済に悪影響を及ぼさないよう、真剣に対策を練っていることを大きくアピールしている。しかし、日本経済新聞は全く報じていないが、読売新聞は日本自動車工業会が試算した消費増税の影響について報じている。

「日本自動車工業会は、消費税率が2015年10月に10%まで引き上げられた後、16年以降の国内新車販売台数(軽自動車を含む)は年間350万台程度に落ち込むとの試算をまとめた。12年の販売台数予測の501万台と比べると、約150万台減少することになる。自動車産業全体で約22万人の雇用が失われ、関連する鉄鋼、電機などを含めて国内製造業の規模が計約7兆1000億円縮小するとしている。近く公表する」

日本自動車工業会の「国内製造業の規模が計約7兆1000億円縮小する」という、名目GDPの約1.5%に相当する規模で経済が縮小するという試算が現実だとしたら、「増税に乗じた下請けいじめ」対策というマッチポンプ対策など、焼け石に水。また、「自動車産業全体で約22万人の雇用が失われる」としたら、22万人が負担してくれた税収が失われ、逆に国の社会保障費は増加することになる。少なくとも22万人の国民が「今日より明日が良くなると思うこと」が出来なくなる。

誤った政策に効果のある薬を用意するよりも、誤った政策を撤回する方が、社会的コストが安いことは明らかである。誤った政策につける薬はない。
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清水様 この度はコメントをありがとうございます。非公開での返信の仕方が分からず返信遅くなり申し訳ありません。また、頂戴したコメントですが、後半が文字化けしており、読めない状態です。恐縮ですが、再送していただけたら幸いです。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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