日銀追加金融緩和に臨時国会 ~ 異例尽くしの中に透けて見えるそれぞれの本音

「金融機関の貸出について、円ベース、外貨ベースの貸出を問わず、希望すれば、全額、長期固定でファイナンスするものです。私どもとしては、これを大いに活用して欲しいと思いますが、最終的に利用するかどうかは、あくまでも企業なり家計が色々な投資・支出を行っていく、あるいはそれらに対して民間金融機関が貸出を行っていくという、あくまでも民間の判断です。ただ、日本銀行として、こういう資金供給の枠組みがあることをしっかり説明していき、できるだけ多くの主体がこれを利用して欲しいと思っています」

今回の異例尽くしと言われる日銀の追加金融緩和のポイントは、この「貸出増加を支援するための資金供給」の創設にあったともいえる。

「この1年間の貸出をみると、記者の方がおっしゃった通り、外貨での貸出、あるいは海外での貸出が多いのは事実です。現在のように、経済・金融のグローバル化が非常に進展しているもとでは、日本の企業や経済が成長していく上で、内外という区別なく、金融機関あるいは企業の活動をサポートしていくことが、最終的には日本の成長につながっていくという判断です」

白川日銀総裁が記者会見の質疑応答でこのように述べているように、この「貸出増加を支援するための資金供給」制度は、「あくまでも民間の判断」で、「外貨での貸出、あるいは海外での貸出」の増加を促すもの。これは、日銀法で為替相場の安定は国、つまり財務省の取扱い事項とされ、「日銀法上、慎重な検討が必要」とされている「日銀による外債購入」を、「民間の判断」のもとで同等の効果を生むことを目指した政策と言える。

「外貨での貸出、あるいは海外での貸出」を増やそうとする金融機関にとっては、自行の信用力(外貨調達能力)を気にせずに貸出を伸ばすことが可能となり、日銀にとっては「民間の判断」による市場での「円売・外貨買い」を誘発することで、日銀法を気にすることなく円売介入と同等の効果を生み出すことが出来るという、金融機関、日銀両方に都合のいい政策。

要するに、今回の「貸出増加を支援するための資金供給」の創設は、「民間の判断」に委ねる形をとることで、「日銀法上、慎重な検討」を必要としないで日銀が為替市場に介入することを可能にすると同時に、他国からの批判をかわすことが出来るようにする、日銀が捻り出した「会心の裏ワザ」と言える。

「民間への委託介入」ともいえる「会心の裏ワザ」を編み出したことで、日銀は白川総裁が自ら「為替介入そのものになる」と否定的であった「日銀による外債購入」と同様の円安誘導手段を手に入れた。

日銀にとっての「会心の裏ワザ」の副作用として考えておかなければならないのは、新興国と商品市場への影響。これまで、米国FRBによる量的緩和によって、新興国や商品市場にホットマネーが流入し、新興国通貨高、資源価格上昇を招く要因となった。この9月からFRBが「雇用の改善がみられるまで」という条件でQE3に踏み切ったなかでの日銀による「貸出増加を支援するための資金供給」の創設は、新興国への外貨流入ルートを増やすものでもある。日銀には、場合によっては、これまでFRBが全てを引き受けて来た新興国からの批判の一部を受けいれる覚悟が必要であるが、その覚悟は出来ているのだろうか。

「『政治不況』を起こさないためにも、赤字国債発行法案の1日も早い成立と、間断のない経済対策の実施、それに、着実な予算編成の準備が必要だ」

参議院で所信表明演説が行われない異例の開幕となった臨時国会で野田総理は、赤字国債発行法案が成立しなかった場合には、11月末に財源が枯渇するという理由を挙げ、「近いうちに国民に信を問う」ための条件として赤字国債発行法案成立への強いこだわりを見せた。こうした一見尤もらしい理由も、赤字国債発行法案を解散先送りの理由に使用出来るように、事前に周到に準備されたもの。

「短期の財務省証券を発行してつなぎ資金を確保する手もあるが、財務省は『年度内の返済財源がはっきりしていない証券の発行は財政法上、認められない』との政府見解を閣議で確認した。法解釈には異論もないわけではないが、政府として退路を断った形だ」(10月25日付日本経済新聞:『真相深層』迫る日本版「財政の崖」 国債発行11月にも停止)

もし、野田総理が「近いうちに国民に信を問う」という自らの発言を実行するつもりがあるのであれば、「年度内に返済財源」を確保することは十分可能である。財政法上認められている財務省証券をわざわざ「年度内に返済財源がはっきりしない証券」と定義し、「政府として退路を断つ」ことで11月末に財源が枯渇する状況を作り出すことこそ「政治不況」を招く行為。このような不必要な危機を煽るという姑息な手段を用いて議論を誘導するのが野田政権の最大の欠陥である。

「不十分だが、せめて45議席の削減くらいはすべきで、身を切る姿勢を見せなければ、国民の納得は得られない」

松野日本維新の会国会議員団代表は、衆議院の定数削減についてこのように述べた。赤字国債発行法案に賛成する意向を表明したうえで、わざわざ「45議席の削減」と具体的な提案を行ったことから想像されることは、日本維新の会は第三極の結集が謀れない「近いうち」の解散は避けたいという思惑を持っているということ。第三極の主役になろうかという日本維新の会が、国民からの信頼を失った野田政権に助け船を出すかのような構図も理解し難いもの。

「違憲・違法の状態にある一票の格差の是正は、喫緊の課題だが、政治家の身を切るという意味で、定数削減も国民の強い要請だ」

松野日本維新の会国会議員団代表の、政権延命への助け舟にこのように答えた野田総理。内閣支持率20%でも政権維持に連綿とするこの御仁は、「国民の喫緊の要望は、野田総理の首を切ることである」ということなど、全く意に介していないようである。民主主義の根幹をなす「一票の格差」の是正も極めて重要だが、議会制民主主義の根幹をなす国民と政府の間の「認識の格差」も放置出来ないところまで広がっていることを忘れてはならない。
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