「ファンド」に対する誤った認識を利用する社会

「あおぞら銀行は地方銀行の取引先の事業再生を支援する専門子会社を設立する。来年3月に中小企業金融円滑化法が終わるのを控え、地銀から支援ニーズが高まっているのに対応する」

来年3月末の中小企業円滑化法期限切れを控え、地銀を中心とした事業再生ファンドの組成が花盛りになって来た。この1か月だけでも、愛知や岡山、宮崎、沖縄などで事業再生ファンドが組成されることが報じられている。

日本は「ファンド」に対して、極めて偏った、歪んだ認識を持っている。ライブドア事件や村上ファンド、最近ではAIJ事件や、長野県建設業厚生年金基金を巡る未公開株ファンドなど、事件が起こるたびに「ファンド」はその形態を問わず、「悪事を働くための器」の如く非難を浴びて来た。

しかし、一方では最近の「事業再生ファンド」のように、「ファンド」は何かしら「魔法のような利益を生み出す器」であるかのように扱われている。

「ファンド」が、「悪事を働くための器」に利用されるケースがないわけではない。しかし、これももとをただせば、日本人の多くが「ファンド」に対して抱いている、「魔法のような利益を生み出す器」だと誤った認識を利用された結果とも言える。本来「ファンド」は「特定の事業から上がる収益を、資金の出し手の権利に応じて適正に分配するための器」であり、「悪事を働くための器」でもないし、「魔法のような利益を生み出す器」でもない。

同じ4日付の日本経済新聞の「けいざい解読 リスクを避ける民間マネー 官の資金も呼び水に」という特集記事のなかでも、「日本全体でおカネが余っている半面、リスクをとれる資金が足りないという奇妙な事態に陥っている」「政府が民間と組んで資金を供給する仕組みは考えられないか。そんな声が一部の政府関係者から聞こえてくる」という尤もらしい主張が繰り返されている。

日本で繰り返される「リスクマネー必要論」は、根本的に間違っている。提供する資金の種類が「リスクマネーであるか否か」など、根本的な問題ではないということである。根本的な問題は、「その事業が収益を上げられるか否か」である。

日本政府や主要メディアは、日本にリスクマネーが少ないことが、成長企業が日本で育たない根本的原因であるかのような主張を繰り返して来ている。しかし、これは大きな間違いか、議論のすり替えである。日本で成長企業が育ち難いのは、「事業収益をあげられる環境」が整っていない、要するに有効需要が減少していることが根本的原因である。有効需要が増加し、「事業収益をあげられる環境」が整ってくれば、リスクマネーは政府の後押しなどなくても増加するものである。

SONYやホンダ。戦後の日本から、世界に誇る成長企業が表れたのも、戦後の日本に内需拡大という経済環境が整っていたからである。SONYもホンダも、外需で世界を代表する企業に成長したわけではない。堅調な内需に、外需(輸出)が加わったことで、世界を代表する成長企業になったのである。だいたい、これらの成長企業が表れた時代に、「ファンド」など資金調達手段の主役ではなかった。戦後の成長企業を支えたのは、銀行を中心とした間接金融であり、リスクマネーではない。

日本の政策当局は、成長企業を生み出すための「必要条件」である内需拡大どころか、消費増税等々内需の頭を押さえる政策に「不退転の決意」で突き進んでいる。政府が「事業から収益を上げにくい環境」を作ることに猪突猛進する中で、事業の資金調達手法としていくら「ファンド」を利用したとしても全く無意味である。政府が、リスクマネーが少ないことを成長企業が育たない要因であるが如く強調するのは、自らの失政から目を逸らさせるための煙幕でしかない。政府の、「ファンド」に対する日本国民の誤った認識を逆手にとるというやり方は、「ファンド」を「悪事を働かすための器」とする輩と同様である。

先日、日銀が追加金融緩和で、「貸出増加を支援するための資金供給」の創設に踏み切ったが、これも、地銀等が「事業再生ファンド」を積極的に立ち上げていることと無関係ではない。「事業再生ファンド」といっても、その資金全てがリスクマネーだとは限らない。借入による「財務レバレッジ」を効かせ、リスクマネーの出し手にリスクに見合う高いリターンを提供するために、銀行からの融資を必要とする場合もある。

中小企業金融円滑化法の期限が切れれば、銀行が中小企業に対する融資姿勢を厳しくすることは想像に難くない。その結果、銀行が中小企業への融資の回収に動けば、日本経済はたちまち金融恐慌になってしまいかねない。こうした事態を避けたい政策当局と、中小企業への融資を減らしたい銀行両者にとって、調達資金を日銀が面倒を見てくれる「貸出増加を支援するための資金供給」を利用して、融資先を中小企業から「事業再生ファンド」にシフトさせる政策は、まさに渡りに船。

先日日銀が打ち出した「貸出増加を支援するための資金供給」の背景には、中小企業金融円滑化法が来年3月末で打ち切られるという事情もある。ただし、こうした資金調達面での緩和政策は、中小企業に対する「延命政策」という小手先の対策でしかなく、「事業収益をあげられる環境」を整備するという本質的な政策ではない。

先日日銀が打ち出した「貸出増加を支援するための資金供給」も、地銀による「事業再生ファンド」創設ラッシュも、政府による「事業から収益をあげられる環境」の「先送り」という失政に対する代償でしかない。
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コメント

BLOGOSで拝見しました。

要するに「時間稼ぎをしている間にすべきことをしてこなかった」という認識でよろしいのでしょうか。

ところで地銀がファンドを作るということですが、カネを出すのは誰なのですか。もしかして自らの貸出先に自己資金で投資するということになるのですか? それって許されるのでしょうか。

仮に資金の出し手が政府保証付の再生支援機構だとしても、事業再生へのインセンティブは弱まりますよね? 結局潜在的な不良債権が増えるだけのように思えるのですが…

No title

日本の皆様お気をつけくださいhttp://blogs.yahoo.co.jp/kokuha23/MYBLOG/yblog.html

No title

nobinobi様 この度はコメントを頂戴しありがとうございます。ご指摘の「時間稼ぎ」もそうなのですが、ある時は「ファンド悪玉論」を展開し、ある時は「ファンド万能論」を展開する政策当局や有識者達の節操のなさに呆れているというところです。その結果、やるべき基本的な政策をやらずに「時間稼ぎ」になっているという感じです。
金融機関や事業会社のほか、中小企業基盤整備機構なども出資することが多いようですね。金融機関からの出資や融資がなければ、金融機関はリスクを切り離すことが出来ますし、税務上のメリットを受けられる可能性もあると思います。どちらにしろ、国民の目の届き難いところに移してしまうだけで、ご指摘のように潜在的な不良債権が減るわけではないと考えています。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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