原因を無視した「インフレ目標 」論争~ あんまりにも小さな、こまごまとした政策話

「自民党の安倍晋三総裁はデフレ脱却への物価上昇率目標について『2%のインフレ目標を設け、ありとあらゆる手段をとる』と表明。野田佳彦首相(民主党代表)は『1%が現実的な数字だ』と反論した」

30日、日本記者クラブで開催された、与野党11党首による党首討論会で、金融政策について民主党、自民党が激論を繰り広げたことが報じられている。しかし、インフレ目標が2%か、1%か、などという議論は、日本維新の会の石原代表の言葉を借りれば 「あんまり小さな、こまごました政策話」でしかない。

日銀の金融政策に間違いがあったことは否めない。そして、それが不必要な円高を招いた原因になったことは間違いない。しかし、今各党が、日銀の金融政策を総選挙の争点にしようとしているのは、デフレを克服できなかった原因が、日銀の金融政策にあったかのような印象を国民に与えようとするプロパガンダに過ぎない。

そもそも「インフレ目標」など、殆ど何の意味も持たない。特に、資源や食糧の多くを輸入に頼っている日本にとって、インフレだけを政策目標に挙げることは極めて危険な政策である。重要な問題は、内需、そして雇用の拡大である。政府が、内需と雇用の拡大に何の政策目標を持たずに、日銀にだけインフレ目標を持たせるというのは、「危機的状況に陥ったわが国の『経済』を立て直す」どころか、「壊滅的な状況に追いやる」可能性を秘めたものである。

「危機的状況に陥ったわが国の『経済』を立て直す」ことに重きを置かないという考え方を採るのであれば「インフレターゲット」を設けても構わないだろう。1%や2%のインフレなど、誤った政策を打ち続ければ、達成することはさして難しいことではないはずである。

日銀が「次元の違う金融緩和」を実施すると同時に、政府が円売り・ドル買介入を実施して無理やり円安に誘導することで輸入物価を上昇させ、一方で政府が、エネルギー価格の上昇を理由に電気やガス、公共交通機関の料金値上げなどを認めれば済むだけの話なのだから。

しかし、このようにして1%、2%のインフレを引き起こしたからと言って、「危機的状況に陥ったわが国の『経済』を立て直す」ことにはならないことは、誰の目にも明らかである。

「内閣府は(11月)15日、7~9月期の需給ギャップが4~6月期に比べて5兆円拡大して15兆円に達したと発表した。需給ギャップは、日本経済全体の需要と潜在的な供給力の差のことを指す。現在の労働力や生産設備で理論的に生み出せるGDPに対して、現実のGDPがどの程度の水準なのかを示す指標。需給ギャップの差が大きいほど、需要が少なくデフレになりやすいことを意味している。需給ギャップがマイナスになるのはリーマン・ショックが起きた2008年以降、17四半期連続」

デフレが問題なのは、その原因が、国内の有効需要の落ち込みが続いているからである。こうした経済状況下で必要なのは、結果として算出される「物価上昇率」ではなく、物価の落ち込みの最大の要因になっている国内の「有効需要」を作り出すことである。

では、日銀の「次元の違う金融緩和」によって、国内の「有効需要」を作り出すことは出来るのだろうか。中央銀行の「次元の違う金融緩和」によって、雇用を生み出すことが容易ではないことは、FRBのQE1、QE2、QE3、の効果を見れば明らかである。

昨日発表された米国の物価上昇率は、「10月の米個人消費支出(PCE)価格指数は前年比では1.7%上昇と、金融当局の長期的な目標である2%を下回った。食品とエネルギーを除くコア指数は前年比で1.6%上昇」という、自民党、民主党が政策目標として掲げる「インフレ目標」を達成した状況にある。

米国の直近2012年7-9月期の実質GDPは前期比年率で+2.7%である(日本の同時期の実質GDPは、同▲3.5%)。中央銀行のインフレ目標を達成して経済成長をしている米国でも、FRBのQE3という「次元の違う金融緩和政策」は、FRBが目標とする「雇用の増加」に結びついていないし、それに伴って個人消費の基調も依然として弱含みの状況から脱し切れていない。

実際に米商務省が11月29日発表した第3・四半期の国内総生産(GDP)改定値は、企業の在庫投資がGDPを0.77%押し上げたことで、前期比年率で2.7%増と、速報値の2.0%増から上方修正されたものの、「個人消費支出は速報値の2%増から1.4%増に下方修正され、2011年第2・四半期以来の弱い伸びとなった。民間設備投資は速報値の1.3%減から2.2%減へと大きく下方修正。民間住宅投資の伸びも速報段階の14.4%から14.2%に引き下げられた」状況にある。

「自民党は、デフレ脱却と円高の是正策を発表しているが、『野田総理大臣には、それがあるのか』と問いたい。私を批判するなら、この1年間、効果的な政策を実施すればよかったではないか」

自民党安倍総裁は、街頭演説等で、「デフレ脱却と円高是正政策を発表している」ことを強調しているようだ。しかし、雇用の拡大、内需の拡大を伴わない経済統計上の「デフレ脱却」など、今の日本にとって何の意味もない。

デフレ経済の根本的な要因となっている「雇用の拡大」、「内需の拡大」を示す具体的政策が伴わない中で、2大政党がインフレターゲットの水準という、「あんまり小さな、こまごました政策話」を繰り返しているところに、両党の政策担当能力不足が表れている。

「米倉さんは勉強してもらいたい」

金融緩和強化の一環として日銀に建設国債の購入を求める持論に対し経団連の米倉会長が「禁じ手」と批判したことについて、このように反論した安倍総裁。安倍総裁には、経済統計としてのインフレ率を1%、2%上昇させるために「次元を超えた金融緩和」が求められているのではなく、「雇用の拡大」「内需の拡大」に結びつけるために「次元を超えた経済政策」が求められている、ということを是非勉強してもらいたいものである。
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コメント

No title

「次元を超えた経済政策」という言葉で煙に巻くのはやめてたほうが良いのでは。

ブロゴスのコメント欄を開かない人々

>(PCE)価格指数は前年比では1.7%上昇と、金融当局の長期的な目標である2%を下回った。食品とエネルギーを除くコア指数は前年比で1.6%上昇」という、自民党、民主党が政策目標として掲げる「インフレ目標」を達成した状況にある。

 2%を下回ったのであれば達成はされていない。達成されない事、そしてその達成率が低いというのは筆者が考えるより遙かに重要な点。そんなこともわからずに「こまごました」といってるのは1か2の数字の印象だろうか。
その調子では当然ながら日本の金利が高止まりしていることすらも理解出来ない訳だ。
 筆者は他の記事の論調でまともな事を言うと思っていたが、金融政策の本質は何もわかっていない。強靭化にこだわる安倍総裁も安倍総裁だが、その発言から筆者や米倉会長などより遙か数段上で理解している事はわかる。筆者にもそういう潜在性はあると思っていたが、考え違いのようでガッカリした。
「近藤さんも勉強してもらいたい」
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近藤駿介

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