日銀追加金融緩和 ~ 「円キャリートレード」に頼り過ぎることなかれ

「前向きな資金需要を最大限サポートする観点から、ファンド向けや非居住者向けの貸し出し、邦銀海外店の貸し出しを含めることにした」

今回の日銀追加金融緩和の一つのポイントはこの部分である。日銀の白川総裁は20日の金融政策決定会合/後の記者会見で、貸出増加を支援する資金供給策の対象についてこのように説明した。

「ファンド向けや非居住者向け」ということは、海外を含めたヘッジファンド等への貸し出しも含めるということ。これは、日銀が「円キャリートレード(円を調達して外貨建て資産に投資すること)」を促すことで円安状況を作り出そうという政策である。ヘッジファンド等が、邦銀から調達した円を為替市場で売却して外貨を購入すれば、日銀の外債購入と同様の効果が得られる一方、日銀の外債購入に付きまとう「為替介入は財務省の専管事項である」という批判を回避することが出来る。

また、ヘッジファンド等が調達した円を日本国内の資産に振り向ければ、国内のリスク資産の価格上昇に繋がることになる。要するに、日銀による「円キャリートレード促進政策」は、円安か株高に繋がる可能性が高いもの。

さらに、銀行がヘッジファンドへの貸出を増やせば、日銀が出した資金がそのまま日銀の当座預金に滞留したり、銀行の債券投資が増えたりするだけで、貸し出しは増えないという日銀の量的緩和に対する批判をかわすことが出来る。

今回、白川総裁は記者会見でわざわざフリップを用意して、日銀は既に大幅な量的緩和をしていることを強く訴えた。こうした総裁の言動から、少なくとも白川総裁は、本音では「次元の違う金融緩和」には積極的ではないということは明らかである。

そうした中で日銀がヘッジファンド等を介した「円キャリートレード促進政策」を採ったのは、安倍次期総理からの強い要望を拒否することで、市場が円高・株安に反応した際、日銀に対する「次元の違う金融緩和」圧力が、さらに「次元の違う水準」まで高まってしまう可能性があるからだと思われる。

さらには、早期に円安を実現し、株価等の資産価格上昇をもたらすことで、政府からの「次元の違う金融緩和」圧力を鎮めようとする意図があったことが想像される。早期に円安・株高を実現すれば、安倍新政権は「次元の違う金融緩和」の成果を大々的に国民に訴えることが出来る。その結果、日銀はさらなる「次元の違う金融緩和」を迫られるリスクを減らせ、しいては中央銀行の独立性を保つことが出来る。日銀による「円キャリートレード促進政策」は、日銀にとっては必ずしも都合の悪い選択肢ではなかったということ。

日銀による「円キャリートレード促進政策」は、円安・株高を演出する効果が期待できるものである。しかし、この政策の副作用が、将来日本が「リスク資産の下落と円高」のダブルパンチを喰う可能性を高めるものであることは認識しておくべきである。

2008年のリーマンショック以前、日銀は2001年3月から2006年3月まで、世界に先駆けて量的緩和を実施した。そして、2004年以降、欧米との政策金利差が拡大方向になったこともあり、「円キャリートレード」が活発化。為替市場で、円は対ドルで123円台まで、対ユーロでは168円台まで円安が進むことになった。しかし、円を調達資金とした海外リスク資産投資は、海外リスク資産価格の急落によって終焉を迎え、その巻き戻しとして「(返済のための)リスク資産の売却と円買い」を誘発、日本は「リスク資産の下落と円高」という「調達資金を提供した国の悲劇」を味わうことになった。

100年に一度と言われるリーマンショックのような事態が近い将来起きるかは神のみぞ知るだが、日本が「円キャリートレード促進政策」を採り、「円キャリートレード」が活発化した場合、通貨安の恩恵を受けることが出来るが、その副作用が「リスク資産の下落と円高」になるということは覚悟しておく必要がある。

「(1$=)85~90円ぐらいにどう収めるかを考えなければいけない。円は安ければ安いほどいいかといえば、日本の産業構造上、そうではない」

自民党の石破幹事長はこのように述べ、適正な為替水準を85~90円だと言及した。もしそうだとすれば、1$≒84円まで円安に転じて来た今日、必要以上に「円キャリートレード」が積み上がらないよう、日銀への過度な圧力は慎むべきであろう。「賢者は歴史から学ぶ」という言葉を忘れてはならない。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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