2012年日本経済新聞最後の提言、「中小企業を解雇規制の対象外とせよ」~これまでと次元の違うレベルの低い主張

「採用後も、一定期間内なら本人の適性をみて企業が雇用契約を解除できるようにすれば、雇う側は採用を増やしやすくなるだろう。日本ではいったん人を雇うと解雇が難しい。新卒者も内定後は雇用契約が成立しているとされ、解雇が厳しく制限されている。人件費の余裕があまりない中小企業では、こうした解雇規制が採用に消極的になる一因だ。入社後の一定期間は解雇規制の対象外とすることを検討してはどうか」

2012年の最後を飾る大晦日、日本経済新聞は、「景気は不透明なままで新卒者の就職は依然として厳しい。効果的な就職活動の手助けが要る。求人数の多い中小企業と学生の橋渡しに力を入れるべきだ」という書き出しで始まる「中小企業への就職を促そう」という見出しの社説を掲載。その中で、このような「これまで以上に次元の低い提言」を行った。

この日本を代表する経済紙は、中小企業を「入社後の一定期間は解雇規制の対象外とする」ことが、「求人数の多い中小企業と学生の橋渡し」になると考えているのだろうか。

この社説は、従業員300人以上の企業と300人未満の企業の求人数はほぼ同数にもかかわらず、従業員規模300人未満の企業の求人倍率(就職を希望する学生に対する募集の倍率)は、3.27倍(就職を希望する学生が少ない)と高くなっており、中小企業の求人活動は厳しい状況にあるという現実を指摘している。

要するに「中小企業が求人活動で苦しんでいる」という現実の解決策として、「中小企業に対して入社後の一定期間は解雇規制の対象外とする」ことを提言しているということ。

この主張が、自らが挙げている課題の解決策などになり得ないことは、難しい理論などを用いるまでもない。それは、日本が今、「正規雇用の減少と非正規雇用の増加」や「若者の雇用」という現実の問題に直面していることを無視したものだからである。

こうした雇用問題を抱えるなかで、この日本を代表する経済紙の主張を取り入れ「中小企業に対して入社後の一定期間は解雇規制の対象外とする」ことにすれば、300人未満の企業に就職した若者は、「本人の適性をみて」という企業サイドの曖昧な理由による雇用不安に晒されることになる。結果、雇用不安を避けたい若者は、「解雇規制の対象となる大企業」に集中することになり、中小企業の採用活動はますます厳しさを増し人材不足に陥ることになる。こうした事態を避け、人材採用を優先しようとする中小企業は「解雇規制の対象」に留まる選択をするはずである。

日本経済新聞の提言は、中小企業の求人活動をより厳しくするか、中小企業に無駄なコストをかけて現在と同じ状況を維持させるか、どちらかでしかない。

「中小企業は独自技術で付加価値の高い製品を開発したり、地域に密着して顧客を広げたりと、元気のいい企業も少なくない。あまり知られていないが成長力のある企業と学生を結びつけたい」

この社説ではこのような尤もらしい主張もしている。しかし、センミツ(千に3つ)と言われるほどベンチャー企業の新規公開が難しいだけでなく、(古いデータであるが)新設法人の企業生存率が1年後60%、3年後38%、5年後15%、10年後5%という調査結果からも明らかなように「あまり知られていないが成長力のある企業」は数が少ないという現実を無視したもの。「成長力のある企業」を見つけ出す専門家であるベンチャーファンドですら見極めが難しい現実がある中でのこうした主張は、現実離れした夢物語でしかない。

「学生の就職率」という数値を目標に据えれば、「あまり知られていない成長力の定かでない企業と学生を結び付ける」ことは意義のあることかもしれない。しかし、多くの学生が、何時まで存続できるか不確かな企業に、何時まで働き続けられるのかも不確かの条件で就職したのでは、それは野田前総理の「今日より明日はよくなると思うことのできる、確信の持てる社会、実感の持てる社会」の実現は遠のくばかりである。

「人件費の余裕があまりない中小企業では、こうした解雇規制が採用に消極的になる一因だ」

従業員数3,205人、売上1708億円(共に2011年12月)を誇り、「人件費の余裕」は十分にあると思われる日本を代表する経済紙、日本経済新聞社。この会社の採用実績は、2009年度59名、2010年度22名、2011年度29名、2012年度34名と、「消極的」と思われても仕方のないものとなっている。

「人件費の余裕のあまりない中小企業」に対して、「入社後の一定期間は解雇規制の対象外とする」という提案をする前に、大企業としてやるべきことがあるはずである。

「人件費の余裕があまりない中小企業では、こうした解雇規制が採用に消極的になる一因だ。入社後の一定期間は解雇規制の対象外とすることを検討してはどうか」などという主張は、この新聞社が「大企業病」に罹っていることの証明でしかない。

この新聞社が主張するような「企業寄りの思想」から決別した、「次元の違う」雇用対策が第2次安倍内閣の目指すべき道であり、「日本経済を取り戻す」ための必要条件である。
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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