「官民ファンド」を成長戦略の柱とした緊急経済対策 ~ 「ファンド」に対する幻想に期待する政策

「政府は7日、緊急経済対策の概要を固めた。公共事業の上積みのほかに民間企業の投融資の呼び水となる官民ファンドを相次ぎ創設し、産学協同の先端研究にも思い切って予算配分する。官民一体で日本経済の再生に取り組む方針を前面に打ち出す」

「真水」10.3兆円、事業規模20兆円超の緊急経済対策の骨子案が明らかになった。その特徴は「官民基金」が「成長戦略の柱」となっているところ。

「国際協力銀行を中心に日本企業による海外進出を支援する官民ファンドを創設」「日本政策投資銀行が異業種連携や休眠技術による新事業創出を促すファンドを創設」「不動産の省エネ・耐震化を促す官民ファンドの創設」

「緊急経済対策の主な事業」として挙げられている中にも、これらの「ファンド創設」が「成長による富の創出」手段として並べられている。しかし、「官民ファンドの創設」が実際に「成長戦略の柱」となりうるのかには若干の疑問である。

日本人にとって、「ファンド」という言葉は、思考力を停止させる魔法のようなものである。ある時は「ファンドは悪事を働くために使われるもの」となり、ある時は「ファンドは何でも解決してくれる魔法の杖」の如き扱いを受ける。

今回の「官民基金」における美しき誤解は、「ファンドが需要を生み出す」かのように扱われていることである。当たり前であるが、ファンド自体は需要を生み出すわけではない。ファンドとは不確実性があるものの収益性のある事業に対する資金調達手段/資金提供手段であり、ファンドが組成されることで需要が生み出されるわけではない。

「異業種連携や休眠技術による新事業創出を促す」や、「不動産の省エネ・耐震化を促す」ことの必要性について反対する人は殆どいないだろう。しかし、具体的にどのようなビジネスで、どのように収益を上げて、集めた資金にどのようにしてリターンを加えて返済していくのかをイメージするのは難しい。こうした事業から収益を上げられる機会があり、具体的イメージが容易であるのだとしたら、「現場感覚を重視」で「産業競争力会議」の民間メンバーに選出された7名の現役企業経営者達がとっくに実行に移していて然るべきである。

「日本企業による海外進出を支援する官民ファンドを創設」は、挙げられた中では最も現実性が高く、収益を分配していくことが可能なもの。しかし、問題はその必要性があるのかという点である。

日本の対外直接投資は、2011年で1157億3200万ドル(約10.1兆億円)と、2000年比では3.67倍、2005年比でも2.55倍に増えて来ている。その結果、日本の海外現地法人の内部留保残高は20兆円超に達している。こうした状況のなかで、「官民ファンド」を新たに創設して、国が海外進出を後押しする必要性があるかは意見が分かれるところのはずである。

「産業競争力会議」の民間メンバーに選出された現役企業経営者達に求められているのは、「中国をはじめアジアの成長力を取り込むための意見」のようである。しかし、もっと重要な問題は、「中国をはじめアジアの成長力を取り込んだ結果得られた企業の利益」を、如何にして国の財政に還元させるかという点である。この点に関して現役企業経営者達は適切な意見を持ち合わせているのだろうか。

「政府系金融機関が普通株・優先株や返済順位の低い劣後ローンなどリスクが高めの資金を供給することで、民間金融機関による出資・融資の呼び水とし、民需や雇用への波及効果を高める狙いがある」

日本経済新聞はこのような教科書的な説明を加えている。しかし、これは「官民ファンド」が損失を出した場合は、政府系金融機関、要するに国が損失を負担するということ。ここでは当然国民の税金が使われることになる。さらに、実質的に国が「リスクが高めの資金を供給する」ことは、民間金融機関による出資の呼び水にはならない。自己資本比率等に縛られた金融機関は、ローンレンダー(融資者)になっても、エクイティ投資家(出資者)にはなり得ないのが金融の現実である。

ファンドというのは、調達出来る資金を短期間に使い切るものではない。収益を生む事業か否かの分析(デューデリジェンス)に何か月かの時間が必要だからである。今回の緊急経済対策の「真水」は10.3兆円とされているが、このファンド出資がこの「真水」に含まれていることを考慮すると、今回の緊急経済対策の経済浮揚効果は、事業規模20兆円から割り引いて見積もる必要がある。

「官民ファンド」に「景気底上げ 即効性重視」を求め過ぎれば、事業に対するデューデリジェンスが甘くなり、将来国民負担となって返ってくる可能性が高くなる。また、「官民ファンド」に「将来の国民負担が増えないこと」を求め過ぎれば、事業規模が小さくなり、景気浮揚効果は期待出来なくなる。

金融市場を筆頭に、アベノミクスに対する期待は膨らんで来ている。しかし、今回明らかになった緊急経済対策の中身から浮かび上がってくることは、安倍政権は、現実としての成長戦略を描くのに苦労しているということである。安倍政権が緊急経済対策に期待しているは、即効性のある景気浮揚効果よりも国民の間に宿る「ファンド」に対する様々な誤解に基づく、アベノミクスに対する期待延長効果かもしれない。
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近藤駿介

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