マスコミから批判を浴びる「緊急経済対策」~ 問題なのは「公共事業中心の経済対策」ではなく、「財政政策が効かない社会」になって来ていることである

「ニューヨーク外国為替市場では円が対ドルで下落。2010年6月以来の安値を付けた。安倍政権が国費10兆3000億円を費やす緊急経済対策を決定したことが売りを誘った」(Bloomberg)

11日に政府が決めた「緊急経済対策」に対するマーケットの反応は、政府の期待に沿ったものとなった。物の価格が下落する「デフレ経済」下では、実質金利(=名目金利-インフレ率)の高い現金を保有するのが投資家にとって最良の「デフレヘッジ」対策。

経済浮揚を図る「緊急経済対策」で円が売られるというのは、金融市場が円通貨を保有することによる「デフレヘッジ」効果が剥げ落ちて行くこと(実質金利低下)を想定し始めているということ。金融市場では、安倍総理の言う「インフレ期待」は確実に醸成されている。

一方、「緊急経済対策」に対するマスコミの評価は、いま一つのようだ。

12日付の日本経済新聞では、「即効策の公共事業頼み」という見出しで「対策の大黒柱は民主党政権下で減らされてきた公共事業の復活だ。今回増額した公共事業の規模は5兆円に上る」と報じるなど、批判的な記事が多く並べられている。

「問題は国費の半分を占める公共事業の妥当性である。東日本大震災からの復興や老朽化したインフラの更新に一定の投資が必要なのは確かだが、不要不急の事業も紛れ込んでいるようにみえる。補修や耐震強化を急いだ方がいい道路、橋、学校などをしっかりと選別できるのか。農林水産業や地域経済の活性化に、これだけの予算が本当に要るのか。そんな疑問を抱かずにはいられない」

同日付の「公共事業頼みの経済対策で終わらせるな」という社説でも、このように「公共事業を中心とした緊急経済対策」に疑問を投げかけている。そのうえで、次のような主張をしている。

「今の日本が重視すべきなのは、新たな産業や技術の育成につながる施策だ。電気自動車の普及に欠かせない充電拠点の整備や、iPS細胞を使った再生医療研究に予算を投じるのは理解できる。設備投資や給与を増やす企業を税制面で支援するのもいいだろう」

「電気自動車の普及に欠かせない充電拠点の整備や」というが、これが日本を代表する経済紙が「吟味された事業」「妥当性のある事業」であるのというのだろうか。技術的蓄積の集大成でもあるエンジンではなく、モーターを使う電気自動車の普及は、これまで日本の自動車産業が積み上げてきた国際競争力を放棄するものでもあり、現時点で「国益」になるかは慎重に議論検証すべきもののはずである。

「今の日本が重視すべきなのは、新たな産業や技術の育成につながる施策だ」という「あるべき論」に反対する者は殆どいないだろう。しかし、具体性のない事業に予算を付けることは困難であるし、少なくとも「緊急経済対策」の対象になるものではない。

日本経済新聞は、「公共事業中心の緊急経済対策」に批判的である。その理由の一つとして「人材不足」を挙げている。

「これまでの事業削減のあおりで建設業や自治体の人員が減っているためだ」「2%の達成が難しい理由の一つは建設業の人材不足だ。東日本大震災後、当時の民主党政権が巨額の復興事業に取り組んだことで建設業の求人が急増。しかし、少子化などの影響もあり、現場の人材が集まらず、予算を円滑に消化できていないのが実情だ」

確かに、建設業就業者総数は1997年の685万人をピークに毎年減り続け、2011年には473万人(2011年は岩手県、宮城県及び福島県を除く)まで、200万人以上減少して来ている。しかし、これは「少子化などの影響」よりも、公共事業費が1999年度の14.9兆円から2011年度には6.2兆円(共に補正込)へと、10年ちょっとの間に大幅に削減されてきた「失政」の影響の方がずっと大きいはずである。(蛇足であるが、筆者が卒業した早稲田大学理工学部土木工学科も2003年に消滅、「社会環境工学科」に名称変更・改組されている。)

日本を代表する経済紙は「人材不足により予算を円滑に消化できないから公共事業中心とした緊急経済対策はダメだ」という主張を展開しているが、「人材不足により公共事業を円滑に消化できない状況」こそが大きな問題であり、公共事業を増やさなければならない大きな理由である。

1990年のバブル崩壊では、金融政策に直接影響を受ける、金融業界や不動産業界が不良資産の処理や、それに伴う自己資本の毀損という大きな打撃を受けたことで、「金融政策が効かない社会」となった。そして今は、過度な「公共事業費罪悪論」に基づいて必要以上に公共事業を削減した結果、「人材」がボトルネックとなり「財政政策が効かない社会」になってしまっている。

こうした状況を打破するためには、一時的に公共事業を増やすのではなく、今後一定量以上の公共事業を維持し、企業が安定的に人材を採用出来る方向に政策転換を図らなければならない。政策金利がほぼ0%になり、物理的に「金融政策が効かない社会」になった今日、これ以上「財政政策が効かない社会」に突き進むことは、国を滅ぼすことに他ならない。

日本経済新聞が「公共事業を中心とした緊急経済対策」に批判的なのは、公共事業そのものに問題があるというよりも、安倍政権が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加を表明しないことに苛立っているからのようである。

「公共事業には景気対策としての即効性はあっても、持続力は乏しい。日本経済の成長力を高めるには、企業や個人の活力を引き出す環境づくりが欠かせない。環太平洋経済連携協定(TPP)への参加や法人税減税を柱とする成長戦略を早急に打ち出してほしい」

12日付の社説にも、その根拠は示さずに「TPPへの参加=成長戦略」かのような「中身が吟味されていない」「妥当性のない」結論を付け加えている。そもそもTPPへの参加が「緊急経済対策」に相応しい内容なのかということなどは、この新聞にとってはどうでもいいことのようだ。

社説以外でも、「魔法の杖はない。医療・介護・労働の規制緩和をやる。環太平洋経済連携協定(TPP)などで国を開き、女性や高齢者の労働参加を増やす。電力不足に万全を期す。首相が改革に足踏みしている余裕はない」(緊急経済対策20兆円 成長へ二の矢、三の矢を)、「ただ、一段高には『環太平洋経済連携協定(TPP)参加に向けた交渉の進展など追加政策が必要』との指摘もある」(円安・株高一段と 日経平均1万8000円台 個別政策にらみ流れ加速)等々、毎度のことではあるが、緊急経済対策に関する記事の中に、呆れるほど多くの「TPPサブミナル」が埋め込まれている。

「共産党政権にわりあい批判的な同紙に対し、メディア統制を担当する共産党の宣伝部門はしばしば干渉してきた。今回の記事すり替えはとりわけ粗暴で、掲載された記事には誤りも目立った。 記者たちがネットなどを通して抗議しストライキまで示唆したのは、我慢も限界に来たのだろう。一党独裁体制の下で異議の声を上げた彼らの勇気をたたえたい」

12日の日本経済新聞には、「公共事業頼みの経済対策で終わらせるな」という社説と並んで、「醜悪な中国のメディア統制」という社説を掲載。その中で「一党独裁体制の下で意義の声を上げた」中国のマスコミの勇気に賛辞を送っている。

スポンサーである経済界や財務省の「宣伝部門」と化して来た感の強いこの新聞の報道に、「必ずしも正しくない」ものが目立つことは周知の事実。「南方週末」に対して「一党独裁体制の下で異議の声を上げた彼らの勇気をたたえたい」とエールを送るこの新聞が、スポンサーである経済界や財務省などに媚びることなく、勇気を持って公正中立な報道をする日は、果たしていつ来るのだろうか。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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