唯我独尊「新聞に軽減税率適用を」 ~ 軽減税率適用よりも前にやることがある

「新聞は、国の内外で日々起きる広範なニュースや情報を正確に報道し、多様な意見・論評を広く国民に提供することによって、民主主義社会の健全な発展と国民生活の向上に大きく寄与しています」

16日付の新聞各紙には、こうした書き出しで始まる「新聞協会の声明文」と共に

「日本新聞協会が2012年11月に全国の成人男女を調査したところ、消費税引き上げ時に生活必需品などに対する軽減税率を『導入すべきだ』『どちらかというと導入した方がいい』との肯定的な意見が84.0%を占めた。このうち、新聞・書籍に対する軽減税率導入に肯定的な意見は75.3%に達した」

という、多くの国民が新聞・書籍に対する軽減税率導入に肯定的であることを大きく報道している。日本経済新聞はこの記事に「新聞・書籍には75%」という見出しを付けて報じているが、75%というのは、「軽減税率を求める国民のうちの75%」ということで、「国民全体では63.25%」ということ。「国民全体では63.25%」を、「新聞・書籍には75%」という見出しで報じることが、「広範なニュースや情報を正確に報道」することになるのだろうか。むしろ、新聞業界に都合の良い錯覚を生ませる歪んだ報道だと非難されても仕方がないもの。

また、この報道は、あたかも国民の多くが、新聞・書籍に対しては「特別に軽減税率を導入すべきだ」と考えているかのような印象を与えるような内容になっている。生活コストの上昇を抑えたいと思っている国民の多くは、対象が「新聞・書籍」でなくても、例えば塾の月謝や、洋服などが対象であったとしても、「軽減税率を導入した方が良いですか」と聞かれれば、生活が少しでも楽になるという理由で「Yes」と答えるはずである。

今回の新聞協会の調査からは、国民が「知識には課税せず」という新聞協会が尤もらしく掲げる理由で、新聞・書籍に対して「特別に軽減税率を導入すべきだ」と考えているとは言い切れない。日本百貨店協会や日本アパレル・ファッション産業協会が、同じような調査をしても、同じような結果が出る可能性はある。新聞業界が「特別」なのは、自らの業界にとって都合の良い調査を公表する媒体を持ち合わせているというところ。各業界団体が同じような調査を行えば、「全てのものに対して軽減税率を導入すべきだ」という同じような結果となり、全体として新聞業界が旗振り役を務めて来た「消費増税」に対して「反対」ということになる可能性は否定できない。

日本新聞協会が行った今回の調査の問題点は、通常の世論調査などの場合は、質問内容を全て公開するのが一般的であるにも関わらず、質問形式や質問項目について全く公表していないこと。質問形式によって調査結果が大きく変わる可能性があることは周知の事実であり、今回の調査内容を新聞協会がホームページ上にも公開していないことには疑問を感じずにはいられない。

新聞協会の発表では、2011年度の協会加盟93社の総売上は1兆9525億円、その内「販売収入」は1兆1643億円である。仮に、消費税が10%に引上げられた際に、新聞に軽減税率を導入し5%を維持した場合、1兆1643億円×(10%-5%)≒582億円 の税収が減ることになる。これは購読者にとってはありがたいことではあるが、ネットが発達し、多くの国民がネットを通して情報を得られるようになっている今日、こうした恩恵を新聞業界にだけに「特別に」与える必要性の有無に関しては「多様な意見・論評」が出てくるはずである。しかし、新聞協会は一切触れていない。

「欧州各国では、民主主義を支える公共財として一定の要件を備えた新聞、書籍、雑誌にゼロ税率や軽減税率を適用し、消費者が知識を得る負担を軽くしています。『知識には課税せず』『新聞には最低の税率を適用すべし』という認識は、欧米諸国でほぼ共通しています」

日本新聞協会は、発表した声明文の中で、つい最近国民の信を失って退陣した総理のごとく、「知識には課税せず」という耳触りの良いキャッチコピーをつけて、新聞・書籍に対する軽減税率の導入の正当性を強調している。「知識に課税せず」というのであれば、学習塾や自己啓発セミナー等々も軽減税率の対象にすべきだと主張してもいいはずである。そもそも、新聞の購読によって「正しい知識」が得られるかは疑わしい限りである。

「近年、いわゆる文字離れ、活字離れによってリテラシー(読み書き能力、教養や常識)の低下が問題となっています。国や社会に対する国民の関心の低下が懸念される状況です。国民のリテラシーが衰えていくことは、国の文化政策としても好ましいことではありません」

新聞協会は、「リテラシーの低下」までも、軽減税率導入の理由の一つに挙げて来ている。新聞社の「販売収入」は、10年前の2001年度の1兆2858億円から2011年度の1兆1643億円まで、1215億円、率にして9.44%低下して来ている。こうした事実を新聞協会は「リテラシー低下」の原因であるかのように決めつけているが、これは如何なものだろうか。「リテラシー低下」は問題かもしれないが、新聞・書籍に軽減税率を「特別に」導入することで解決出来る問題ではないことは確か。

新聞の売上が落ちて来ているのは、ネットの普及という社会的現象だけでなく、今の新聞が「広範なニュースや情報を正確に報道し、多様な意見・論評を広く国民に提供する」という、新聞協会が掲げる本来の使命を達成できていないと国民に見做されて来ていることも、一つの要因であるはずである。

消費増税の旗振り役を果たしてきた新聞が、新聞・書籍に関しては軽減税率の導入を求め、内容が明らかにされない調査結果で「新聞・書籍に対する軽減税率導入に肯定的な意見は75.3%に達した」と誤解を生じさせかねない表現で、自らが行った調査結果を都合良く大々的に報じる新聞業界の姿から、「民主主義社会の健全な発展と国民生活の向上に大きく寄与」しているという新聞協会の主張を素直に受け入れる国民がどれほど残っているのだろうか。新聞業界も「身を切る改革」が必要不可欠である。軽減税率適用を主張するよりも前にやることがある。
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