拡がる「法民税制格差」~「国際比較」から優遇される法人、「国際比較」とは関係なく縮小される相続税基礎控除

「政府・自民党は19日、企業の研究開発を後押しする減税制度について、法人税額から差し引ける控除の上限を税額の20%から30%へ1.5倍に上げる方向で最終調整に入った」

企業の「国際競争力向上」の下に、法人税減税の拡大が続いている。「我が国の法人のうち、利益を計上し法人税を納めている法人は3割程度であり、残りの7割の法人は欠損法人になっています。資本金1億円超の大会社に限ってみても、利益を計上している法人は5割程度であり、残りの5割は欠損法人となっています」(財務省HP「税制について考えてみよう」)という状況の中、国は直ちに実現できない「法人税を納める法人の数を増やす」政策に先行して、「現在法人税を納めてくれている法人」を優遇する方向に動いている。

これに対して、個人向け税制。平成25年度税制改正の焦点である富裕層増税については、「最高税率を現行の50%から55%に引き上げて相続財産6億円超の部分に適用」「基礎控除は現行の『5000万円+1000万円×法定相続人数』を、『3000万円+600万円×法定相続人数』に約4割縮小する」ことで、自民、公明、民主の3党間で決着がついたことが報じられている。

相続税増税が実施されるのは、「亡くなった人のうち相続税の課税対象は現在約4%にとどまる。消費税増税を前に国内の格差是正を図るには、基礎控除の縮小が避けられない」との判断に基づくもの。こちらは、「現在税金を納めてくれている個人」を優遇するのでなく、「税金を納めてくれている個人により多くの負担を」と「税金を納める個人の数を増やす」の増税二刀流。

「相続財産6億円超の部分」の最高税率が5%引き上げられても、殆ど影響はないし、税収増もたかが知れている。税率が上がるのは6億円「超」の部分だけであるし、相続税評価額が6億円以上ある富裕層、例えば相続税評価額が10億円の人の増税額は、「6億円超」の4億円の部分の税率が5%上がることによる僅か2000万円に過ぎないからだ。庶民にとっては大金でも、相続税評価額 が10億円(時価はゆうに10億円以上)の人にとっては、それほど大きな問題ではない。

問題は「基礎控除の4割縮小」。基礎控除を引下げる目的は、「亡くなった人のうち相続税の課税対象は現在約4%にとどまる」現状を改善し、課税対象を広げようというもの。

相続税は非課税の範囲内であれば申告する必要がないため、基礎控除を「3000万円+600万円×法定相続人数」に引下げた場合に、どの程度課税対象が増えるのかは定かではない。しかし、法定相続人が(例えば奥さんと子供二人の)3人だとすると、今まで8,000万円であった非課税枠が、今後は4,800万円となり、富裕層とはとても言えない、多くの小金持ちも相続税を徴収されることになる。

巷間言われている「老後に必要な金融資産」を持って亡くなられた人は、殆どが課税対象になって来るということ。勿論、亡くなられた時点でその人の「老後に必要な金融資産」はほぼ0になるから、理屈上は問題はないのだろうが、残された配偶者がいる場合には、その配偶者に「老後に必要な金融資産」が遺せなくなる可能性はある。

「相続財産6億円超」を対象とした相続税率引上げと、「基礎控除の4割縮小」とは、富裕層増税といっても「次元の違う」もの。「基礎控除の4割縮小」は富裕層とは言い切れない層にまで課税の網を掛けるものでもある。こうした増税は、消費増税の逆進性を和らげ、資産格差を是正するという大義名分を掲げさえすれば、国民から反対が起こり難い国にとって都合の良い政策。

「法人実効税率(国の法人税と地方税を調整した後の表面上の税負担率)の水準を国際的に比べると、我が国はアメリカとほぼ同じ水準であり、それ以外の先進諸国を上回る水準となっています」(財務省HP「税制について考えてみよう」)

法人税減税の必要性の根拠として挙げられるのは「国際比較」である。曰く「日本の法人実効税率は諸外国に比較して高い」。ゆえに「国際競争力」を維持するためには「法人税減税が必要である」と。

ひるがえって相続税の基礎控除額。相続税基礎控除額に関しては、「米国では控除額は一人当たり500万ドルだ」(THE WALL STREET JOURNAL 2013/1/11 「日本も最富裕層の所得税、相続税引き上げへ-税収増はわずか」)という「国際比較」の議論は、完全に封印されている。

「国際比較」という観点から「競争力」を維持するために「切れ目のない優遇策」が打ち出される「法人税制」。これに対して、「国際比較」など関係なく、国内要因で「切れ目のない増税策」が打ち出される「個人税制」。

全産業の売上高1385兆円強(H22年度「法人企業統計年報」)の約20%に相当する約260兆円の内部留保(上場企業の預貯金は60兆円)を持つといわれる企業に対して「切れ目のない優遇策」が打ち出されるのに対して、「老後に必要と言われる金融資産」にまで税の網を掛けられる個人。こうした一貫性のない都合の良い理屈に基づいた「法人と個人の格差拡大政策」をとり続ける限り、日本が「個人の購買力」という「国際比較」で劣っていくのは必然なのかもしれない。国民が「今日より明日がよくなると思える社会」の実現は、日々遠のいていくようである。
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