教育資金一括贈与非課税制度 ~家族の「絆」に影響を及ぼしかねない、本当に「非課税」か不確かな政策

「子育て世代にとって負担が重い教育資金についても税制で配慮した。祖父母が教育の資金を一括して孫に贈る場合、1人あたり1500万円までは贈与税を非課税にする。13年4月から15年12月末までの措置となる」

「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が2013年度の税制改革大綱に盛り込まれた。1500兆円と言われる個人金融資産の6割近くを握る高齢者のお金を消費に回させようとするための政策である。

その効果については、「ムードづくりを除けば直接的な効果は限られそう」(25日付日本経済新聞)との指摘がなされている通り、それほど大きな期待がかけられない。今の税制でも年間110万円までは非課税で贈与出来るわけであるから、30歳未満までの孫に贈与したければ最長30年間、110万円ずつ総額3300万円まで非課税で贈与できる計算になる。

孫が30歳になった時点での使い残し金額に対しては贈与税がかかるリスクを考慮すると、今回の「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が、「本来の主旨」に則って利用される可能性は余り高くないはずである。資金使途が教育費に限定されるのであれば、一時に纏めて贈与を受ける必要性は高くない。教育は数年に渡ってなされるものであり、一時に1,000万円も支出が必要な教育費など「本来の主旨」に則らないもの。

「祖父母が教育資金を支出する雰囲気づくりになる」という指摘もあるが、一方では「危険なムード」を作り出しかねないリスクもある。それは、贈る側と受け取る側の認識ギャップを顕在化させ、家族間に「微妙な雰囲気」を醸成してしまうリスクである。

「子どもへの財産の生前贈与に関しては、『望ましい』とする人が40.0%で、『したくない』(31.0%)を上回っているが、60~69 歳では『望ましい』が35.4%、『したくない』が43.4%と逆転している」(内閣府 平成24年版『高齢社会白書』)

生前贈与に対する意識調査
内閣府の調査によると、贈る側の高齢者は、生前贈与に対して否定的な意見の方が多い。それは、「貯蓄の目的についてみると、『病気・介護の備え』が62.3%で最も多く、次いで『生活維持』が20.0%となっている」(同上)という結果からも明らかなように、貯蓄の多くが、この先幾らかかるか分からない「病気・介護の備え」のための資金だからである。

内閣府の調査結果を見る限り、今回の「贈与税非課税措置」は、「祖父母が教育資金を支出する雰囲気」よりも、現役世代が抱く「祖父母からの教育資金を贈与してもらう期待」の方を高めてしまう可能性は否定出来ない。受け取る側が期待を膨らませる中、贈る側がそれに応えなかった場合、両者の間に「微妙な雰囲気」が醸成されたとしても不思議ではない。

また、孫一人に対して非課税枠が設けられるということは、子供がそれぞれ対象となる年齢の孫を何人持っているかによって、世帯間(兄弟間)で贈与額が異なってくる可能性があるということ。こうした兄弟間での格差も「微妙な雰囲気」を醸成させる要因となるはずである。

今回の「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、「祖父母が教育資金を支出する雰囲気づくりになる」かもしれないが、その一方で自民党が大切にして来た家族の「絆」を傷付ける可能性を秘めたものでもある。

今回の「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」について感じることは、マスコミの報道が極めて不親切なこと。

今回の「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、「相続時精算課税制度の適用要件の見直し」の中で加えられたもの。「相続時精算課税制度」とは、「贈与時の税金を非課税とし、相続が発生した時に贈与時の価額を相続財産に加算すればいい」とするもの。これは贈与税よりも相続税の方が、基礎控除等が厚く税金が安く済むため、贈与時に課税せずに、相続時に課税対象に戻すという制度。

「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は大きく報じられているが、「相続時精算課税制度の適用要件の見直し」の中で加えられたものであることは、あまり報じられていない。

今、「非課税」で孫に教育資金を贈与出来たとしても、相続発生時には譲渡時の時価を相続財産に戻して計算する必要があるので、完全に「非課税」とは言い切れない。

「今、贈与税が非課税になる」ということと、「将来に渡って非課税になる」ということは同義ではない。

さらに今回、富裕層増税の一環として相続税の基礎控除が現行の「5000万円+法定相続人数×1000万円」から、「3000万円+法定相続人数×600万円」に縮小される。現在「非課税」で贈与出来たとしても、基礎控除の縮小によって、将来「相続時精算課税制度」を適用する際に、課税対象になる可能性は十分にある。

孫が30歳になった時点で使い残した資金に対しては贈与税の対象となり、使い切ったとしても、(将来の)基礎控除との兼ね合いで「相続時精算課税制度」によって相続税課税対象になる可能性は十分にある。今の時点で、贈与する側も、受け取る側も、「教育資金一括贈与」が「非課税」だと決めつけるのは早計だと言える。今の時点で確実なのは、毎年110万円以内の贈与は「非課税」ということである。

「資産を持つ高齢者から若年世代への資産移転を図り、消費拡大を通じた経済活性化を狙う」

この方針の是非はともかく、マスコミ等が、如何にも今祖父母から教育資金の一括贈与を受ければ、将来に渡って「非課税」であるかのように報道するのは如何なものだろうか。税金に対して疎いと言われる日本国民を騙し討ちするような報道ではなく、国民が判断するのに必要な情報を公正・公平に伝えるべきである。
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