公共事業に対する歪んだ報道 ~法人税減税やTPPの方が本当に経済効果が高いんですか?

「思ったほどの即効性はない ―。エコノミストの間では、こんな見方が広がる。建設業界で働く人が減り、必要な人手がすぐ集まらない。BNPパリバ証券は13年度中の公共事業の進捗は5割にとどまると読む」

26日付日本経済新聞は、「膨張 公共事業(下)~ 景気刺激 薄れる効果」という特集記事の中で、「長く景気対策の主役から外れていた公共事業だ。成長の呼び水として実力はどうなのか」という疑問を呈するとともに、このような回答を示している。

毎度のことながら、公共事業に対する歪んだ報道には感心するばかりである。こうした「公共事業は一時的なカンフル剤」だと決めつける報道が繰り返されることにより、「景気は気から」ではないが、「公共事業は無駄」という意識が国民の間に植え付けられ、最終的には「必要な人手」が集まらない状況を作り出し、公共事業の効果を薄れさせることになる。

この記事の論法は、「必要な人手が直ぐに集まらない」、だから「思ったほどの即効性はない」、ゆえに「公共事業は成長の呼び水にならない」というものであるが、これはおかしな論理である。

問題なのは、「必要な人手が直ぐに集まらない」ことである。

バブル崩壊後に金融、不動産部門を必要以上に叩き過ぎたことで、金融機関の金融機能が失われ、金利を実質0%に下げても貸出しは増えず、大量の資金を供給しても日銀の当座預金に資金が溜まるだけ、という「金融政策が効かない社会」になってしまった。

こうした「金融政策が効かない社会」に陥ったなかで、「財政政策」まで効かない状況を作り出そうというのは、国家として自殺行為である。有識者が批判すべきは、「公共事業に思ったほどの即効性はない」ことではなく、「即効性を維持するのに必要な公共事業をしてこなかった」ことのはずである。国として、しておかなければならないことは、「財政政策」が効果を生む状況を維持しておくことである。

アベノミクスで公共事業が大幅に増額されることに対して批判的な論調は多い。しかし、1年だけ公共事業を大幅に増やしたところで、「公共事業の即効性」を回復することは出来ない。公共事業が今後継続的に実施される目途が立たなければ、建設業界を目指す若者も増えないし、建設会社が雇用を増やすことも難しいからである。

筆者が土木の技術者であった1980年代には考えられなかったことであるが、現在の建設現場では、現場監督が、請負会社の社員でなく、派遣会社から派遣されてくる「派遣社員」に占められるようになっている。独立採算制をとる工事現場では、自社社員の給与もコストであり、これを削減することが採算を維持するために人件費の削減は必要不可欠だからである。

「派遣現場監督」が可能になり、建設会社にコスト管理上の大きなメリットをもたらしたことは、規制緩和の成果なのかもしれない。しかし、その陰で、技術の継承や、不安定な立場の建設技術者を多く作り出したことで、建設技術者を目指す若者を減らすという代償を払っていることは忘れてはならない。

「公共事業が民間の消費や投資を刺激する効果も、過大な期待はしにくい。内閣府の計量モデルによると、公共投資の追加が民間の消費や投資を生み、最終的に実質国内総生産(GDP)がどのくらい増えるのかを示す乗数は1前後にとどまる。高度成長期の1960年代には2を超えていた」

この記事では、公共事業の「即効性」だけでなく、「内閣府の計量モデル」を持ち出して「景気刺激効果」についても疑問を投げかけている。ここで示されている通り、社会インフラが整っていなかった60年代に比較して「乗数効果」が薄れて来ていることは確かだろう。しかし、「計量モデル」というのは様々なモデルが存在する上に、与える条件によって結果を変えることもできる代物であり、数値自体は必ずしも客観性を持ったものではない。「内閣府の計量モデルによると乗数が1前後にとどまる」ことを以て、公共事業の乗数効果は低い、無駄であると断じるのは乱暴である。

乗数効果が低下して来ているのは、人・物が動かなくなって来ているからである。その背景として、高齢化や、企業の海外進出による国内の空洞化などが考えられる。本来ならば、交通網の発達によって企業の地方進出が図られ、そこで雇用が発生することで乗数効果は上がり、建設された道路等の投資効果(投下資金の回収)も上がるはずである。しかし、今は企業の海外進出により産業の空洞化が進んだことなどもあり、こうした乗数効果や投資効果の上昇は望みにくくなってしまった。

「アジアの成長を取り込む」というキャッチコピーを掲げ、国策として企業の海外進出を後押ししようとしているなかで、国内の公共事業に乗数効果と投資効果を求めるというのは、所詮無理な話である。

「環太平洋経済連携協定(TPP)への参加や法人税減税を柱とする成長戦略を早急に打ち出してほしい」

今回の特集記事も、お得意の「TPPサブミナル記事」で結ばれている。

乗数効果を公共事業の判断基準にするのであれば、景気刺激策として打ち出されている各種の法人税減税の乗数効果も計るべきである。どちらも国家財政に負担を強いるという点では同じなのだから。法人税を支払っている企業が全企業数の30%という現実を考えると、法人税減税の乗数効果が公共事業以上であるかは疑わしい。

仮に乗数効果が公共事業よりも大きかったとしても、規模の面では数分の1、数十分の一であり、国全体の経済規模の拡大に対する寄与度では大きく見劣りするはずである。自民、公明両党が24日に決定した2013年度税制改正大綱で見込まれている法人税の減税効果は僅か「平年度で年約3300億円」であり、乗数が16程度ないと「乗数効果が1前後の公共事業」と、同等の経済効果が得られない計算になる。

「乗数効果が1前後」と低いことを理由に公共事業を批判し、何の検証もなしに法人税減税やTPPを「成長戦略の柱」だと主張を繰り返すマスコミ。

法人税率が12.5%とユーロ圏で最低水準にあるアイルランドが財政破綻し、昨年3月の米韓FTAで「国を開いた」韓国の2012年の実質GDP(速報値)が前年比2.0%増と11年の3.6%増から伸び率が大きく鈍り、リーマン・ショックの影響を受けた09年(0.3%増)以来の低水準となった事実の前で、何時まで法人税減税とTPPが「成長の柱」だという無責任な主張し続けるつもりなのだろうか。
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