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アベノミクスに必要な次期日銀総裁~固定観念に基づいた「次元の違う金融緩和」ではなく、「柔軟な金融政策」を実施できる人物

「われわれが政策を発表しただけで円は下がった。下がったことで一体、何人の雇用が守られたか。日銀には謙虚に考えてもらいたい」

安倍総理がこうした発言をしたのは総選挙前の昨年11月22日。「円は下がった」といっても当時はまだ82円台半ばと、ようやく80円台に乗って来たところ。それから円は年末には86円台、そして先週末には92円台半ばまで下落して来ている。

3円ほど円安に振れた時点で「一体、何人の雇用が守られたか」と大胆発言した安倍総理には気になる統計が総務省から発表された。

「総務省が1日発表した2012年12月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.1ポイント上昇の4.2%で、8カ月ぶりに悪化した。建設業や製造業を中心に就業者数の落ち込みが激しかった。年末にかけて電機メーカーなどでリストラが増えた影響とみられる。…(中略)… 12月の就業者数は季節調整値で前月と比べると35万人減で、2カ月連続の減少。…(中略)… 完全失業者は7万人増え、278万人となった。非自発的な理由で離職した人は111万人で、前月から15万人増えた。増加幅はリーマン・ショック後の09年6月以来の水準。このうち7割程度がリストラなど勤め先の都合による離職だった」

野田前総理が党首討論で突然「自爆解散宣言」をした11月14日から、日経平均株価は年末まで20%、先週末までで約30%と上昇して来ている。こうした円安・株高によって、世の中の景況感はムード的には回復して来たようだが、昨年末時点での日本の雇用情勢は、円安で最も恩恵を受けるはずの「電機メーカーなどでリストラが増えた」ことで、依然として回復の兆しが見えないという皮肉な結果となっている。

2ヶ月強前、3円ほど円安に振れた際に安倍総裁が日銀に投げかけた、「(円が)下がったことで一体、何人の雇用が守られたか」という問いに対する答えは、「86円台まで円安が進んでも、ほとんど守られなかった」というものだった。

先月22日に発表された「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」において、結局「雇用」は政府、日銀どちらの責任にも含まれなかったが、日銀の本音は、「一体、どこまで円安になったら雇用が守られるのか。政府や企業に聞いてみたい」というものに違いない。

「金融政策に関する私の考え方を理解していただき、確固たる決意・能力でデフレ脱却という課題に取り組んでいく方を人選していきたい」

「(円が)下がったことで一体、何人の雇用が守られたか」という大胆発言の結果が、思ったものではなかったことが統計で明らかにされたが、安倍総理は4月に任期の切れる白川日銀総裁の後任についてこのように述べ、あくまで「次元の違う金融緩和」を実行する人物を日銀総裁に据える方針を見せている。

任期が4年の衆議院議員で、任期3年の自民党総裁(2期まで可能)である安倍総理が、任期5年の日銀総裁の選出に際して、「私の考えを理解」して「次元の違う金融緩和」を実行することを条件にするのは果たして正しい姿なのだろうか。現時点で「次元に違う金融緩和」が有効な政策だったとしても、今後政権が変り、それとともに政策が変った場合、日銀総裁も政策方針を変更するのか、はたまた、次期総理も「私の考えを理解」する総裁を選び直すというのだろうか。こうしたガバナンスは共産党が中央銀行を支配しているお隣中国と同じものである。

ここ数年、日本が必要以上の円高に見舞われて来た責任の一端は、「柔軟な金融緩和」をして来なかった「日銀の無策」にある。しかし、間違ってはならないことは、中央銀行が通貨の供給量(ハイパワードマネー、ベースマネーといわれる中央銀行がコントロール可能な資金)を増やしたからと言って、必ずしも通貨安になるとは限らないということ。為替レートは他国との「(見込みを含めた)相対比較」で動くものであり、日銀が通貨供給量を増やしたとしても、他国がそれ以上に通貨供給量を増やせば円安にはなり難い。

ここ数年の「日銀の無策」は、欧米が通貨供給量を増加させる中で、「相対的」に通貨供給量を増やさなかったことである。日銀は、GDPに対する通貨供給量が「相対的」に多いということばかりを主張し、実際の通貨供給量が他通貨と比較して「相対的」に少ない状況に目を向けなかった。為替レートは通貨の交換で決定されていくものであるから、比較すべきものは、自国のGDP規模ではなく、通貨供給量そのものであるべきであった。

リーマン・ショックや欧州ソブリン危機等により「安全通貨円」の需要が増えた局面で、円の供給量が「相対的」に少なければ必要以上に円が値上がりしてしまうのは経済原理からも当然のこと。日銀が「安全通貨円」の需要増に応じて柔軟に「相対的」通貨供給量を増やす、「次元の違う金融緩和」をしていれば、必要以上の水準まで円高が進行することは防げたはずである。欧米と日本の通貨供給量の差は、昨年1年間通して概ね50~100兆円規模であり、1か月に10兆円規模などという日銀の為替介入などでは埋め合わせられる規模ではなかった。

安倍内閣が誕生して円安に転じて来たのは、日銀が「次元の違う金融緩和」を受け入れざるを得ない状況に追い込まれたことに加え、米国で金融緩和の「出口論」が出始めたこと、欧州で流動性供給オペ(LTRO)の返済額が予想以上の規模となり資金供給量の増加が鈍る可能性が出て来たことで、日本と欧米の通貨供給量の差が縮まる可能性が高まったことある。

もし、安倍総理が「85円~90円」が適正とした「石破ライン」で為替レートを安定させたいのであれば、欧米で通貨供給量の増加に歯止めが掛かる可能性が出て来ている局面では「次元の違う金融緩和」にもブレーキを掛けなければ、為替市場で必要以上の円安が進行する可能性もある。

円安の効果は、雇用には及んでいないが、ガソリンや灯油価格という国民生活に身近なところに及んできている。雇用が増えない中での過度な円安による物価上昇。こうした国民が被る「実質可処分所得の減少」という副作用を防がなくては、アベノミクスは国民の支持を得られずに道半ばで頓挫することになり、第二次安倍政権も短命で終わることになる。そして、安倍総理が退陣した後も、安倍総理の考えを理解した日銀総裁が景気回復を目指して「次元の違う金融緩和」を続けた際、日本経済はどうなるのだろうか。

次期日銀総裁に必要な資質は、金融政策万能主義や、インフレターゲット論といった学会の固定観念にとらわれずに「柔軟な金融政策」をとれる人物である。「博士号」という「過去の出来事を熟知している」称号など「必要条件」に過ぎない。金融政策が、学者の自説の正当性を証明するための実験台に使われるようなことはあってはならない。未来に向かっている我々に求められているのは、「強い経済を取り戻す」のではなく、「強い経済を作り出す」ことなのだから。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

著書

202X 金融資産消滅

著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

著書

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