アベノミクス成功のために必要なもう一つのタブー ~「私の考えを理解して賃上げを実行する財界首脳」

「為替の円安が海外展開をする企業に幅広く恩恵をもたらし始めた。上場企業の2012年4~12月期決算では輸出採算の改善だけでなく、外貨建てで保有する資産を円に換算した際の評価額が膨らみ、為替差益が発生している。日本経済新聞が8日時点で1373社の決算を集計したところ、為替差損益は前年同期より約5300億円改善した。自己資本も13兆円増えるなど財務改善の効果も大きい」

「企業に優先的に恩恵をもたらし、それによって個人への恩恵波及を目指す」アベノミクスの効果が、早くも上場企業の収益に現れ始めた。問題は、企業に優先的にもたらされた恩恵が個人に及ぶかである。

「3カ月前に考えられたか。われわれの政策が経済を変えていく」

安倍総理は8日の衆院予算委員会で、ローソンが社員の年収引き上げを発表したことに触れ、アベノミクスの効果を強調するとともに、週明けに経団連や経済同友会の代表らと会談し、経営者が賃金の引き上げに積極的に取り組むよう要請する方針を示した。

しかし、一方では安倍総理の動きに呼応するように不穏な動きが出て来ている。

「住友化学は1月から管理職約3000人を対象に月額給与の2~5%をカットする臨時のコスト削減対策を始めた。石油化学部門を中心に業績が悪化しているためで、収益の回復が見込めるまで続ける方針。1年間カットした場合、10億円弱の人件費削減効果があるとみられる」

安倍政権に機先を制す意図があったのかは定かではないが、11日付日本経済新聞には、賃上げ要請を受ける側の経団連米倉会長率いる住友化学が、給与削減を実施することが報じられている。

住友化学が人件費削減に踏み切ったのは、今月1日に発表した業績下方修正を反映したもの。

「住友化学は1日、2013年3月期の連結最終損益が500億円の赤字(前期は55億円の黒字)になると発表した。従来は100億円の黒字を見込んでいたが、一転して4期ぶりの赤字となる。景気低迷を背景にした石化関連の不振に加え、千葉工場(千葉県市原市)でのエチレン生産停止を見据え特別損失を計上する。業績見通しの悪化に伴い、繰り延べ税金資産を取り崩すことも響く」。

景気低迷に伴う業績気下方修正は仕方のないことだが、気に掛かるのは、何故この時期に「一転して4期ぶりの赤字になる」という業績下方修正をしたのかという点。

住友化学の業績下方修正は、景気低迷の影響もあり、売上予想を500億円の下方修正。それに伴い経常利益も170億円の下方修正となった。しかし、それでも経常利益は450億円と、当期利益黒字を十分確保出来る水準である。それでも、「一転して4期ぶりの赤字になる」のは、「特別損失の計上」と「繰り延べ税金資産の取り崩し」によるもの。ひねくれた見方かもしれないが、「特別損失の計上」と「繰り延べ税金資産の取り崩し」によって、無理矢理「一転して4期ぶりの赤字」決算にした印象は拭えない。

「特別損失の計上」や「繰り延べ税金資産の取り崩し」までして当期利益を赤字にする必要性があったのだろうか。

安倍総理は、給与を増やす企業を対象にした法人税減税など「企業優先の政策」を採る一方、経済諮問会議等の場で「業績が改善している企業には、報酬の引き上げ等を通じて、所得の増加につながるようご協力をお願いしていく」と、本来タブーであるはずの企業経営に対しても、これまでとは「次元の違う口先介入」を実施する姿勢を示して来ている。

こうした安倍政権の動きと、照らし合わせて考えると、「一転して4期ぶりの赤字」にすることによるメリットは、赤字法人になることによって法人税を納めずにすみ(可能性)、それを以てアベノミクスによる法人税減税という恩恵を受けない立場に転じられることに加え、「業績が改善している企業」からも外れることが出来ることである。アベノミクスの政策的な後押しを受けられない赤字法人なら、「報酬の引き上げ等を通じて、所得の増加につながるようご協力をお願い」に対して、率先垂範して行動しない大義名分が立つ。

ローソンがアベノミクスに同調して自主的に年収引上げに動く中、経団連会長企業が安倍政権の給与引上げ要請を突っぱねた場合の世間の風当たりは察するに余りある。

アベノミクスによる急速な円安で、企業には「為替差損益5300億円改善」という恩恵がもたらされた。しかし、住友化学の「一転して4期ぶりの赤字」発表などからも明らかなように、こうした恩恵を個人に移転する際の見得ざる障壁は極めて高い。アベノミクスの恩恵を広く国民に行き渡らせるためには、財界首脳の「新陳代謝」も待ったなしの課題のようである。

「金融政策に関する私の考え方を理解していただき、確固たる決意・能力でデフレ脱却という課題に取り組んでいく方を人選していきたい」

中央銀行の独立性を脅かす危険を冒してまで日銀に「次元の違う金融緩和」を求める安倍総理。しかし、次に必要なタブーは、企業の自主性に制約を加える危険を冒してでも「所得の増加に関する私の考え方を理解していただき、確固たる決意・能力で雇用拡大と給料引上げに取り組んでいく人」を財界首脳に据えることかもしれない。
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近藤駿介

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