曲り角を迎えた中国~盲目的な「中国成長神話」が「アジアの成長」を取入れる足枷となる

このところ、中国に関する興味深い報道が続いている。

21日付日本経済新聞の一面では「生産、中国比率下げ 医療や家電、アジアで分散」という見出しで、日本企業の間で「生産拠点を中国から他のアジア諸国に分散する企業が増えている」ことが報じられている。その理由として挙げられているのは中国の「労働コストの上昇」という経済的理由と、「日中関係の緊張」という政治的要因である。

「中国商務省は20日、1月の世界から中国への直接投資(実行ベース)が前年同月比7.3%減の92億7千万ドル(約8600億円)になったと発表した。前年実績を下回るのは8カ月連続。日本からの投資も同20%減。世界経済の低迷に加え、中国国内の労働コストの上昇などを背景に、対中投資が細る傾向が続いている」

その前日の20日に、中国商務省が対中国直接投資統計を発表した。この発表で明らかになったことは、中国向け直接投資を減少させて来ているのは、直接的な政治的緊張関係にある日本だけでないということ。こうした事実から想像されることは、中国への直接投資の減少は、政治的要因よりも、「労働コストの上昇」という経済的要因がより強いこと。

世界第二の経済大国、中国の魅力は、人件費の安さを背景とした「生産地」と、世界最大の人口を抱えることによる「消費地」としての二つであった。

しかし、「日本貿易振興機構の調べでは、中国の製造業一般従事者の月額基本給は12年10月時点で328ドルと5年間で約4割上昇した。フィリピン(253ドル)やベトナム(145ドル)、ミャンマー(53ドル)などと差は大きい」状態となったことで、「生産地」としての魅力は褪せ始めている。中国の賃金は日本と比較して依然として7~8分の1の水準であるが、他のアジア各国の賃金水準が日本の10分の1~50分の1の水準となると、政治的リスクを負ってまで中国で生産する必要性は高くない。

「経済産業省の海外事業活動基本調査では、日本企業の中国現地法人売上高のうち、10年度は中国国内向け23兆2千億円、輸出11兆5千億円。リーマン・ショック前の07年度と比べて国内向けが27%増え、輸出は22%減った。旺盛な内需に対応する一方で他のアジア諸国への生産拠点の分散が進み、世界への輸出拠点としての位置付けが弱まっている」

この記事から伝わって来ることは、日本企業は、世界最大の人口を抱える中国に対して依然として「消費地」として高い魅力を感じ続けているが、「労働コストの上昇」によって、「生産地」としての魅力は感じなくなって来ているということ。さらに、2011年1月に中国とASEANとのFTA発効しており、中国の「消費地」としての魅力を取り込むために、労働コストの高い中国を「生産地」とする必要性はなくなっている。「中国よりコストが安い他のアジア諸国への生産移管を進める」のは企業にとって必然である。

こうした動きは、「対中投資は2012年に3年ぶりに前年水準を下回っており、海外からの投資の鈍化が続けば、中国の景気回復の足を引っ張りそうだ」という、景気循環の問題として捉えるのではなく、構造的な変化として捉えるべきである。

日本では世界最大の人口を抱える中国を、盲目的に成長国とみなす風潮が強いが、「生産地」としての魅力が色褪せて来たことで、「消費地」としての魅力を維持することは難しくなって来ていることにも留意すべきである。

先月も、中国に関する興味深い指標が明らかにされた。中国国家統計局は1月18日に開かれた2012年の経済実績を発表する記者会見の席上、約10年ぶりに所得分配の不平等度を示すジニ係数を2003年に遡って公表した。そして、2012年の中国のジニ係数が0.474と、社会の不安定が生じる警戒ラインである0.4を超えていることを明らかにした。政府が明らかにした0.474という数字は、昨年12月に西南財経大学の中国家庭金融調査研究センターが発表した0.61に達するとの調査結果に比較すると大分控えめな(格差を少なく感じさせる)数字。

(注)ジニ係数:所得が完全に平等に分配されている場合に比べて,どれだけ分配が偏っているかを数値で示したもの。例えば,収入格差がない完全に平等な集団ではジニ係数は0になり,一つの世帯だけが収入を独占する完全に不平等な集団ではジニ係数は限りなく1に近づく(総務省HPより)


ジニ係数は様々な基準があり、数値自体の単純比較は難しいが、総務省が公表している日本のジニ係数(総世帯、可処分所得ベース)は、近年徐々に上昇(格差拡大)して来ているものの、2009年で0.283であり、中国の所得格差が日本と比較してより深刻であることは間違いないところ。

しかし、成熟期に達している日本と、成長期過程にある今の中国のジニ指数を比較してもあまり意味はない。日本の1970年代に相当すると言われている今の中国と比較すべきは、1970年頃の日本である。1970年前後の日本の公式なジニ係数は存在しないようであるが、全世帯対象の国民生活実態調査(国民生活基礎調査の前身)を使用したジニ係数は0.355であったという研究結果が公表されている。

現在の中国の控えめな公式ジニ係数0.474は、1970年前後の日本のジニ係数0.355と比較してかなり高く、日本よりも早く「格差社会」が形成されていると言える。

中国が今後も「消費地」としての魅力を保ち続けるためには、日本の高度成長期と同様に、時間を掛けて「中間層の形成」することが必要不可欠である。しかし、前述の通り、中国の労働コストは既に周辺各国に比較して割高になっており、「中間層に形成」に不可欠な「生産地」としての魅力を失いつつある。日本の1970年代に相当すると言われている中国は、日本が「中間層の形成」をした数十年を経ずに、日本が「失われた20年」で直面して来た「空洞化」に早くも直面し始めている。これでは日本が長時間かけて作り上げた「中間層の形成」は望むべくもないこと。「中間層の形成」が進まないということは、中国のジニ係数が高止まりする(格差が固定化し社会が不安定化する)ことを意味する。

日本よりも早く「格差社会」が形成され、日本より早く「空洞化」を迎えつつある中国。日本と比較して短期間で「生産地」としての魅力を失いつつある中国が、「消費地」としての魅力を保てる期間も、日本より短期間であったとしても何の不思議もないことである。

「中国は成長国」という盲目的な信仰は見直すべき時期に来ている。こうした盲目的な信仰は、日本が「アジアの成長を取り入れる」際の障害となりそうだ。

【参考】  
中国は高成長国家であり続けられるのか~歴史は繰り返さない   http://blogos.com/article/49674/
      
中国は高成長国家であり続けられるのか(続)~「アナログ時代」に高度成長を果たした日本、「デジタル時代」で高度成長を目指す中国  http://blogos.com/article/49743/
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