FC2ブログ

TPP交渉参加へ~「名を捨てて実を取った米国」と、「名を取って実を捨てた日本」

「TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」

想定されていた通り、安倍総理は日米首脳会談後に発表された「日米共同声明」にこうした文言が組み込まれたことで、「聖域なき関税撤廃が前提ではないという認識」が得られたとし、TPP交渉参加に向けて動き出した。

「2月22日、米国出張中の安倍総理は、約1時間45分にわたり、オバマ大統領との間で首脳会談及びワーキングランチを行ったところ、概要以下のとおり(首脳会談後に発表された『日米の共同声明』は下記を参照)」  (外務省HP「日米首脳会談(概要)」より)

外務省はHP上で、このような意味不明の文章で始まる「日米首脳会談(概要)」を掲載し、今回の首脳会談の内容を紹介している。この中で明らかにされていることは、TPPに関する日米首脳会談における「認識の違い」と、日本側の「誇大広告」である。

「日米首脳会談(概要)」では、TPPに関して、「両首脳間でじっくりと議論が行われ、その結果、日米の共同声明にある事項について首脳間で認識が一致した」と記載されている。しかし、約1時間45分に渡る首脳会談で議題として挙げられたのは、大項目だけで「日米関係」「アジア太平洋地域情勢」「中東・北アフリカ情勢」「経済」「その他」の5項目。TPPは、「経済」の中で取り上げられた5つの議題、「総論」「TPP」「エネルギー」「気候変動」「超伝導リニア技術(マグレブ)」の中の一つに過ぎないもの。

また、外務省の公表した「日米首脳会談(概要)」は約3700文字であるが、そのうち、TPPに関する部分は約440文字と全体の12%弱。こうしたことを考えると、TPPに関して「両首脳間でじっくりと議論が行われ、その結果、日米の共同声明にある事項について首脳間で認識が一致した」という記載は、かなり「誇大広告」であると言える。

ちなみに、「日米首脳会談(概要)」を読むと、「安倍総理から」という記載が21箇所あるのに対して、「オバマ大統領から」という記載は僅か6箇所に留まっている。こうしたこともあり、「日米首脳会談(概要)」からは、ことTPPに関してだけでなく、首脳会談全体を通してオバマ大統領が「聞き手」「受け身」に終始した印象が強く、「両首脳間でじっくりと議論が行われた」という雰囲気は余り伝わって来ない。

約1時間45分議論が繰り広げられたにもかかわらず、首脳会談後に発表された「日米共同声明」は、TPPに関するもののみ。文字数で88%に及ぶ部分は全く共同声明に盛り込まれなかった。こうした事実は、「日米共同声明」は、安倍総理が得た「聖域なき関税撤廃を前提としない」という「感触」という曖昧なものに、裏付けを与えるために米国が安倍総理に用意した「どうでもよいお土産」であることを示唆したもの。

「両政府は、日本が環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉に参加する場合には,全ての物品が交渉の対象とされること、及び、日本が他の交渉参加国とともに、2011年11月12日にTPP首脳によって表明された『TPPの輪郭(アウトライン)』において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する」

発表された「日米共同声明」は、このような書き出しになっている。ここに明記された「2011年11月12日にTPP首脳によって表明された『TPPの輪郭(アウトライン)』」とは、「包括的な市場アクセス」という項目の中で「我々の労働者とビジネスにとっての新しい機会及び我々の消費者にとっての即時の利益を創出するために、関税並びに物品・サービスの貿易及び投資に対するその他の障壁を撤廃する」ことを明記した協定である。

「関税並びに物品・サービスの貿易及び投資に対するその他の障壁を撤廃する」ことを明記した「TPPの輪郭(アウトライン)」で示された「包括的で高い水準の協定を達成して行くことになることを確認する」と最初に確認した上で、「両政府は,最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることからTPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」とした「日米共同声明」。

米国が重要視したのは「両政府は、最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから」という部分であり、これに対して日本が重要視したのは「TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」という部分。

「日米共同声明」の第3パラグラフでは、「自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し、その他の非関税措置に対処し,及びTPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め,なされるべき更なる作業が残されている」と明記されている。「自動車部門や保険部門」と具体的分野を挙げて、「TPPの高い水準を満たすことについて作業を完了すること」という文言を盛り込ませた米国政府。

TPP交渉参加という「入口」の敷居の高さに関する議論に拘る日本に対して、「作業を完了すること」という「出口」を縛った米国。本来、今回の日米首脳会談で日本側が米国側から言質を取らなくてはいけなかったのは、「聖域の有無」よりも、「交渉参加後の離脱に対する自由」だったはずである。しかし、「公約違反を避ける文言」を引き出すことを主目的とした会談によって、「国益にそぐわなければ交渉離脱する」という当たり前の権利の言質は得損なってしまった。

「名を捨てて実を取った米国」と、「名を取って実を捨てた日本」。両国のしたたかさの差は、日本が国内でTPPの「入り口論」という幼稚な議論ばかりに時間を費やして来たツケである。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

近藤駿介 Official Site

各種お知らせ等はこちらから

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR