「TPPが成長戦略の柱」という議論が孕む矛盾を覆い隠すための「美しい言葉」 ~ 「自立」と「海外依存度」、「息を飲むほど美しい棚田の風景」と「農業の生産性」

「安倍晋三首相は28日、就任後初の施政方針演説をし、経済再生に向け成長戦略に重点を置く姿勢を強く打ち出した。柱になる規制緩和や環太平洋経済連携協定(TPP)対策、資源価格対策は官邸主導で進める方針」

先の日米主要会談で、「聖域なき関税撤廃が原則ではない」ことが確認されたことで、国内でもTPP交渉参加問題に関する議論が俄然盛り上がって来た。日本経済新聞をはじめ、日本のメディアは、「TPPが成長戦略の柱」とする主張を連日繰り返しているが、賛否は横に置いておいても、メディアが繰り返すTPP議論は釈然としないものが多い。

安倍総理は、日米首脳会談で 「聖域なき関税撤廃が原則ではない」 ことが確認される前から、「大胆な金融緩和」 「機動的な財政政策」 「民間投資を促進する成長戦略」 という 「3本の矢」 で日本経済を立て直す「アベノミクス」を提唱して来ている。 ということは、もともと TPP交渉参加以外の成長戦略を持ち合わせていたということである。しかし、TPP交渉参加が確実になる前から、日本のメディアが連日 「TPPが成長戦略の柱」 だとする洗脳報道を繰り返したことによって、 本来存在したはずの 「TPP以外の成長戦略の柱」 は殆ど報じられることはなかった。それにより、それが本当に存在したのか、存在したとしたら何だったのか、それさえ国民には殆ど伝えられず仕舞いになってしまっている。

「平易な言葉で語ろうという思いは伝わってきた。第2次安倍内閣で初めての施政方針演説で、安倍晋三首相は各省の重要政策を並べるスタイルを排して、『自立』 をキーワードに演説を組み立てた」

3月1日付日本経済新聞は、「高支持追い風に安倍首相は懸案に挑め」 という社説を掲載。この中で施政方針演説のキーワードが 「自立」 であったと評している。

しかし、TPPと 「自立」 というのは、ある面では矛盾したものである。高いレベルでの自由貿易を掲げるTPPを成長戦略の柱に据えるというのは、輸出や海外投資からの果実を取入れることである。換言すればこうした戦略は、海外の経済状況に対する依存度を高める戦略ということでもある。

リーマンショックや欧州危機、中国の景気鈍化など外部要因による影響もあり、日本の経済成長はマイナス成長になって来ている。海外の景気の動向やイベントリスクを強く受けるようになって来たのは、日本の内需が脆弱になって、日本経済が世界から 「自立」 出来なくなって来たことが大きな要因である。

欧州や中国の政治や経済のリスクは、「三本の矢」を射込む安倍政権にも、「大胆な金融緩和」を採用する日銀にもコントロール出来るものではない。日本が世界経済から 「自立」 するための方策は、しっかりとした内需を作るしかない。「TPPを経済成長の柱に据える」ということは、「世界経済への依存度を高める」ことでもあるということを見落としてはならない。

さらに釈然としないのは、何故日本がかくも必死になってTPP交渉に参加させてもらうべく努力をしているのかということ。TPPに参加する意義として、海外の成長を取り込むことが挙げられるが、これは怪しい限り。

現在のTPP交渉参加11カ国のGDP総額は21兆4935億US$ (IMF 「World Economic Outlook October 2012」 2012年推計値 : 以下同様) と、日本の5兆9844億US$の約3.6倍である。しかし、その内72.8%に相当する15兆756US$は米国が占めており、米国を除いた10カ国のGDP総額は5兆8402億US$と日本1国分に過ぎず、「TPPへの参加≒米国の成長を取り込む」というのが実態である。

先月8日に米商務省が発表した貿易収支によると、「輸出倍増計画」を打ち出している米国の「モノに限定した国際収支ベースの輸出額」は、中国に大きく差を付けられたものの、2012年で1兆5635億US$である。これは米国を除く10ヶ国のGDP総額5兆8402億US$の26.8%に相当する規模。勿論、米国はTPPだけで「輸出倍増」を図っている訳ではないが、日本が参加しないTPPは、「輸出倍増計画」を掲げる米国にとっては経済合理性からは必ずしも魅力的なものではない。何しろ、「輸出市場」の経済規模が小さ過ぎるのだから。

米国を中心にTPP交渉参加11カ国にとって、日本が参加しなければ「輸出市場」が足りない状況にある。こういう日本に優位な状況にあることを考えると、日本の「国益」を最大化するためには、日本からTPP交渉参加をお願いするのではなく、交渉参加を要請されるまで待つのが通常の戦略のはずである。交渉参加を要請された方が、日本の主張を反映させられる可能性は格段に上がるのは間違いない。日本は何故、敢えて自分たちの土俵ではなく、11カ国の用意した土俵に上がろうとしているのだろうか。

「そのためにも、『攻めの農業政策』 が必要です。日本は瑞穂の国です。息を飲むほど美しい棚田の風景、伝統ある文化。若者たちが、こうした美しい故郷を守り、未来に 『希望』 を持てる 『強い農業』 を創ってまいります」

施政方針演説でこのように訴えた安倍総理。「強い農業」を創るために日本の農業が克服しなければならない課題は、生産性の低さである。そして、その生産性向上を阻む原因になっているとされているのは、「息を飲むほど美しい棚田」を始めとした小規模農地の存在である。

どのような 「攻めの農業政策」 によって、生産性向上を阻む「息を飲むほど美しい棚田の風景」を残し、「強い農業」を創っていくのだろうか。

メディアが報じる論理は、TPP交渉参加という結論を正当化するために築きあげられたもので、数多くの矛盾を孕んでいる。多くの矛盾を孕んだTPP交渉参加という「結論ありきの議論」のために、「美しい言葉」だけが並べられていくことには違和感を覚えずにはいられない。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

メルマガのお知らせ

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR