「市場の期待に働きかけることが不可欠だ」とする次期日銀総裁の誕生が招く、リフレ派による「市場の期待への働きかけ」の限界

「金利引下げの余地が乏しい現状では、金融政策の運営にあたり、市場の期待に働きかけることが不可欠だ。総裁に選任されたならば、市場とのコミュニケーションを通じてデフレ脱却に向けてやれることは何でもやる姿勢を明確に打ち出したい」

4日の所信表明でこのように大見得を切った黒田次期日銀総裁候補。その影響が金融市場に現れた。

「5日、指標となる新発10年物国債利回りは節目の0.6%を下回り、一時0.585%と2003年6月以来約9年8カ月ぶりの低水準を付けた。日銀が金融緩和策として、より償還までの期間が長い国債の買い入れに動くとの観測が強まったことが背景にある」

金融市場の反応は、「より償還までの期間が長い国債の買い入れに動く」という黒田次期日銀総裁候補が主張した「手段」には反応したが、その「成果」としてコミットメントした「できるだけ早期に物価安定目標を達成する」ということには反応薄だった。金融市場が「早期に物価安定目標が達成される」と受け取っていれば、長期金利には上昇圧力が掛かるはずである。

一方、5日の株式市場は、前場に年初来高値を更新し、黒田次期日銀総裁候補の発言に敬意を払った格好。黒田次期日銀総裁候補による「市場の期待に対する働きかけ」は、株式市場には上手く行き、債券市場ではイマイチであったようだ。

黒田次期日銀総裁候補は、こうした市場の反応について「市場とのコミュニケーション」が上手く行っている」と感じているのだろうか。それとも忸怩たる思いで市場の動きを見ているのだろうか。

ただしこうした市場の反応は、黒田次期日銀総裁候補の「市場とのコミュニケーション能力」の問題ではない。そもそも、投資家の多くは中央銀行が「大胆な金融緩和」によって資産を購入し、市場に提供する資金を増やすことによる効果は、「円高圧力の軽減」に及ぶことはあっても、「デフレ脱却」には直接及ばないという現実を知っているからである。

「大胆な金融緩和」の先輩格でもある米国FRB。2009年3月以降、3回の量的緩和、QE1(2009年3月~2010年3月)、QE2,(2010年11月~2011年6月)、QE3(2012年9月~)を実施して来たが、それぞれの期間とも、米国10年国債利回りはQE1=0.91%、QE2=0.24%、QE3=0.26%(FRBHPより、QE3は2月末時点)上昇しており、FRBの政策が「市場の期待に働きかけた」ことがみてとれる。

しかし、日本では安倍総理が「大胆な金融緩和」「次元の違う金融緩和」を叫び、「自分の考えにあった人」を日銀総裁候補に選んだにも拘わらず、第二次安倍内閣誕生時に0.83%付近であった10年国債利回りは、次期日銀総裁が確実になったことを受け0.6%を割り込むところまで、0.23%程度低下(債券価格は上昇)して来ており、米国とは全く正反対の反応を示している。

「市場の期待」が高まり金利が上昇すれば、景気に冷や水を浴びせることになるので、金融市場の「円安・株高・金利低下」という反応は、アベノミクスにとって最も都合の良いもの。しかし、こうした都合の良い状況が長く続くと考えるのは早計である。

リフレ派の主張は、インフレターゲットを設定し、それを達成するまで中央銀行が「大胆な金融緩和」をコミットメントし、「市場の期待」を醸成すれば、目標を達成出来るというものである。こうした主張が理論上正しいかの議論は余り重要ではない。結果が出た後に学者がいくらでもやってくれるはずだから。

市場参加者が念頭に置いておかなければならない現実的問題は、安倍総理が3か月以上「大胆な金融緩和」「次元の違う金融緩和」を叫び続け、次期日銀正副総裁に「自分の考えにあったリフレ派」を据えることがほぼ決定した今、当面「これ以上市場に期待を持たせるリフレ策がない」ということである。

「市場の期待に働きかけることが不可欠だ」と主張する次期日銀総裁の誕生が決定的になったことで、リフレ派による「市場の期待への働きかけ」も限界に達するという皮肉な現象が起こる可能性が出て来ていることには注意が必要である。

金融市場は中央銀行の動きを見ながら動くものであるが、中央銀行の期待通りに動くとは限らない。それは、子供は親の顔色をうかがいながら動くが、どんな良い子でも親の思い通りに動くとは限らないのと同じである。子供も自我を持っているのだから。従って、中央銀行は金融市場の「調教師」を目指すのではなく、「良き理解者」を目指すべきである。それは「リフレ原理主義」に固執しそれを振り回すのではなく、柔軟な対応をすべきだということ。

日本経済を復活させるために、リフレ政策は採らざるを得ないが、それを押付けるだけで問題が解決出来る訳ではない。政策当局にとってこれまで良い子であった金融市場が、自我を出し始めるまで残された時間は余り多くないかもしれない。中央銀行総裁の「市場とのコミュニケーション」能力が問われるのは、その時である。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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