分かり難い「一票の格差」訴訟 ~ 誤ったメッセージを伝えかねない判決

「現行の選挙区割りは違憲だが、無効とはしない」

素人にはいろいろ分かり難い訴訟、判決であった。

最高裁が違憲状態と判断した「1票の格差」を是正しないまま実施された昨年12月の衆院選は違憲だとして、東京都の有権者が「東京1区」の選挙無効を求めた訴訟で、東京高裁は6日、小選挙区の区割りを「違憲」との判断を示した。そのうえで、去年11月に小選挙区を5つ減らす「0増5減」の法律が成立し、今後、1票の格差が2倍未満に是正されることや、公益に重大な障害を生じる場合は違法の宣言だけにとどめられる「事情判決の法理」を適用し、選挙のやり直しは認めなかった。

今回の訴訟は、「東京都1区の選挙無効を求めた訴訟」であり、衆議院選挙そのものの無効を求めたものではなかったようだ。従って、この訴訟の被告は国(総務省)ではなく、地方自治法に基づいて設置された「東京都選挙管理委員会」であった。この委員会の理事4人は都議会で選出される。

今回の訴訟は「最大2.43倍の『1票の格差』があった昨年12月の衆院選は違憲」として、弁護士グループらが起こしたもの。しかし、「東京都1区」自体が「最大2.43倍の『一票の格差』」の対象選挙区だったわけではない。昨年12月の総選挙で最も1票が軽かったのは「千葉県4区」で、最も重かったのは「高知県3区」。両選挙区の「1票の格差」が2.43倍(「1票の格差」が2倍を超えた選挙区は、300小選挙区のうち72選挙区)であったことを以てして「東京都1区の選挙無効」を求めた訴訟。素人には分かり難い構図。

では、仮に今回の訴訟で「東京都1区」の選挙が無効だと判断された場合は、どのような対応がなされたのだろうか。格差が2倍を超えているから当選者を1人増やすという対応や、「東京都1区」のみ選挙をやり直すというのはあり得ないだろうから、法律的に「東京都1区の選挙無効」=「総選挙全体の無効」が成り立つということなのだろうか。

また、東京高裁が選挙のやり直しを認めなかった理由も分かり難い。「公益に重大な障害を生じる場合は違法の宣言だけにとどめられる『事情判決の法理』を適用」というのは、現実的な判断に見えるかもしれないが、「去年11月に小選挙区を5つ減らす『0増5減』の法律が成立し、今後、1票の格差が2倍未満に是正されること」と共に釈然としないもの。

本来「1票の格差」は統計に基づく誤差の範囲に収められるべきものである。「今後、1票の格差が2倍未満に是正される」という理由で「違憲の区割りで実施された選挙は無効ではない」という判決を出すということは、「1票の格差」は2倍以内ならいいと司法が判断しているといった誤ったメッセージを与えかねないものである。さらには、国会に「今後、1票の格差が2倍未満に是正される」アリバイ作りを続けて行けばいいというお墨付けを与えかねないもの。

何時の総選挙でも、総選挙の結果で総理が選ばれ、新たな政治が動き出すのだから、どんな場合でも、違憲、合憲に関わらず総選挙結果は「公益に重大な障害を生じる」ことになる。まさか、今回の総選挙で安倍総理が掲げた「アベノミクス効果」で、円安・株高が生じて来ていることを裁判所が特別に配慮した訳ではないだろうから、「公益に重大な障害を生じる」ということを「違憲」下で行われた選挙の有効性を担保する理由に挙げることは、今後も「違憲だが有効」という空しい判決が出され続けることを想像させるもの。

東京高裁には、今回の「東京都1区」の選挙を無効にした場合、どのような「公益に重大な障害を生じる」ことを想定したのか、そしてそれが今回特有のものなのかを明らかにして欲しかった。

今回の判決で明らかになったことは、国会には「1票の格差是正」に関して自浄作用はなく、国会では選挙制度を根本的に変えることは出来ないということである。こうした状況下で「1票の格差」を是正していくためには、期限を切ること、区割りを政党に委ねるのではなく第三者機関に委ねるしかない。

制度としては、選挙制度のあり方について調査・審議し、意見を報告・答申する第三者機関として「選挙制度審議会」があるが、この委員は内閣総理大臣が任命することになっており、必ずしも第三者機関とは言い切れない存在である。また、「違憲」である総選挙で選出された総理大臣が、委員を任命するというのも、おかしな構図である。

法的な建付けは難しいのかもしれないが、裁判所には法改正の期限を切り、それまでに法改正がなされない場合は、司法が「1票の格差」を是正した区割り案を示す等の「次元の違う判断」を示して貰いたいものである。素人考えでは、司法が提示した区割り案を、国会が立法化すればいいだけに見えるのだが。

「1票の格差」のような問題は、アベノミクスの効果に対する期待が高まっている間に道筋をつけておかなければ、安倍政権が「違憲選挙によって誕生した政権」という批判にさらされ、「決められない政治」に逆戻りしてしまいかねず、「公益に重大な障害を生じさせる」恐れが高い。司法にも、立法にも「これまでとは次元の違う」「大胆な」判断が求められる時期に来ている。
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コメント

「法的な建付け」がない現状では…

最高裁の選挙無効判決が確定した場合、国会は機能しなくなる
ので選挙制度改革がなされないまま違憲とされた区割りで
選挙をやり直す、というおかしな結果を招いてしまう。
それも「公益への重大な障害」の一つであろう。
その「おかしさ」は近藤氏の指摘する「選挙制度審議会」の
「おかしさ」を超えるものと言える。
残念ながら司法は立法できないので、近藤氏の提案の通り
期限を区切って制度改革の具体的基準を示し、
国会に「強く」要求するのが現憲法下での限界と考えざるを
得ない。
「司法が提示した区割り案を、国会が立法化すればいい」
のは確かだが、司法符には無効判決以外に立法府への
強制力が与えられていないのだ。

「法的な建付け」がない現状では…

最高裁の選挙無効判決が確定した場合、国会は機能しなくなる
ので選挙制度改革がなされないまま違憲とされた区割りで
選挙をやり直す、というおかしな結果を招いてしまう。
それも「公益への重大な障害」の一つであろう。
その「おかしさ」は近藤氏の指摘する「選挙制度審議会」の
「おかしさ」を超えるものと言える。
残念ながら司法は立法できないので、近藤氏の提案の通り
期限を区切って制度改革の具体的基準を示し、
国会に「強く」要求するのが現憲法下での限界と考えざるを
得ない。
「司法が提示した区割り案を、国会が立法化すればいい」
のは確かだが、司法府には無効判決以外に立法府への
強制力が与えられていないのだ。

重複投稿失礼しました。目障りならば本投稿と共に削除してください。

starfish様 この度は貴重なご指摘ありがとうございます。やはり単純にはいかないようですね。どこかで「大胆な決断」が必要だということがわかりました。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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