TPP交渉参加「極秘条件」 ~ 「交渉離脱」という「出口」なしで「国益」を守れるのか

「自由貿易の推進は国益だ。日米がタッグを組んで自由貿易圏のルールづくりを行っていく」

7日の衆議院予算委員会でこのように述べた安倍総理。しかし、「日米がタッグを組んで自由貿易圏のルールづくりを行っていく」とする総理の発言は、「片想い」か「妄想」「虚言」である可能性が強まって来た。

8日付東京新聞は1面トップで、「極秘条件6月には把握 TPP交渉 政府公表せず」という記事を掲載、その中で次のように報じている。

「2011年11月に後れて交渉参加を表明したカナダとメキシコが、米国など既に交渉を始めていた9カ国から『交渉を打ち切る権利は9カ国のみにある』『既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない』などと、極めて不利な追加条件を承諾した上で参加を認められていた」

交渉参加後発国が不利な条件を強いられていることは、日本経済新聞も「TPP交渉、後発国に『条件不利』 カナダなど伝達」という見出しで次のように報じている。

「環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加している11カ国のうち、遅れて参加表明したカナダとメキシコが、他の9カ国から交渉が進んでいる内容について再交渉を求めるのは難しいと通告されていたことがわかった」。

日本経済新聞と東京新聞の報道は、「交渉参加後発国には、既に参加国間で合意した内容について再交渉は求めることは出来ない」という点ではほぼ共通しているが、日本経済新聞は「交渉を打ち切る権利は9ヵ国のみにある」という条件については、全く触れていない。

「交渉を打ち切る権利は9ヵ国のみにある」という条件を報じていない日本経済新聞の反応は、「早期に交渉に参加しなければルールづくりに関与できる余地が狭まる恐れがあることを示している」という、早期交渉参加を促すもの。勘ぐれば、早期交渉参加に支障のある条件は伏せたとも言える。

日本が交渉参加した後、「既に交渉が進んでいる内容」についての「再交渉権」も、「交渉を打ち切る権利」もないことが明らかになったとしたら、どのようにして「日米がタッグを組んで自由貿易圏のルールづくりを行っていく」ことが出来るというのだろうか。もし、「交渉を打ち切る権利」がないのだとしたら、相手の言い分を受け入れる以外の「出口」はなく、「交渉」にならない。つまり、「交渉によって国益を確保して行く」ということはあり得ないということ。

カナダ、メキシコ両国というのは、米国とNAFTA(北米自由貿易協定)を締結し、関税撤廃を完了している国であり、TPP交渉参加に際して「再交渉権」と「交渉を打ち切る権利」を放棄した場合の影響は、米国とFTAを締結していない日本より少ない可能性のある国である。TPP交渉参加に際して両国に課せられた不利な条件が、こうした両国の特殊性にあるのか、それとも、新規交渉参加国全てに課せられる条件なのか、交渉参加の前に確認するのは国益を守ると主張する政府にとって当然の義務のはずである。

この問題に関しては、8日の衆議院予算委員会で取り上げられた。日本維新の会の松野頼久議員が政府に「報道されている通り、カナダ、メキシコ両国に問い合わせた事実があるか」を質したのに対し、岸田外務大臣は 「(カナダ、メキシコ両国が参加国とどのような交渉をしたかについて)コメントする立場にない」「日本に対しては条件の提示はされていない」と15分間はぐらかし続け、「日本政府が問い合わせをした事実の無無」には一切答えず時間切れで答弁を終えた。

先日、「日本のTPP交渉参加をめぐる日米事前協議で、焦点となっていた自動車分野で日本側が、米国の自動車輸入関税は段階的に引き下げ、撤廃まで猶予期間を置くことを受け入れることで決着する方向となった」ことが報じられた。

米国は敢えて自国の「聖域」を守る姿勢を見せることで、日本側にTPPが「聖域なき関税撤廃を交渉の前提としない」ことを示した。そして、米国が日本に対して自らの「聖域」を示したことで、日本のTPP交渉参加は確実になった。

しかし、米国が示した自国の「聖域」は、実際には余り影響のないもので、とても「聖域」とは呼べないもの。2012年の日本車の米国販売台数は534万台強だが、NAFTAによって関税が掛からない北米での生産台数はトヨタ、ホンダ、日産の上位3社だけで480万台に達している。要するに、米国で販売されている日本車の殆どに関税が掛かっていない。日本のメーカーにとっても、米国での販売を増やしたければ関税のかからないメキシコを含めた北米で生産すればいいだけのことであるから、米国の自動車輸出関税など「聖域」とは呼べないもの。

「聖域」ではない「聖域」を差し出すことで、農業を始めとした実害が及びかねない「聖域」を持つ日本をTPP交渉に誘い込み、「再交渉権」と「交渉を打ち切る権利」を奪うことで、交渉力を発揮することも、交渉から離脱することも出来なくする。実際にこうした企みがなされているかは定かではないが、政府が国際交渉において「国益を守る」という強い決意を持っているのであれば、この程度のリスクは確認し、出来れば先日の日米首脳会談の時のように「文書」にすべきである。

先月28日、衆議院予算委員会の集中審議で、玄葉前外相の「当たり前のことを確認する、国内向けのパフォーマンスのために、非関税措置で必要以上に押し込まれている印象。実際は民主党政権下で下ごしらえの交渉は事実上、終わっていた」という発言に対して、「当たり前とおっしゃったけども、それだったら、民主党政権時代に文書にすれば良かったじゃないですか。政治は結果なんですよ。出していない結果に対して、後で出した人に対して『そんなの俺たちだってできた』って言っても、これはなかなか世の中には通らないのではないか」と、痛烈な反撃を加え、玄葉前外相に赤っ恥をかかせた安倍総理。

今回「複数の日本政府関係者や外交関係筋への取材で明らかになった」、「民主党政権時代に日本政府が把握しながら公表しなかったことが新たに分かった」という今回のTPP交渉後発国に対する極秘条件。そのタイミングの良さを考えると、作為的なリークがあったのではないかと想像してしまう。

また、本日8日の衆議院予算委員会でこの問題を取り上げたのは、民主党時代に「TPPを慎重に考える会」の幹事長を務め、先の総選挙でTPP交渉推進を主張する維新の会で比例復活当選した松野頼久議員。個人的にはTPP交渉参加に慎重な見解を持つ議員が、TPP交渉推進を主張する政党の比例代表選出議員として、政府を追及している構図も、すっきりしないもの。

TPP交渉参加に関しては、余りにも情報が歪められている。最終的には国会の批准が必要なのだから、交渉参加を政府の専権事項とすることに問題はないのだろう。しかし、作為的な情報が飛び交い、客観的な情報開示がなされない中で、性急に交渉参加を決めることが、「国益」の確保に繋がるのだろうか。日本が参加しないTPPなど成り立たないのだから、事を急ぐ必要はない。最低でも「交渉離脱」という「出口」を確保してから交渉に参加すべきである。
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近藤駿介

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