日本のTPP交渉参加が、既存交渉参加国の「交渉を加速」させる ~ 「ルール作りに参加する余地もない」「アジアの成長を取り込む訳でもない」

「夜8時から時間無制限でやる」

「時間無制限1本勝負」のはずだった自民党TPP対策委員会の総会は、僅か2時間足らずで、200人以上いるはずの反対派が交渉入りを了承、ギブアップする形で試合終了となった。反対派が矛を収めたのは、決議文の中に「聖域(死活的利益)の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとする」という、文言が入れられたこと。

「ことし中の妥結を目指して、交渉は加速している」

日本が国内でお互いの面子を掛けた「言葉の遊び」に興じている最中、TPP交渉参加11カ国による第16回会合がシンガポールで開かれ、会合終了後の共同記者会見で、シンガポールのウン首席交渉官は、今回、交渉に一定の進展があったとしたうえで、このように述べた。

ロイターが、「声明によると、会合では規制問題、通信、関税、開発などについて進展がみられた」と報じる中、日本経済新聞は、「ルール関与 日本に余地 拡大交渉会合閉幕」という見出しで、「年内の交渉妥結に向け、協議の加速を確認。ただ関税の扱いなどで各国に隔たりがあり、日本がルールづくりに関与できる余地はまだある」と、相変わらず手前味噌の能天気な記事を掲載している。

同じくロイターは、「米通商代表部(USTR)のワイゼルTPP首席交渉官は、2月の日米共同声明で確認した通り、TPPでは『全ての物品が交渉対象となる』ほか、包括的かつ高い水準での合意を目指すと強調した。…(中略)… 『交渉が終結に近づくにつれて、他のセンシティブ(配慮すべき)品目についても、高級事務レベルでの交渉が一段と活発化するだろう』とした上で、今回の会合では、農業・工業製品や繊維分野における関税の段階的撤廃に関して『実りある意見交換ができた』と述べた」と報じている。

「(5月の)リマ会合への日本参加をわれわれが想定している、とはわたしは考えていない」と発言したシンガポールの首席交渉官が、日本の交渉参加に対して「年内妥結という目標を共有しなければならない」と釘を刺したことを考えると、日本経済新聞が期待する「日本がルールづくりに関与できる余地」は殆どないというのが現実である。

日本がTPP交渉参加が確実になる中、交渉参加11カ国が交渉を加速させるのは当然のこと。新規交渉参加国に対して「既に現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」という条件を課しているということは、現在の参加国には、日本が実際に交渉参加するまでの間に既成事実を積み上げるインセンティブがあるということ。

「日本の交渉参加が正式に決まるのは最短で6月になる見通し」(日本経済新聞)だとすれば、「ことし中の妥結を目指して」いる現在の交渉参加国が、6月までに出来るだけ「交渉を加速させる」のは当然のこと。

これまでTPP交渉が難航していた一つの要因として、日本がTPPに参加するかの確証がなかったことも影響しているはずである。これまで交渉参加国は、市場として最も大きいと同時に、最も交渉力の強い米国との交渉を強いられて来た。ここに、もともと交渉力の弱く、さらに「再交渉権」も「交渉を打ち切る権利」も放棄した世界第3位の経済大国が丸腰で加わるということは、対米国では不利でも、対日本で有利な条件であれば合意出来る余地が出て来たということ。交渉力の弱い、丸腰の経済大国が参加することで、これまで難航して来た交渉が、一気に加速することは十分に考えられること。

「一方、今TPP交渉に参加しなければ、今後、我が国の人口減少・高齢化が一層進む中、アジア太平洋地域の成長を十分に取り込むことができず、我が国がこれまで築き上げてきた国民生活の水準、国際社会における地位を保つことはできなくなるのではないか、との懸念する声も大きい」

自民党TPP対策委員会の決議文の中には、このように「アジア太平洋地域の成長を十分に取り込むことができず」という懸念が記されている。

しかし、こうした心配は杞憂である。何しろ、TPP交渉参加11カ国のうち、アジア4か国(ブルネイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム)の占めるGDP比率は僅か3.4%(IMF 「World Economic Outlook October 2012」:以下同様)に過ぎず、ASEAN10ヶ国のGDPに占める比率も4か国で31.4%と、インドネシア1国の38.5%にも及ばない事実からも明らかなように、そもそもTPPは「アジア太平洋地域の成長を十分に取り込む」ための枠組みではないのだから。

日本は既に、TPP交渉参加11カ国の内、シンガポール、ペルー、メキシコ、チリ、マレーシア、ベトナム、ブルネイの7か国と、EPA「貿易の自由化に加え,投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り,様々な分野での協力の要素等を含む,幅広い経済関係の強化を目的とする協定」(外務省)が発行済みである上、ASEANともEPAが発効しており、「アジアの成長を取り込む」体制は整っている。

こうした状況下で、「再交渉権」も「交渉を打ち切る権利」も放棄してTPPに「参加させて頂く」ことが、日本の「国益」に適うとする論理は、なかなか理解できないものである。

安倍総理には、自らのブレーンである浜田エール大学教授の、「法学部の勉強は、どうしても『(ある目的の)ためにする論理』をつくるようなものになる。法の論理は、自分の主張を正当化するためにある。だが、経済学の論理はそれでは済まない。どれだけうまい理屈がついていても『本当にそうなりますか』と問うのが経済の論理」という言葉を、再度胸に手を当てて聞いてもらいたいものである。

TPP交渉参加に向けての論理は、TPP交渉参加のための「法の論理」であり、「経済の論理」ではない。
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