「95%以上の高い自由化率を目指す」というTPPの「理念」は、単なる「お題目」である ~「品目ベース」なのか、「貿易額ベース」なのか

「TPPは日本にとって農産品の関税をなくす実質的に初めての協定となる」

お得意の外堀から埋めていく作戦なのだろうか。17日の自民党大会での「必ず私は日本の農業、食を守っていく。どうか私を信頼していただきたい」という安倍総理の発言を無視するかのように、日本経済新聞は19日付の「TPPを知る(2) 関税 原則ゼロ、例外少数」という記事の中で「TPPは農産品の関税をなくす協定」だと決めつけた報道をしている。

こうした「TPPは農産品の関税をなくす協定」という国民的コンセンサス形成を図るかのような報道が、政府の意図に従ったものなのか、日本経済新聞独自のものなのかは定かではないが、どちらにしても、とんでもないものである。

「日本はシンガポールやチリなどと13の経済連携協定を結んできたが、自由化率は85~90%にとどまる。コメや牛肉など農産品を中心に約940品目で関税をなくしたことがないからだ。『日本の自由化率は低いと言わざるを得ない』と2012年版の通商白書も指摘した」

確かに、この記事が指摘する通り、2012年版通商白書にはこのような記述がある。しかし、紙面の関係もあったのか、「我が国がこれまで結んできたEPAの自由化率は、貿易額ベースで見れば90%以上を達成しているものの、品目数ベースでみると、およそ86~87%となっている」という部分は省略されている。

「貿易額ベースで見れば90%以上を達成」していたとしても、「品目ベース」で95%以上が主流となっている世界の経済連携協定と比較すれば、日本の自由化率が相対的に低いことには変わらないのだろう。しかし、「品目ベース」なのか「貿易額ベース」なのかは明記した方が公正な報道になるはずである。

「環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる日米両政府の事前協議は、米国が日本からの自動車の輸入にかけている関税の削減を先送りする方向で大筋合意した」

先日、日米両国が日本から米国に輸出されている自動車の関税について、削減を先送りすることで合意したことが報じられた。ちなみに、2012年の日本の年間対米輸出額は11兆1883億円(外務省「貿易統計」)であり、その内、「乗用車」は2兆9522億円(同)である。

「乗用車」は、対米輸出における「品目ベース」では「たった一つの品目」に過ぎないかもしれないが、「貿易額ベース」では対米輸出全体の26.4%を占めている。

米国に輸出される自動車の関税削減を先送りするということは、日米間の「貿易額ベース」での自由化率は73.6%以下に留まるということである。TPPで「95%以上の高い自由化率を目指す」という理念を押付ける米国が、対米輸出額の26.4%を占める「乗用車」を「聖域」に設定するということは、米国が日本に突き付けるTPPの「理念」が単なる「お題目」に過ぎないということの証左である。

「品目ベース」で交渉にあたるのか、「貿易額ベース」で交渉にあたるのかによって、大きな違いが生じてくる。「強い交渉力」をもって「国益」を守るつもりなら、これらの使い分けは重要になる。「コメ」と「乗用車」を、どちらも「同じ一つの品目」として扱うのは、交渉力のない政府のやり方である。

「日本が農産品を守れば、相手国は日本が得意とする乗用車などで高い関税を残す。日本と協定を結ぶマレーシアは乗用車で15%(12年)の関税を保ち、日本は2010年に186億円の関税を支払った」

日本経済新聞は、尤もらしくこのような指摘をするが、こうした指摘も合理的なものではない。TPPに参加することで、農林水産業の生産額は、政府の試算ですら3兆円程度減ることになっている。10年累計しても2000億円に達しない、たった「186億円の関税支払」と「農林水産業の3兆円程度の生産額減少」を交換すべきであると言わんばかりの主張に、どれほどの合理性があるのだろうか。マレーシアの2012年の年間自動車販売台数は約63万台であり、仮に関税が撤廃されたところで、それに伴う輸出の増加という果実は限定的である。日本車に対する関税が撤廃されたところで、マレーシアの総自動車販売台数が増えるわけではないのだから。

15日の記者会見で、「交渉に参加すれば、今よりも大分情報が入手しやすくなると考えています」と、「現在は交渉参加出来ていないので情報が乏しい」という主旨の発言した直後に、「例えば関税等についてはほとんど議論がされていないわけでありまして、…」と、「正確な情報を得ている」如き矛盾した発言をした安倍総理。

TPPに参加することで「国益」が失われることは大きな懸念材料だが、政府やマスコミが、客観性に乏しい情報に基づく歪んだ報道によって、TPP交渉参加という都合の良い世論を形成して行くことの方が、よっぽど大きな「国益」の損失かもしれない。このような報道で形成された60~70%という高い「TPP交渉参加表明に対する評価」に、一体どれほどの価値があるのだろうか。
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