キプロス危機 ~潰すのに丁度いい(Just right to fail)?

「大きくて潰せない(Too big to fail)」ならぬ、「潰すのに丁度いい(Just right to fail.)」ということかもしれない。

経済規模ではユーロ圏17か国中15位、比率で僅か0.19%(IMF「World Economic Outlook October 2012」 2012年推計:以下同様)に過ぎず、下を見れば、エストニアとマルタしかない経済小国キプロス。そんな経済小国キプロスの金融危機が、世界の金融市場の波乱要因になって来ている。

これまで世界の金融市場を震撼させた欧州ソブリン危機の主役達は、ユーロ圏の16.41%を占める第3位の経済大国イタリアであり、11.11%を占める第4位のスペイン、そして、キプロスの金融危機とソブリン危機の震源地でもあるユーロ圏で第8位、2.11%のギリシャであった。それに対して、今回危機に見舞われているキプロスの経済規模は、ギリシャの約8.8%に過ぎない。

経済規模という観点からは、これまでのユーロ危機とは比較にならないほど軽微に終わってもおかしくないキプロス危機に対して、金融市場は過剰なまでの警戒心を抱いている。

経済規模の観点からは、キプロスが国家破綻しようが、世界経済に及ぼす影響はそれほど大きくないはずである。なにしろ、2012年のユーロ圏17か国全体のGDPの2011年比での減少額は1兆500億ドルと、キプロスのGDPの約47倍の規模であり、規模の面から言えば、キプロスが消滅したところで「誤差の範囲」でしかないのだから。

それにも関わらず、金融市場はキプロス情勢に神経質になっている。それは、キプロスが経済小国であるからである。これまで危機に見舞われた国々が、「大きくて潰せない(Too big to fail)」という国であったのに対して、経済小国キプロスは、「潰すのに丁度いい(Just right to fail)」と言える国である。

ユーロ圏にとって、イタリアやスペインは当然のこと、ギリシャも含め、危機に見舞われた国の経済規模と、セーフティーネット不足から、「ユーロ離脱」というカードを試しに切るには余りにも危険が大き過ぎた。しかし、ECBによるセーフティーネットが一応整備された今、ユーロ圏経済の僅か0.19%を占めるに過ぎないキプロスはある面では「ユーロ離脱の実験台」に好都合な国でもある。

法案は否決されたが、今回ユーロ圏は金融支援の条件として、預金課税による預金者負担を求め、間接的にロシアの預金者に負担を強いようとした。それを防止する目的でロシアが支援をすれば、ユーロ圏の負担が軽減するので、好都合であるし、ユーロ圏の国民に対して説明がつく。

シェール革命の影響などもあり、天然ガスを武器としたロシアの欧州に対する影響力には陰りが出てきている。また、トルコの南、地中海に位置するキプロスは、軍事的な面でもロシアは影響力を失う訳にはいかない。

ユーロ圏がキプロスに対して強硬な姿勢を貫いているのは、ロシアがキプロスを支援せざるを得ないと踏んでいるからかもしれない。そして、ECBのセーフティーネットが整備された今日、キプロスの「ユーロ離脱」という最悪に事態を招いても、金融市場や経済に対する影響は軽微に抑えることが出来るという自信を持っているのだろう。

ECBの積極的な政策もあり、イタリアやスペインという経済大国の危機は一旦おさまっている。それと共に、金融市場でもギリシャ危機の際に懸念された「ユーロ離脱」も、可能性のないシナリオになっていった。

しかし、ここに来て、ユーロ圏とロシアの思惑が交錯する経済小国キプロスが金融危機に見舞われたことで、忘れかけていた「ユーロ離脱」というシナリオが復活、先祖返りしてきた格好。

ユーロ圏全体の0.19%でしかないキプロスではあるだけに、状況が揃ってしまうと、ユーロ圏初の「ユーロ圏離脱」に追い込まれてしまう可能性は否定できない。例えユーロ圏全体の0.19%であったとしても、金融市場にとって、「ユーロ圏離脱」が起きれば初めての経験であり、現実にどのようなことが起きるのかを正しく推測することは出来ない。要するに、影響は限定的と悠長なことばかりを言っているわけにはいかない。

ユーロ圏が、キプロスを「ユーロ離脱の実験台」にする可能性は完全には否定できない。安易なキプロス救済が、間接的にロシアの富裕層の救済に繋がるという理由で、ユーロ圏がキプロスに厳しい条件を突き付け続けるなら、こうした「危険な実験」が行われる可能性を捨て去るわけにはいかない。

この先、世界の金融市場は、これまでの「Too big to fail」という発想から、「潰すにはちょうどいい(Just right to fail)」という方向に「レジームチェンジ」をする必要に迫られるかもしれない。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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