大胆な金融緩和~誤った「目標」を達成するための、正しい「手段」

2013年度の金融市場は、大幅な株価下落と円高でのスタートとなった。野田前総理の「自爆解散宣言」を合図に、日経平均が3,733円、率にして43.1%上昇、円も14円強、率にして17.7%円安になるという「鋭い末脚」を使って年度末というゴール板を駆け抜けた直後だけに、スピードが落ちるのは致し方ないことでもある。

2013年のアセットアロケーションの変更に伴う「量の手当」は、第1四半期終了という「ゴール板」を通過したことで一旦スピードダウンするタイミングにあり、市場がこのまま「末脚」を使い続けることに期待を抱き続けるのは危険である。金融市場は「量より質」へとシフトして行く時期に差し掛かっていると考えた方が賢明である。

今週の注目点は、黒田体制になって初めて開催される金融政策決定会合(3日~4日)、ECB理事会(4日)、そして米国の雇用統計(5日)。

「物価安定の目標を実現するタイムスパンは2年程度。私も2年程度を念頭に量的にも質的にも大胆な金融緩和を進めることによって1日も早く実現する決意である」

このような発言を繰り返し、「強いコミットメントを市場に適切に伝えて、(デフレ)期待を転換させること」を目指している黒田日銀が、既に市場に知れ渡ってしまっている「日銀の持っている政策手段」の中からどのカードを最初に切って来るかは注目である。

日銀が、市場が気付いていないカードを切って来るのであれば、驚きとともに市場に「期待」を植え付けることが出来る。しかし、問題は、その効果を含めて、「市場に既に知れ渡ってしまっているカード」を切った際の「副作用」がどの程度表れるかである。1日に発表された日銀短観によって、現在までのところでは、「アベノミクス」の実体経済への影響は「期待ほどではなかった」ことが示された直後だけに、「既に市場に知れ渡ってしまっている政策手段」で、どのようにして市場の「期待」を繋ぎ止めようとするのか、お手並み拝見である。

しかし、「日銀の持っている政策手段」が知れ渡ってしまっている日銀にとって、2013年度の金融市場が「円高・株安」でスタートしたことは「追い風」でもある。

金融市場が、第1四半期に見せた「鋭い末脚」を使ったまま「円安・株高基調」で新年度入りしていたとしたら、他国から「円安誘導批判」を受ける可能性もあったし、国内でも「資産バブル助長批判」が強まる可能性があったからである。

黒田日銀には、政策効果はともかく「大胆な金融緩和」を打ち出す以外に選択肢がない。「持っていないものを、さも持っているように見せなければならない黒田日銀」にとって、「大胆な金融緩和の第一の矢」を放つことを見送るということは、市場に「新しい矢は持っていない」ことを白状するような危険な行為なのだから。

同時に黒田日銀は、「効果に期待が持てない政策に、効果があるかのような期待を抱かせなければならない立場」にもある。こうした中、実際に「大胆な金融緩和の第一の矢」を放つということは、「効果がない」ことを白日のもとに晒す危険性もある。

しかし、「2%の物価安定目標」という黒田日銀が掲げる誤った目標に対して効果がないとしても、景気回復の最大の障害ともいえる「円高阻止」のためにも「大胆な金融緩和」に打って出るしかない。

キプロス問題や、イタリアの政情不安によって、再びユーロに対する警戒感は高まって来ている。ユーロへの警戒感が高まるということは、円に対する逃避ニースが高まり、円高圧力が高まるということでもある。また、その可能性は余り高くないと目されているが、4日のECB理事会でECBが利下げに転じるとの見方もあり、金利面からも円が買われやすい状況を整えられてしまう可能性も否定できない。

こうした外部要因による円高圧力を少しでも緩和するためにも、「大胆な金融緩和」をしておく必要がある。例えそれば、「2%の物価安定目標」に何の効果をもたらさないとしても。

キプロス問題やイタリアの政情不安など、ユーロに対する懸念材料が多い割には、金融市場では「ユーロ危機」に対する警戒感は以前ほど高まっていない。これは、ユーロ内でセーフティーネットが整い始めていることと、この1年間、ドイツやフランスといったユーロ主要国が、「ユーロ崩壊」を阻止する強い姿勢を示し続けて来たからである。

しかし、トロイカによるキプロス問題の強引な解決策といい、状況は少し変わって来ている。キプロスは、「金融」と「観光」で存在して来た国である。その「金融」という柱をもぎ取られキプロスが、今後、「観光」という「片肺飛行」でユーロ圏に留まるような経済、財政状況を維持出来るかは疑わしい限りである。

日本ではほとんど報じられていないが、ユーロ圏15位の「経済小国」キプロス問題は、年央に約20億ユーロ(約2400億円)の債務償還を控える、ユーロ圏14位の「経済小国」スロベニア(GDP規模はキプロスの約2倍)の資金調達問題にまで影響が及んで来ている。

キプロス問題の影響もあり、同国の2年債利回りは、直近危険水準と言われる7%前後まで上昇して来ており、市場からの資金調達は困難となっている。キプロス、スロベニアと続くユーロ圏小国で発生した危機は、ユーロ危機の質が変わって来たことを示唆するものである。これまで市場は、イタリアやスペインといったユーロ圏大国の「ユーロ離脱」、「ユーロ崩壊」に対して危機感を抱いてきた。しかし、今後は、キプロス、スロベニアといった小国が脱落する形で「ユーロ崩壊」が進む可能性を考えなくてはならなくなって来ている。

ユーロ危機は、「Too big to fail(大きすぎて潰せない)」という段階から、「Just right to fail(潰すには丁度いい)」という方向に動き出している。

新しい形でユーロ危機が再燃しかねない状況であることを考えると、「大胆な金融緩和」によって需給面から「円高圧力」を弱めておく必要性、緊急性は高い。何しろ、日銀が市場に供給しているマネタリーベースは、2月時点で、ECBに比較して約57兆円も少なくい状態に放置されているのだから。この格差を埋めない限り、為替市場に「円高圧力」が放置され続けることになる。それは、白川日銀が犯した誤りを放置することでもある。

「委員会の合意が得られない」等の理由をつけて、黒田日銀が今週の日銀金融政策決定会合で「大胆な金融緩和」を先延ばしするというのが、金融市場にとって最悪の決断である。黒田日銀総裁には、手の内がばれていること、その政策効果に限界があると批判を受けることを恐れずに、「出来ることは何でもやる」という強い意思を示し、「大胆な金融緩和」に踏みきり、市場の「期待」を繋ぎ止める以外に選択肢はない。

いろいろな批判は出てくるだろうが、黒田総裁は、「円高・株安」という直近の状況を上手く利用して「大胆な金融緩和」に踏み出すべきである。黒田日銀の掲げる「目標」自体は間違ったものであるが、そのための「手段」は正しいものなのだから。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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