「2倍、2倍、2倍」~「質より量」で勝負に出た「量的・質的金融緩和」

「2倍、2倍、2倍」

「量的・質的金融緩和」と名付けた日銀の新たな緩和策を説明する黒田日銀の記者会見は、昔流行ったCMを髣髴させるかのようなものであった。「量的にも質的にも次元の異なる金融緩和を行う」、「政策を分かりやすく伝えるように枠組みを見直す」ことを掲げる黒田総裁。確かに、「2倍、2倍、2倍」というのは「分かりやすい」キャッチコピー。しかし、それは「量的」な部分の話し。

「長期国債の買い入れ対象を40年債を含む全ゾーン。買い入れの平均残存期間を3年弱から7年程度に」、「不動産投資信託(REIT)、上場投資信託(ETF)などリスク資産を買い増し」が、なぜ「質的な緩和」と言えるのかについては、「分かりやすい説明」はなかったようだ。

「長期国債の買い入れ対象を40年債を含む全ゾーン」というが、「残存期間20年超」の国債残高は約38兆8000億円(財務省。2012年3月末時点)と、国債残高の5.8%程度に過ぎない(3年以内は38.7%)。「40年債」というのは単なる例としても、殆ど市場に流通しておらず、金融取引の基準にもなっていないゾーンの国債を購入して金利低下を促すことが、何の「質」の向上に繋がるのかという「分かりにくさ」は、そのまま放置されてしまった。

「量的・質的金融緩和」と名付けた新たな金融緩和策が発表されたことで、0.5%台であった10年国債利回りは、一時0.425%まで低下し、過去最低を更新した。「金融市場の反応はポジティブであった」とも言えるが、もともと0.5%台の金利を0.4%台に低下させることによる「景気刺激効果」がどの位あると見積もっているのか、こうした点についても「分かりやすい説明」はされなかった。

想像されることは、黒田総裁の言う「質的な緩和」とは、「日銀のバランスシートの『質』を維持するためのハードルを下げる」という意味であって、決して「金融緩和の効果を質的に高める」ということではないうこと。

メディアが報じている「量的・質的金融緩和」に対する評価は、金融市場が好感したこともあり、概ね高いものになっている。確かに、黒田総裁が「戦力の逐次投入はしない。現時点で必要な措置を全て講じた」と言う通り、「政策の数」という「量」の面では、「量的・質的金融緩和」は「日銀準備預金への付利の引下げ・撤廃」を除いて、考えられる殆どの政策を盛り込んだものであった。

しかし、その内容は、「戦力の逐次投入はしない」と言いつつ、「月々の長期国債買い入れ額は現在の約4兆円から6兆円に拡大する」と、月々の購入額については「逐次購入」を維持するなど、黒田総裁の言葉ほどの強い覚悟は感じられないものになっている。

最も評価できるのは、マネタリーベースを年60兆~70兆増やすと、具体的な規模を示した点。日本のマネタリーベースは、2月末時点でユーロと比較して約57兆円、ドルと比較して約133兆円少ない状態になっており、この格差を埋め、為替市場に内在する円高圧力を弱めるためには、この程度の規模が必要だからである。しかし、このマネタリーベースの増加を「逐次的」に実施するだけでは、格差を埋めきる前に円高に見舞われないとも限らない。「戦力の逐次投入はしない」のであれば、マネタリーベースの毎月の増加額も「逐次的」にするのではなく、前倒しするくらいの「大胆な金融緩和」に踏み切って貰いたいものである。

金融市場に既に手の内を殆ど見透かされていることもあり、黒田日銀は「政策の数」と「金額」の両面で「量」での勝負に出たという印象である。黒田日銀にとってラッキーだったことは、キプロス問題等もあり、為替市場も株式市場も足踏み局面を迎えたタイミングで「量的・質的金融緩和」を決定出来たことに加え、ECBが金融緩和に動かなかったこと。

巷では、「量的、質的金融緩和」について、「市場の予想を上回る金融緩和」と高く評しているが、予想を裏切ったのは、日銀が考えられる政策を始めから全て提示したことで、決して「金融緩和の質」で市場の予想を裏切れたわけではない。政策が「逐次的」に打ち出されることを想像していた金融市場にとって、日銀が「お品書き」を全て開示して来たことが驚きであったということ。しかし、黒田日銀が「お品書き」を全て開示してしまった後、「逐次的」な政策遂行によって、市場に驚きを与え続けることは難しいことでもある。黒田日銀の市場との対話力が問われるのはこれからである。
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