TPP年内合意は困難?~野心的でハイレベルなTPP」から「控えめでローレベルの日豪EPA」に舵を切った豪州

「TPPは野心的でハイレベルな合意を目指している。日本が高い水準を目標に掲げて参加するなら非常に歓迎する」

4日、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を表明したことについてオーストラリアのギラード首相がこのように発言したことが報じられた。それから僅か3日後、日本経済新聞の1面を飾ったのは「日豪EPA交渉、月内にも妥結 農産品に低関税枠  TPP交渉へ弾み」という記事だった。

「日本とオーストラリア両政府による経済連携協定(EPA)交渉が月内にも最終合意し、妥結する見通しだ。農産品は日本が関税をなくさない代わりに豪州から一定量まで低い関税で輸入し、豪州は日本車にかける5%の関税を当面残す方向だ。安倍晋三首相が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に加わる意向を表明したことをきっかけに、日豪間の調整が加速した」

「野心的でハイレベルな合意を目指して、日本にも高い水準の目標を掲げて参加すること」を求めていたはずのオーストラリアが、「農産品は日本が関税をなくさない代わりに豪州から一定量まで低い関税で輸入し、豪州は日本車にかける5%の関税を当面残す方向」という、「控えめでローレベルの日豪EPA」締結を急いでいる。

もともと日豪EPA交渉は「第1次安倍政権の2007年に交渉を始めたが、農業と自動車の分野を中心に対立が続いてきた」ことで、交渉が難航して来たもの。「野心的でハイレベルな合意を目指すTPP」が年内にも合意するとされている中で、なぜオーストラリアは「控えめでローレベルの日豪EPA」締結を急ぐ必要があったのだろうか。

この記事ではその理由を「農産物の関税撤廃を迫る姿勢で譲らなかった豪州が軟化した背景には対日EPAの妥結で、TPP交渉に先んじて貿易拡大の『果実』をつかむ意向が働いたとみられる」と解説している。しかし、ここで「控えめでローレベルの日豪EPA」で交渉妥結しても、「野心的でハイレベルなTPP」交渉が妥結したら、「控えめでローレベルの日豪EPA」は無意味なものになってしまうはずである。それにも関わらずオーストラリアが「控えめでローレベルの日豪EPA」交渉妥結に向けて動き出したのは、「TPPの年内合意は困難」だと判断しているからだと考える方が合理的なはずである。

「豪州は日本車にかける5%の関税を当面残す方向」のようだが、既に日米両国は日本から米国に輸出されている自動車の関税について、削減を先送りすることで合意したことが報じられており、TPPが交渉合意に至ったとしても「豪州が日本車にかけている5%の関税は当面残る」ことは確実で、日本から見れば自動車関税は撤廃出来ない「聖域」となってしまっているもの。TPP交渉が妥結したとしても撤廃される可能性の低い自動車の関税を交換要員に、日本に「農産品は日本が関税をなくさない代わりに豪州から一定量まで低い関税で輸入する」という見返りを引出せたのは、オーストラリアにとっては「海老で鯛を釣る」ようなもの。
【参考】「95%以上の高い自由化率を目指す」というTPPの「理念」は、単なる「お題目」である ~「品目ベース」なのか、「貿易額ベース」なのか
http://opinion21c.blog49.fc2.com/blog-entry-581.html

「厚生労働省は3日、BSE(牛海綿状脳症)対策として自治体が実施している国内の食肉検査への補助金を大幅に削減する方針を固めた。補助対象となる牛の月齢を現行の『21カ月以上』から『48カ月超』に絞り込み、国内で流通する肉用牛はほぼ対象外となる。同省は自治体に対し、自主的に続けている全頭検査をやめるよう要請するといい、2001年から続いていた全頭検査は終了する見込みだ」
オーストラリアが「野心的でハイレベルなTPP交渉」が妥結を前に、「控えめでローレベルの日豪EPA」の締結を急いだのは、今年に入ってから日本が牛肉輸入の「月齢規制」を大幅に緩和したうえに、「全頭検査」を終了することにしたことが影響しているものと思われる。

「牛肉輸入の月齢規制緩和」も「全頭検査終了」も、オーストラリアにとってはライバルである米国産牛肉に有利に働くもの。BSE問題が生じる前の日本の牛肉輸入先は、米とオーストラリアほぼ同量であった。しかし、2003年にBSE牛が発生した事に伴い、農林水産省が2005年末まで米国産牛肉の輸入を禁止した影響で米国産輸入は激減、ほぼ0となった。その間オーストラリアが輸入牛肉の殆どを占めたが、その後米国産牛肉の輸入が再開されたことで、2011年時点ではオーストラリア産約65.5%、米国産23.3%と、かなりその差を埋められてきている。 
牛肉輸入


こうした状況下での「牛肉輸入の月齢規制緩和」と「全頭検査終了」は、牛肉の輸出が全輸出額の1.8%を占めるオーストラリアにとっては忌々しき問題である。日本という巨大な牛肉輸出先を失いかねない事態に対する対応策が、今回の「控えめでローレベルの日豪EPA」の締結だったのではないか。

この記事は「7月の参加を目指す日本は米国との事前協議に集中できる環境が整う」としているが、実際には「控えめでローレベルの日豪EPA」の締結はTPP交渉の足枷になるはずである。「TPP交渉へ弾み」という見出しとは異なり、「TPP交渉は暗礁に乗り上げた」可能性が高い
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