日本TPP交渉入りへ ~「ライオンと狼に囲まれた子羊」が唱え続ける「自由貿易圏を作る」という念仏

日本のTPP交渉参加に向けた日米の事前協議が大筋合意に達したことで、晴れて日本は交渉参加11カ国から交渉参加の「了承を頂ける」目処が立ち、TPP交渉参加がほぼ確実になった。何ともありがたいお話し。

「日本が参加すれば、TPPの重要性が格段に高まる。日本が他の環太平洋諸国を巻き込み、自由貿易圏を作る道筋が整った」

日本のTPP交渉参加が確実になったことを受け、日本経済新聞は「日本のTPP参加、意義を聞く」という記事を掲載。その中で慶大教授の方はこのような「意義」を挙げている。

「日本が参加すれば、TPPの重要性が格段に高まる」。TPP交渉参加の是非に関する議論で、必ずといっていいほど出てくるフレーズである。しかし、「重要性があるから参加する」のではなく、「重要性が高まるから参加する」というところが腑に落ちないところ。

日本人特有の「自己犠牲の精神」に基づく見解なのかもしれないが、個人ならともかく、国家が「自己犠牲」をものともせずという精神構造で「国益」を守れるのだろうか。野球でもサッカーでも、プロの世界では、技術を兼ね備えた選手がチームの勝利を目指して払うのが「自己犠牲の精神」であり、チームが「自己犠牲の精神」を払ったのでは八百長になってしまう。

「自由貿易圏を作る道筋が整った」

こうした繰り返される尤もらしい指摘も、日米両国が事前協議で「米国が日本製の乗用車(2.5%)とトラック(25%)にかける輸入関税を当分維持することで合意」した事実の前では、完全な空念仏。

「乗用車」は、対米輸出において、「品目ベース」では「たった一つの品目」に過ぎないかもしれないが、2012年の日本の年間対米輸出額11兆1883億円(外務省「貿易統計」)の内、26.4%に相当する2兆9522億円(同)を占めて品目である。年間対米輸出額の26.4%を占める分野の「関税を当分維持すること」を前提としたTPPが、「自由貿易圏を作る道筋」になるのだろうか。甚だ疑問である。

【参考】「95%以上の高い自由化率を目指す」というTPPの「理念」は、単なる「お題目」である ~「品目ベース」なのか、「貿易額ベース」なのか
http://blogos.com/article/58434/?axis=b:311

「多国間交渉のTPPは利害関係が複雑で、交渉が長引く可能性が大きい。カナダはTPPをテコに2国間の連携を加速する構え」

同日の日本経済新聞に掲載された「日加EPA交渉を加速 TPPをテコに」という、来日中のカナダの国際貿易相のインタビュー記事の中では、このような解説が加えられている。日本がTPP交渉参加を急いでいたのは、TPPが年内に交渉合意を目指しているからだったはずである。もし、本当に年内合意に至るのであれば、カナダが「TPPをテコに日加EPAの交渉を加速」させる必要はどこにあるのだろうか。

オーストラリアもカナダも、年内にも合意に至るとされているTPPがあるにも拘らず、日本との個別EPA交渉を急いでいる。こうした両国の動きは、まるで、TPPのヘッジとして、日本との個別EPAが必要不可欠であるかのようである。米国の圧力で解放される日本市場。その中で確実に自国の輸出枠を確保するためには、オーストラリアのように「農産品は日本が関税をなくさない代わりに豪州から一定量まで低い関税で輸入し、豪州は日本車にかける5%の関税を当面残す」合意を作るのが合理的である。

TPPとは一体何なのか。「自由貿易圏を作る道筋」としては「聖域」が多過ぎるし、年内合意を目前に控えているにも関わらず、なぜ交渉参加国は日本との個別EPAを急ぐのか。日本の交渉参加が「許される状況」になって来れば来るほど、TPPの実態は見え難くなって来ている。

結局のところTPP参加国の本音は、「米国の圧力で日本市場をこじ開けさせ、参加各国は日本市場での米国との競争を避けるために、日本に対して農産物で『聖域』を設けることをエサにして、日本と個別EPAを締結して自国の輸出枠を確実に確保して行く」、というところにあるようだ。日本人が唱えるような「自由貿易圏を作る」などという眠たい念仏はどこからも聞こえてこない。

注目されるのは、日本がカナダやオーストラリアに「最低輸入枠(ミニマムアクセス)」を与えた場合、米国が「毒素条項」を使ってこれを排除しに来るのかという点。どんなに安い農産物が入って来ても、高齢化した日本人の胃袋には限界があり、輸入量にも限界はある。日本とTPP交渉参加国の間だけでなく、TPP交渉参加国間でも、日本市場という限られたパイの食い合いが生じることは想像に難くない。

日本のTPP交渉参加の現実性が高まるにつれて明らかになって来たことは、交渉参加国が米国の圧力で解放される日本市場から確実に「国益」を得ようとする、貪欲なまでの姿勢である。そのなかで、「自由貿易圏を作る」というお題目のもとで「自己犠牲の精神」を発揮し自国市場を提供する日本。その姿は「ライオンと狼に囲まれた子羊」のようである。カナダやオーストラリアが日本との個別EPA締結を急ぐのは、「子羊」を全部ライオンにとられないようにするために必要な措置だからに他ならない。日本にとってのせめてもの救いは、米国というライオンがいることで、中国の餌食にならないですむということ。

「ライオンと狼に囲まれた子羊」は、それに気付いているのかいないのか、「自由貿易圏を作る」という念仏を唱え続けている。さて、「ライオンと狼に囲まれた子羊」は、「自由貿易圏」を作り、「国益」を守れるのでしょうか。

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コメント

アメリカを除いた各国から見れば日本こそ巨大な猛獣
それが自らを子羊だという認識
日本はこれまでの数年にわたる交渉、議論になんら関与してない
TPPをここまでまとめることになんの労力も払ってないくせに、土壇場で参加してきて俺様ルールで条件を付けてくる日本はドラえもんのジャイアン
参加各国はそのように見ている
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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