「ブタ積み」を放置することなかれ~「新たな雇用や投資を生む力」になっていない「海外投資の利益」

「海外投資で得た稼ぎの国内への還流が増えれば、新たな雇用や投資を生む力になる。それを後押しするには、国内総生産(GDP)だけではなく、GDPに海外投資の利益を加えた国民総所得(GNI)を増やす視点が必要になる」

19日付日本経済新聞の「動き出す景気③」では、このような主張がなされている。日本お得意の「海外の成長を取り込む」という「印籠」のようなものである。

GNIとは、基本的には昔懐かしき「国民総生産GNP」と同じもの。経済のグローバル化によって、経済統計が「先祖返り」するというのも興味深い話し。それはさておいて、GNIという視点が必要になって来たことはご指摘の通りかもしれない。しかし、「海外投資で得た稼ぎの国内への還流が増えれば、新たな雇用や投資を生む力になる」と決めつけるのは短絡的である。

GNIは、GDPに「海外からの所得 純受取」を加えたものである。2012年(暦年)を見ると、名目GDPは475.9兆円、「海外からの所得 純受取」はGDPの約3.2%に相当する15.1兆円で、その結果GNIは490.9兆円となっている。

「海外からの所得 純受取」は、2000年に6.5兆円であったがその後急増。リーマンショックの影響で一旦減少したものの再び増加し、2012年には15.1兆円まで増加傾向を辿って来ている。この「海外からの所得 純受取」の増加によって、GDPとGNIの格差は拡大しており、GDPでみると、日本経済の停滞ぶりが誇張され過ぎてしまうという主張が成り立つのである。

GDPvsGNI

では、この拡大する「海外からの所得 純受取」は、日本経済新聞が指摘するように「海外投資で得た稼ぎの国内への還流が増えれば、新たな雇用や投資を生む力」になっているのだろうか。

残念ながら答えは「No」である。経済統計を見る限り、「海外からの所得 純受取」は2012年で15.1兆円と2000年比で約2.5倍になったが、「民間企業設備」は72.2兆円から63.3兆円へと約8.4兆円、約12%の減少、「就業者数」も64.5百万人から62.7百万人へと97万人、約3%の減少となっている。そして、これに伴って「法人税収」も、税制改正などの影響もあり、2000年度の11.7兆円から8.8兆円へと約2.9兆円、約25%も税収減となっている。

海外からの所得


「海外投資で得た稼ぎの国内への還流が増えれば、新たな雇用や投資を生む力になる」というのは、極めて耳触りの良い尤もらしい主張であるが、現実はその言葉の美しさと正反対の厳しい動きを見せているのである。

日本の企業は、低迷する国内に留まって「座して死を待つ」のではなく、海外に活路を求め、国際競争を生き抜くことで利益の確保を目指している。しかし、企業が努力の末手にした戦利品である「海外からの所得 純受取」も、残念ながら国レベルと見ると「新たな雇用や投資を生む力」にはなっていない。むしろ、各種の優遇税制などもあり、国家の税収は減り、税金は低迷する国内からより多く徴収しなければならないという矛盾した状態になってしまっている。

「アジアの成長を取り込む」というのは、成熟化した日本が生き延びるための重要な国家戦略ではある。しかし、「アジアの成長を取り込む」ことによって生じる利益を、ミクロベースに滞留させずに、マクロベースに流す仕組みを考えることも、国家としての重要な戦略のはずである。

「異次元金融緩和」を打ち出した日銀は、供給する大量の資金を、日銀当座預金に「ブタ積み」させずにミクロ(企業)に流していく施策を打ち出す必要に迫られている。これに対して政府は、今後、企業が「アジアの成長を取組む」ことで獲得した「海外からの所得 純受取」を、ミクロレベルで「ブタ積み」させずにマクロ(国家レベル)に取り込んでいく施策を打ち出す必要に迫られている。

日本が復活するためには、マクロとミクロのバランスがとれた政策が必要不可欠で、どちらかに偏った政策では復活はままならない。政府がこのまま、「海外からの所得 純受取」がミクロレベルで「ブタ積み」されることを放置し続ければ、「国破れて企業あり」という事態を招くことになりかねない。
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コメント

>「海外投資で得た稼ぎの国内への還流が増えれば、新たな雇用や投資を生む力になる」というのは、極めて耳触りの良い尤もらしい主張であるが、現実はその言葉の美しさと正反対の厳しい動きを見せているのである。

 所得収支の黒字を、国内投資にまわすことは、原理的に出来ません。

 経常収支①貿易サービス収支②所得収支③経常移転収支≡広義資本収支①資本収支②外貨準備増減③誤差脱漏のことです。

 経常収支黒字≡広義資本収支赤字のことです。

 つまり、過去の海外投資の蓄積(経常黒字=海外資産)から、収益である所得収支(利子所得や株式インカムゲインや雇用者所得)が産まれますが、結局それは、今年度の所得収支として、海外資産に積みあがるだけです=新しい経常収支の一部を形成。

 所得収支をいくら稼いでも、結局それらは、海外資産として積みあがるだけです。

 日本国内には、原理的に回せません。日経はたんなる「アホ」です。同日「貿易赤字最大・・」の記事にも、黒字になることを「貿易収支改善」と書いていますよね。

 黒字が善で、赤字が悪という、トンデモ論です。

 貿易黒字(貿易サービス収支黒字)≡資本赤字のことですから、黒字が増えれば、赤字も同額増えます。

 国際収支を理解していないので、アホ記事がでてきます。

Re: タイトルなし

菅原様 この度は貴重なコメントを頂戴し、ありがとうございました。いろいろと勉強になりました。
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近藤駿介

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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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