2013/04/23
広がり過ぎた「市場の期待」と、広がらない「国民の期待」 ~「1ドル100円」を前に逡巡する市場
「時間の問題」という見方が強かった「1ドル100円」を目前に、為替市場は逡巡を続けている。市場の習性からすると、「1ドル100円」を突破する気があるなら、1回で上抜けなくても1度は「1ドル100円」を付けるもの。しかし、今回はG20会議を受け、「日本の金融緩和が容認された」との認識が広がったうえに、日本の「ザ・セイホ」が外債投資を増やす方針を表明する中、99円89銭まで迫ったものの、誰も「1ドル100円」にトライすることなく市場は仕切り直しの気配を見せ始めている。市場が仕切り直しの気配を見せ始めているのは、「1ドル100円」を誰も付けに行かなかったことで、市場が抱いて来た「期待」が過大だったことを感じ始めたからかもしれない。
「In particular, Japan’s recent policy actions are intended to stop deflation and support domestic demand.」
G20で「日本の金融緩和が容認された」との認識が広がったのはG20声明のこの部分。確かに「日本の金融緩和が容認された」と思われる一文であるが、「円安が容認された」訳ではない。さらに、例え「円安が容認された」としたとしても、それはG20までの水準の円安であり、今後の円安であるとは限らない。「1ドル100円」を突破して行くためには、「1ドル105円」「1ドル110円」が容認されることを正当化する何かしらの根拠が必要である。しかし、現時点ではそれは得られていない。
「ザ・セイホ」の外債投資増額も、利回りが低下した日本国債の代替とする限り、「1ドル105円」「1ドル110円」が容認されることを正当化する材料であるとは言い切れない。円安からの為替差益を狙っての外債購入ならば、為替ヘッジを伴わないので外債投資増額による円安は期待出来るが、日本国債よりも利回りが高いという「利回り」狙いだとしたら、為替ヘッジを伴う可能性が高く、それによる円安効果は限定的なものになる。特に、米国では何時金融緩和の「出口論」が現実味を帯びるかわからない状況、つまり為替のヘッジコストが上昇しやすい状況にあり、「ザ・セイホ」が為替ヘッジをしておく必然性は存在している。
しかも、米国10年国債の利回りは1.7%弱、ドイツ10年国債の利回りも1.2%台と水準としては低く、必ずしも0.6%台の日本国債から大量にシフトさせて行くほど魅力的な利回り水準ではない。
また、G20を控えて金をはじめ、石油、銀、銅などの商品市場が急落したことも、「貿易赤字国」通貨にとっては追い風(円安圧力の緩和)となり、「1ドル100円」を付けることを逡巡させる一つの要因となっているのかもしれない。
日銀による「異次元の金融緩和」が実施され、G20によってそれが容認された今、「1ドル100円」を突破して行くには、市場に「期待」を与えてくれる次の材料が必要である。それを見つけるには少し時間が必要なのかもしれない。
「金融緩和など安倍政権の経済政策『アベノミクス』で所得が増えると思うとの回答は24.1%にとどまった。増えないと思うとの答えが69.2%に上り、期待が広がっていないことが分かった。景気好転を『実感できない』との声が81.9%に達し、『実感できる』は13.7%」
共同通信が20、21両日に実施した全国電話世論調査では、「安倍内閣支持率は72.1%と、前月の71.1%からほぼ横ばい」と、安倍内閣に対する高い支持が確認された一方、国民の間には安倍内閣が期待するほど「所得が増えるという期待」は広がっていないことが明らかになった。
「所得が増えるという期待」が広がらないなか、円安による輸入物価の上昇や、健康保険組合の8割強が赤字で、全体の4割に相当する557組合が保険料率を引き上げるなど、生活コストに対する認識は、黒田日銀総裁の「物価上昇など市場の期待は転換しつつあるし、予想物価上昇率も上昇しつつある」という指摘通りになって来ている。
しかし、物価上昇に対する認識は、「市場」では「期待」かもしれないが、「国民」の間では「不安」である。「国民の不安」を背景に、「市場で期待」を生み出していけるのだろうか。少なくともこうした動きは、安倍政権が目指した「期待」とは異なるもののはずである。為替市場にも国民にも、これまでとは異なった「期待」が必要な局面に差し掛かって来ている。
円安一服、円高反転は、「市場の期待に働きかける」ことを掲げる黒田日銀にとっては受け入れにくいものである。一方、これ以上の円安は、安倍政権に対する国民の「期待」を「失望」に変えかねない危険なものでもある。「私の考えを理解する人物」という理由で任命された黒田日銀総裁。安倍総裁がこれ以上の円安を望まなくなった場合、「安倍総理の考えを理解」してこれ以上の円安も、円高反転も招かない、「為替に中立な異次元の金融緩和」を実施して行けるのだろうか。
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