当然の政策ながら、どこか釈然としない「農業の競争力強化改革案」

「政府・自民党は23日、農業の競争力強化に向けた改革案を固めた。放置された農地を都道府県が強制的に借り、集約して農業生産法人などに貸し出す制度を来年度にも導入する」

政府・自民党は「環太平洋経済連携協定(TPP)の本交渉入りをにらみ、生産性の高い大規模農業への転換を促す」政策に乗り出した。耕作放棄地の活用は農地稼働率の上昇を、農地生産法人は農業人口の増加を促す有効な手段であり、今後の日本に必要な政策だと言える。

しかし、これを報じる日本経済新聞の記事の中には、幾つか気に掛かる点がある。

「TPPが妥結すれば安い農産品が入ってくる可能性があるため、競争力の強化を急ぐ」

記事では、今回の競争力強化改革の目的についてこのように報じている。安倍首相は農業を成長産業と定め、農林水産品の輸出額を2020年までに1兆円に倍増する考えを示している。2012年の「農林水産物」の輸出金額は4,497億円(農林水産省:「農林水産物輸出入情報(平成24年12月分)」)であり、その内加工食品を含む「農産品」は2,384億円と、「農林水産物」の約53%である。安倍総理は林業、水産業は特に成長産業としていないので、単純計算すると、2020年までに「農産品」の輸出額を2.8倍の7,887億円に増やすことが出来ると見積もっているということ。

また、農林水産省の統計によると、日本の「耕種」の総産出額は5兆6394億円(2011年)である。この総産出額に基づくと、今回決定した「農地全体の1割に達した耕作放棄地を有効利用する」ことを前提とした改革案は、耕作面積を1.1倍にすることで、「農産品」の輸出を2.8倍、金額にして5,500億円増やす計画ということになる。

ということは、生産性の向上を無視すれば、新たに増えた1割の耕作地で生産されるであろう「農産物」(単純計算で5兆6394億円の1割に相当する5,639億円)が全て輸出に回る計算をしていることになる。したがって、今回の改革案は、日本の農業が「作れば輸出できるほど強い競争力を持っている」ことを前提に策定されているということ。「作れば輸出できるほどの強い競争力を持つ」と考えている日本の農業に関して、「TPPが妥結すれば安い農産品が入ってくる可能性がある」という理由で「競争力の強化を急ぐ」というのは、何か釈然としないもの。

しかも、「自民党は夏の参院選公約に盛り込む農業強化策の素案を固めた。耕作放棄地を10年で解消する目標を掲げ、農地集積を速める」ということからすると、2023年に耕地面積が1.1倍に増える前に「農産物」の輸出額1兆円を達成するということ。これは、今回の改革案が、素人には理解出来ない程の生産性の向上が図られる要素が秘められているということなのだろうか。

高齢化の進展による胃袋の縮小から「内需」の拡大が期待できない中、「農産物」の輸出額を増やして「外需」を取り込んでいかなければ、規制緩和によって誕生してくる「生産性の高い大規模農業」も、TPP妥結によって入って来る安い農産物と同様に、「現在意欲をもって農業に従事している農家」を淘汰して行ってしまう要因になりかねない。

こうした共食いを避けるためには、「農産物」輸出によって得た収益に対する低減税率や、税額控除などといった「異次元の輸出促進策」を検討すべきかもしれない。

「都道府県が設立する『農地中間管理機構』(仮称)がこうした個人から強制的に農地を借り受ける仕組みを整える」

この規制緩和政策の実施にあたって「都道府県が設立する」機構が設立されるようだ。道州制が議論されている中で、なぜ「都道府県が設立」する必要があるのだろうか。過去の事例から言って、こうした機構は官僚の受け皿になる可能性の極めて高いもの。

当然の政策でありながら、どこか釈然としないものを感じさせる「農業強化改革案」。それは、安倍政権も自民党も、道州制や公務員の制度改革には積極でないという邪な本音が透けているせいなのだろうか。
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近藤駿介

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