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個人投資家が狙われる ~「MRIインターナショナル」事件は「行き過ぎた規制緩和」の副産物である

「金融庁は26日、米ネバダ州に本店がある資産運用会社『MRIインターナショナル』が顧客から預かった資産の大半を消失させた疑いがある問題で、同社の金融商品取引業の登録を取り消したと発表した」

AIJ投資顧問事件が起きてから1年2ヶ月、また投資詐欺が疑われる事件が明らかになった。AIJ投資顧問事件では厚生年金基金が狙われたが、今回は個人投資家から集められた約1,300億円の殆どが失われている可能性が高いと報じられている。

今回の事件は、損害金額規模こそAIJ事件に劣るが、その手口の悪質性ではAIJをはるかに上回る。

「MRIは米国の医療機関の診療報酬請求債権を運用対象とするファンドを米ネバダ州で組成し、日本の投資家に販売している」

こうした説明を聞いて、ファンドの仕組みが理解出来る個人投資家は殆どいないはずである。マスコミに登場する専門家達は、「自分が理解出来ない商品には投資すべきではない」と尤もらしい警告を発しているが、「医療機関の診療報酬請求債権を運用対象とする」というファクタリング業務は、一般の人には馴染は薄いかもしれないが、日本でも珍しい金融取引ではない。個人投資家の目に触れることは殆どないかもしれないが、ファクタリングによる債権を裏付け資産とした資金調達も行われている。

気になるのは「ネバダ州」。「米ネバダ州に本店がある」、「ファンドを米ネバダ州で組成」するのは、カリフォルニア州に本社を構えるアップルも節税用の会社を置いていることで知られる通り、ネバダ州の法人税が0%、つまり、米国内のタックスヘイブン(租税回避地)だからである。こうした事情を考えると、この「MRIインターナショナル」は最初から日本人投資家の資金を集めるために設立されたペーパーカンパニーである可能性は否定できない。そこがAIJ投資顧問の事件とは違った「悪質さ」を感じさせるところ。

これを受け、「金融庁は26日、金融商品取引業の登録を取り消した」。金融庁が取り消した登録は「第二種金融商品取引業者」という、国内で「信託受益権の売買、売買の媒介、募集の取扱い(媒介)など、又は、ファンドの自己募集、募集の取扱い(媒介)などを行う」ために必要な登録。気に掛かることは登録されていた「MRI INTERNATIONAL,INC.」が、「アメリカ合衆国 ネヴァダ州 ラスベガス市 サウスヂュランゴ通り5330 (日本顧客サービスセンター)東京都千代田区永田町2-14-3 赤坂東急ビル6D」と、米国法人のまま登録されていた点。こうした外国法人形態のまま登録されている金融商品取引業者はこの会社だけではなく、複数存在する。

「MRIインターナショナル」は、「事実と異なる内容の事業報告書を関東財務局に提出したほか、監視委の報告命令に対し虚偽の報告をするといった問題も認められた」など問題点も指摘されている。しかし、そもそも金融庁は、日本の投資家に投資商品を販売する「MRI INTERNATIONAL,INC.」の存在確認をしていたのだろうか。金融の分野では融資や出資を行う際に、相手の存在確認をするのは基本中の基本。

海外向けの投資の場合、国内の投資家が誰でも相手の存在確認が出来るわけではない。誰も存在確認をしていない海外法人を金融商品登録業者として登録させ、国内投資家に投資商品の販売を認めるというのでは、監督官庁の存在意義はどこにあるのだろうか。過剰な規制緩和、厳しく言えば職務怠慢であるという批判を浴びても仕方がない。AIJ投資顧問も、明らかに虚偽と分かる事業報告書を財務局に提出していた。もし、AIJ事件の教訓を活かし、金融庁や財務局が「MRIインターナショナル」の事業報告書を再確認していたならば、被害をもっと少なくすることが出来たかもしれないことについては、もっと重く受け止めるべきである。

「規制緩和」は結構なことだが、監督官庁が登録業者の所在確認や提出書類の確認も行わないのだとしたら、投資家が金融商品取引業者として登録されている業者であるかを確認しても何の意味もないことになってしまうし、金融庁が業者に「登録業者」であることを掲げさせる意味もない。

金融商品取引業者の登録は、第一条(目的)で「この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、…(中略)…もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする」と謳われている金融商品取引法に則って行われていることを考えると、今の野放図な登録制度は、金融商品取引法の精神から逸脱したものであり、修正を要するものだと言えるはずである。

「MRIインターナショナル」は、外国法人の形態のまま、国内に「日本顧客サービスセンター」を設けるだけで「第二種金融商品取引業者」として登録されていた。つまり、米国の運用会社と国内の販売会社は同一であったということ。これは、投資の世界で必須の「デューデリジェンス(DD:投資対象や投資商品の詳細調査)」が実質的に行われていなかったことを意味するもの。

金融庁自体が金融商品取引業者や投資商品のDDを実施するのでは登録制の意味をなさなくなるかもしれないが、運用会社が日本法人や子会社を通して何のチェックも受けずに日本国内で何でも販売出来る状況は改善するべきである。そのためには少なくとも1社以上の第三者の金融商品取引業者を「代行協会員」に指定し、第三者のチェックが入るような仕組みにすることなどを検討するべきだろう。

米国では、保険やバンクローンなど、日本では有価証券と定義されていないものも投資信託の投資対象になる。それ故に外国籍投信などは、日本には馴染の薄いものを投資対象にしたものが多く存在するのである。テレビに登場する専門家は「自分で理解出来ないものには専門家のアドバイスを受けるように」と、尤もらしいアドバイスを送るが、これは殆ど非現実的な理想論でしかない。

AIJ事件について行われた衆議院財務金融委員会における参考人聴取で、AIJ投資顧問が運用する外国籍投資信託の販売を担当したアイティーエム証券の西村社長(当時)は、次のように証言している。

「私、証券マンですので、オプションの運用についてのプロではありませんから、オプションや先物取引は、山一にいた十九年間、その後アイティーエム証券をつくってからの十数年間、一回もやったことがない状況です」

つまり、約30年間証券の営業を担当していた人間がオプション取引に関しては一度も行ったことがない素人だったのである。今回の「MRIインターナショナル」が投資商品に仕立てたファクタリング業務は、証券会社の人間にとっては、オプションなどと比較してもずっと馴染の薄いものである。批判を恐れずに言えば、個人投資家が証券会社を訪ねて、ファクタリング業務を使った今回の投資スキームについて、納得いく説明を出来る営業マンに巡り会える確率は、宝くじに当たるほどのものである。

こうした現実を考えれば、金融庁の登録の段階で、何かしらのチェックを掛ける必要性がある。AIJ事件に引き続いて個人投資家が狙われた今回の事件。今のような何のチェックもない登録制が維持される限り、金商法が掲げる「国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資すること」などは夢物語に過ぎない。金融庁や証券取引等監視委員会が直視しなければならないことは、AIJ事件によって厚生年金基金がカモにならなくなった今日、投資詐欺の矛先が富裕層を中心とした個人投資家に向けられて来ているという現実である。このままでは投資詐欺まがいの事件は増えることはあれ、減ることはない。監督官庁を、事件が起きてから罰則を加えるだけの存在にする「規制緩和」の在り方には一考が必要である。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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著書

1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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