アップルCEO公聴会招致~終幕が近付く「どの国に対しても法人税をほぼ全く支払わない」ですむ時代

「当社は支払い義務のある全ての税金を支払っている」「昨年は60億ドルの税金を支払い米国で屈指の高額納税者だ」

上院の常設調査小委員会で証言した米アップルのクックCEOは、このように主張した。同小委は長期にわたり、アップルの海外利益の税金対策について調査し、同社が過去4年間、海外で稼いだ数百億ドルの利益について、どの国に対しても法人税をほぼ全く支払わなかったとする報告書を前日発表していた。小委員会の事務局職員は、どの国に対しても納税義務のない子会社を活用したケースは今までに見たことがないと語ったが、調査ではその違法性を示す証拠は見つからなかった。

アップルは法人税が発生しないような子会社を設立していた事実について反論しなかったが、税金逃れがその目的であることは否定した。「税金逃れがその目的」ではないのだとしたら、何故「法人税が発生しないような子会社を設立」したのか、それに関しての報道はない。

本社をカリフォルニア州クパティーノにおくアップルが、本社からわずか300km強離れた、法人税がかからないネヴァダ州リノ市内に小さなオフィスを構えて収益をここに集め、投資に回すことで、州の法人税を回避していることは、これまでも報じられて来たこと。また、アップルは1980年代後半に「ダブルアイリッシュ(Double Irish)」という税スキームを生んだパイオニアのひとりでもあると言われている。さらにアイルランドの子会社にオランダの会社を挟む「ダッチ・サンドイッチ(Dutch Sandwich)」によって、ほぼ課税を免れているという指摘もなされている。アップルはアイフォンやアイパッドなど革新的製品だけで出なく、「ダブルアイリッシュ ダッチ・サンドイッチ(Double Irish Dutch Sandwich)」という革新的な租税回避システムを作り上げた企業としても有名なのである。

しかし、このようなスキームは多くの多国籍企業、例えばスターバックスやグーグル、フェースブック、GEなども利用している合法的な節税スキームであり、アップルにとっては非難を浴びる筋合いのないもののはずである。

問題の本質は、アップルなど多国籍企業が利用している節税スキームの「違法性」の有無にあるのではなく、「合法的」に「どの国に対しても法人税をほぼ全く支払わない」ことが可能であることである。

国家の財政赤字が大きな問題となっている中で、巨額の利益をあげている「資本主義下の勝者」である多国籍企業が、「どの国に対しても法人税をほぼ全く払わない」ことが可能な状況を放置すれば、「資本主義下の弱者、敗者」が国家財政を支えるという「資本主義の基本原則」からかい離が生じて来てしまう。

米国の税政策を監視する民間団体「シティズンズ・フォー・タックス・ジャスティス(CTJ)」が3月に公表した報告書によると、国際展開する米大手企業47社の2012年の海外現金保有高は、アップル280億ドル増加、マイクロソフトは160億ドル増加と大幅に増加した。米国は、所得を得た場所に関係なく、全世界所得に課税する制度を採用しているが、企業が収益を米国に持ち込まないかぎり、通常課税されないため、報告書は、米国での課税回避を目的に多くの企業が収益を海外で保有し続けている可能性が高いとしている。

公的債務残高がGDPの約2倍に達している日本でも、同じような状況は見られている。2011年度時点で日本企業海外子会社の内部留保残高は23.5兆円(経済産業省「海外事業活動基本調査(2012年7月調査)」)と、国家予算の4分の1近くの規模に達している。しかし、平成21年度の法人税法改正で外国子会社配当の95%が免税とされており、これら企業が積み上げた内部留保は、例え日本に還流されたとしても政府が法人税として徴収することは出来ないもの。「アジアの成長を取り込む」ことに成功した企業からは、政府は法人税を徴収出来ない構図になっている。企業が「アジアの成長を取り込む」ことは可能でも、政府がその果実を受け取れないのでは、何のために「アジアの成長を取り込む」必要があるのだろうか。政府の後押しを受けて「アジアの成長を取り込む」ことに成功した企業が法人税を納めず、「アジアの成長を取り込む」ことが出来ない国内残留組が国家財政を支えるという構図は、「老老介護」のようなもの。

2012年の日本の一人あたり名目GDPは46,735US$(IMF World Economic Outlook Database, April 2013)で、世界第13位である。多国籍企業が節税に利用しているアイルランド(45,888US$:第16位)やオランダ(46,142US$:第14位)を辛うじて上回ったが、2004年以降はずっと両国を下回って来ており、円安の影響もあり2013年も両国を下回る予想となっている。

一人あたりGDP

一人あたり名目GDPでもると、米国は2011年15位、2012年11位、2013年11位であり、ドイツは2011年18位、2012年21位、2013年19位となっている。さらに世界一は、先進国で最も税率が低く、タックスヘイブン(租税回避地)とされているルクセンブルグである。多国籍企業の節税機会を提供している国の一人あたり名目GDPが、世界の工業国である日米独を上回っているこうした姿が健全なものといえるのだろうか。

本当に国家の財政危機を解決するためには、世界的に国家が手を付けられない企業収益を減らしていくことが必要なはずである。そのためには各国が自国の国益を優先して「法人税引下げ競争」に走るのではなく、「法人税の統一化」を図るべきである。際限なき「法人税引下げ競争」は、日本国内での「勝者なき牛丼戦争」と同じである。

22日にブリュッセルで開かれるEU首脳会議では、主要な多国籍企業の租税回避をめぐる懸念が議題の中心となる見通しであり、6月17、18両日に北アイルランドで開かれるG8でも国際的な税の抜け道を防いで課税を強化する方策などが論点になる見込みになっている。

多国籍企業が、「合法的」に「どの国に対しても法人税をほぼ全く支払わない」ことが不可能になれば、国の財政問題解決に向けた大きな一歩となるはずである。アップルCEOが招致された 21日の米国上院公聴会は、多国籍企業に対して「合法的」に「どの国に対しても法人税をほぼ全く支払わない」ですむ状況が終幕を迎えつつあることを印象付けるための政府による演出だったのかもしれない。
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