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行列のできる黒田日銀総裁?

「『クロダが何を考えているのか知りたい』。世界の市場関係者が日銀の一挙手一投足に注目している。欧米アジアの金融トップらが黒田東彦総裁に面会を求め、列をなしている。黒田氏が総裁就任直後の4月に打ち出した大規模緩和策への市場の期待は大きい」

29日付日本経済新聞「市場乱調(中) 黒田緩和の副作用 金利の秩序、模索続く」という特集記事は、こうした書き出しで始まっている。「黒田緩和の副作用」は、長期金利の乱高下のこと。

「黒田緩和の副作用」の原因を断定することは出来ないが、この記事にもある「黒田氏が総裁就任直後の4月に打ち出した大規模緩和策への市場の期待は大きい」という「誤解」もその原因の一つである。

「黒田日銀総裁が打ち出した大規模緩和策への市場の期待が大きい」理由として挙げられているのは、「日経平均株価はその後、2割強上がり、外国為替相場は円安がさらに1割進んだ」こと。このような記述は、如何にも黒田日銀総裁の「異次元の金融緩和」が大きな効果をもたらしたという印象を与えるもの。しかし、実際には、昨年11月に野田前総理が「自爆解散」を口にしてから黒田日銀総裁が「異次元の金融緩和」を打ち出した4月4日まで、日経平均は約4,000円、率にして約45%上昇していた。これに対して、黒田日銀総裁が「異次元の金融緩和」を打ち出してから昨日までの日経平均の上昇幅は1,677円、率にして13.3%に過ぎない。

野田前総理の「自爆解散発言」から昨日まで日経平株価は5,647円、率にして65.2%上昇して来ているが、黒田日銀総裁が「異次元の金融緩和」を打ち出してからの上げ幅は全体の30%程度でしかない。こうした状況は為替でも同じ。「自爆解散発言」以降、為替市場では22円強円安が進んで来ているが、「異次元の金融緩和」以降では6円63銭、円安全体への貢献度でいえば、こちらも30%弱でしかない。

この半年強、想像を超える「円安、株高」を生み出したのは、安倍総理による「大胆な金融緩和」というスローガンであり、黒田日銀総裁による「異次元の金融緩和」ではない。黒田日銀総裁が行ったことは、「大胆な金融緩和」という安倍総理の掲げたスローガンを、「異次元の金融緩和」に書き換えたこと。

もともと黒田日銀総裁が誕生したのは、安倍総理に掲げる「大胆な金融緩和に賛同する人」という「条件」を満たしたからであり、「円高・株安」に対抗する有効な政策を持ち合わせているという「政策能力」が買われたわけではない。

「大胆な金融緩和」は、白川前日銀総裁の「慎重な金融緩和」に対するアンチテーゼであり、「円高・株安」の流れに終止符を打つためには必要な政策転換であった。特に、金融市場に「潜在的円高要因」として存在していた「マネタリーベースの相対的不足」という元凶を取り除くためには「大胆な金融緩和」は必要不可欠なものであった。

問題は、黒田日銀総裁が「大胆な金融緩和」を、「異次元の金融緩和」へと書き換えるために、「量的質的緩和」という意味不明の政策を打ち出したこと。「マネタリーベースの相対的不足」を解消するために、買入れ対象を長期国債まで広げる必要性に対しては殆どまともな説明がなされていない。「買入れ国債の長期化」は、買入れ対象を短期国債に限って来た白川前総裁の方針との違いを鮮明にするために必要だっただけで、経済的には殆ど意味がないもの。「異次元の金融緩和」を打ち出した時点で既に0.5%台まで低下して来ていた新発10年国債利回りをさらに引下げることによる、「ポートフォリオ・リバランス効果」に期待するなどというのは、金融の実務知識のある人間にはあり得ないこと。

仮に黒田日銀総裁の思惑通り、新発10年国債利回りが0.2%前後まで低下し、イールドカーブがほぼフラットニング化した場合、世の中のポートフォリオは短期化するのが常識である。1年でも10年でもリターンが同じなのであれば、「期間のリスク」を最小化するのが当然だからである。ポートフォリオを短期化しておけば、その先上昇するしかない金利の上昇に備えることにもなる。

黒田日銀は、長期金利を低下させれば株式や不動産、実物資産に資金シフトが起きると考えたのかもしれないが、そもそも国債と株式、不動産ではリスク量や流動性が全く違った資産であり、長期国債の代替資産にはなり難いもの。最大で0.5%しか引下げられない新発10年国債利回りをさらに引き下げようとして、0.5%以上の長期金利上昇を招いてしまったのも致し方ないこと。

日本の弱点は、中央銀行総裁の評価基準が「金融市場を動かせたか」になってしまうことに代表される通り、金融市場の動向に目を奪われ過ぎてしまうこと。成長戦略では政府の介入を排除する「規制緩和」を叫び、金融政策では政策当局の介入効果の大きさを評価基準にするというのは何ともちぐはぐなもの。

29日夕方には黒田日銀総裁と市場参加者の意見交換の場が設定されている。「市場との対話」の一環なのだろうが、市場参加者から出てくる意見は、「儲けられる機会」を如何に増やし、「損失を被る機会」を如何に減らすかというものになることは始めから分かり切ったこと。こうした「市場との対話」にどれほどの意義があるのだろうか。こうした意見交換の場が大きな効果をもたらさないことは、これまで経済4団体からの要望を聞き入れた経済対策が期待する経済効果がもたらさなかったことからも十分に想像されること。

金融、経済活動には「金融市場の取引」と「金融取引」があり、相互に影響を及ぼし合っている。その中で「金融市場の取引」ばかりに神経を使い過ぎると、金融全体が歪んだものになってしまう。「金融市場の取引」、「金融取引」両面で実務知識の乏しい黒田日銀総裁が、過度に「金融市場を動かす」ことに目を奪われてしまっている間は、市場からの信頼を得られるのは難しい。アベノミクスによって日銀に対する注目度は高まったが、黒田日銀が張子の虎であることが明らかになるにつれ、金融市場の視線はFRBに戻っていくことになりそうだ。「黒田日銀総裁に面会するための列」が消えるのも時間の問題である。

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Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

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1989年12月29日、日経平均3万8915円~元野村投信のファンドマネージャーが明かすバブル崩壊の真実

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