不安定な株式市場を演出するのは投資家である~「おバカな機長」が発達させる「乱気流」

「前週に続き、株価指数先物の大口売買が相場を揺さぶる場面もありそうだ」

2日付日本経済新聞「市場アウトルック」では、今週(3~7日)の株式市場について「軟調な展開が続く」という見出しを付けて、このように報じている。週末のNYダウが200ドルを超える下落を記録し、シカゴの日経平均先物の引値が13,455円となっていることを考慮すると週明けの株式市場が「軟調な展開」からスタートすることは想像に難くない。

気に掛かるのは「株価指数先物の大口取引が相場を揺さぶる」というところ。1990年、そして2000年に株価指数先物の影響が加わりバブルが崩壊した経験をして来ているにも拘らず、国内では依然として株価指数先物に絡む「裁定取引」に対する「誤解」と「偏見」が蔓延している。

1日には「最適解消売り圧力続く 株式相場の不安定要因に」という記事の中で、「先物主導で再び振れ幅が大きくなることへの警戒感はなお強い」(国内証券)という「専門家」のコメントを紹介し、「背景には、これまでの上昇局面で裁定取引に伴う現物株の買い残高も膨らんできたことがある。裁定取引は株価指数先物と現物株の価格差から利益を得る手法。日銀による金融緩和などをきっかけに海外のヘッジファンドなどが先物買いに動いたことで、裁定取引を手掛ける運用会社などは割高になった先物を売って現物株を買うポジションを積み上げてきた」と報じている。

この記事でも紹介されているように、「裁定取引は株価指数先物と現物株の価格差から利益を得る手法」である。重要な点は、「株価指数先物と現物株の価格差」から得られる収益が、現物株購入に必要な金利コスト(配当金控除後)を上回っているかであり、「相場」には関係ないということ。

この価格差が金利コストを上回るっていれば、「先物売り+現物買い」という「裁定買いポジション」が組まれる可能性がある。「価格差」がほぼ唯一の収益源である裁定取引業者にとって、「裁定買いポジション」を組んだのちに、例え日経平均が20,000円まで上昇したとしても、何の損も発生しないし、反対に日経平均が10,000円まで下落したとしても、何の利益も出ない。日経平均は225銘柄の単純平均株価であり、SQで先物と現物株の清算値に乖離が生じないため、必要な「価格差」のある「裁定買いポジション」を構築出来たら、損益は確定されたのも同然なのである。

国内では、如何にも裁定取引業者が相場を動かしているかのような印象を与えるコメントが主流を占めているが、これは裁定取引の収益源が「価格差」である「金利取引」であるという本質を見落とした誤った考え方である。裁定取引は「株価指数先物と現物株の価格差」が乖離した時に行われるものであり、相場見通しで行われるものではない。つまり、裁定取引を誘発しているのは、裁定取引業者ではなく、相場観に基づいて行動する「投資家」なのである。裁定取引が「能動的」に相場に関与することはない。

先物の価格が現物価格に比較して割高になるのは、「日銀による金融緩和などをきっかけに海外のヘッジファンドなどが先物買いに動いた」という指摘のように、投資家が「買いヘッジ」という行動をとったり、ETF等への資金流入が続いたりすることによって先物に対するニーズが高まるからである。「裁定取引に伴う現物株の買い持ち高は5月29日時点で26億株弱」と、裁定取引残高が膨らんだのは、多くの投資家が株価指数先物の価格を現物株と比較して割高な水準まで押し上げた結果でしかない。

裁定残高が積み上がる過程では、株価は上昇、あるいは底堅く推移するので、株式市場のボラティリティは安定し、市場に悪い影響を及ぼすことはない。しかし、大量の裁定買残高が積み上がったあとは、様々な副作用が生じてくることを覚悟しなければならない。

「株式相場が乱高下する中で、個人投資家の間でも相場の急変動に備えた動きが出始めた。リスクをとって大きな値上がり益を狙う取引を減らす一方、リスクが相対的に低い商品に徐々に軸足を移しつつある。31日は株高時などに株価指数を上回る値動きをする、代表的な強気型ETF(上場投資信託)の売買高が前の日に比べほぼ半減した。一方、相場の下落時に利益が出やすく、リスクも相対的に低い弱気型ETFの売買高は23日以降、それ以前に比べて数倍の水準だ」

1日付の日本経済新聞は、「投信、『弱気型』に軸足 市場乱調で個人投資家」という見出しで、このように報じている。「31日は株高時などに株価指数を上回る値動きをする、代表的な強気型ETF(上場投資信託)の売買高が前の日に比べほぼ半減した」というのは、これまでの上昇相場によって「株価指数を上回る値動きをするETF」のニーズが強かったということ。こうした個人投資家によるダブルブル型ETFの購入は、市場での株価指数先物のニーズを高め、「株価指数先物と現物株の価格差」を広げ、裁定買残高を増加させる投資行動である。

一方、株式市場が「乱気流」に巻き込まれて以降、「相場の下落時に利益が出やすく、リスクも相対的に低い弱気型ETFの売買高は23日以降、それ以前に比べて数倍の水準」になって来ていると報道されている。個々の投資家の投資行動としては論理的な投資行動ではあるが、ベア型ETFへの投資は、株価指数先物の売りニーズを高める投資行動であり、これは「株価指数先物と現物株の価格差」を縮小する投資行動である。「株価指数先物と現物株の価格差」の縮小は、裁定解消売り(株価指数先物買戻し+現物株売却)を誘発するものであり、結果的に株式市場を「乱気流」に巻き込ませることになる。

重要なことは、投資家の行動が裁定取引を誘発しているのであって、裁定取引が市場を混乱させるというのは、結果論でしかない。株価指数先物を買建した投資家が、利食いをせず、ロールオーバーを繰り返し、買建ポジションを保有し続けるのであれば、裁定解消売りにおびえる必要はない。しかし、株式市場で永遠に株価上昇の期待が続くことは現実的にあり得ない。

「航行上、当機の安全に問題はありません。落ち着いて席にお着き下さい。当機はまもなく乱気流を抜ける予定でございます」

経済財政相は28日の閣議後の記者会見でこのように述べたが、こうした発言は株式市場の「乱気流」発生メカニズムを理解していないことを露呈したもの。裁定買残が26億株弱まで積み上がった後に「弱気」が生じた場合、「乱気流」を抑えることは不可能に近い。「乱気流」を抑える唯一の解決策は、株式市場で「先高観」が高まることである。そうなれば、再び裁定買残が積み上がる方向に動き出すし、先物期先物が割高に買われることでロールオーバーも進むことになるからである。

しかし、「乱気流」の発生メカニズムも知らず、閣議後の記者会見で、「乱気流」に突入した機長の口ぶりを真似するような「おバカな機長」が日本経済の舵を取っている現実を考えると、投資家の「期待に働きかけ」、短期間で株式市場に「先高観」を醸成できる可能性はかなり低いと言わざるを得ない。
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