「事前の報道の範囲内」に留まり「新味に欠ける」とされた「成長戦略第3弾」が引金を引いた株価急落

「5日の東京株式市場で日経平均株価は大幅に反落し、終値は前日比518円89銭(3.8%)安の1万3014円87銭と4月5日以来2カ月ぶりの安値で取引を終えた。下げ幅は今年3番目の大きさだった。安倍晋三首相が講演で述べた成長戦略第3弾の内容が『事前報道の範囲内にとどまり、新味に欠ける』との見方から、日経平均先物に売りが膨らんだ」

アベノミクスの本丸である「第3の矢」、「成長戦略第3弾」の発表を受けて日経平均株価は急落、再び「今年3番目の下落」を記録してしまった。「4月5日以来2か月ぶりの安値」ということは、黒田日銀が打ち出した「異次元の金融緩和」の効果が殆ど剥げ落ちたということ。

「戦力の逐次投入はしない」と大見得を切って「異次元の金融緩和」に踏み切った黒田日銀が、その後の長期金利の乱高下によって、6月以降国債買入れ回数を月8回から10回以上に増やす「逐次投入」への変更に追い込まれ、選挙を意識して「逐次投入」をして来た「成長戦略」の締め括りを飾る第3弾が「異次元の金融緩和」の効果を殆ど掃き出させる結果になるというのは、何とも皮肉な展開である。

有識者や専門家達の間では、「成長戦略第3弾」が株価急落のきっかけになったのは、「新味に欠ける」内容であったからだという見方が主流のようである。曰く、「法人税減税や雇用流動化策に踏み込まなかった」。

「法人税減税や雇用流動化策に踏み込んでも株価下落は防げなかった」と断言は出来ないが、「法人税減税や雇用流動化策」が「成長戦略第3弾」に盛り込まれないことが「事前の報道の範囲内」であったことを考えると、「新味に欠ける」ことが「今年3番目の下落」を招いたという有識者や専門家達の解説は、説得力に欠けると指摘されても仕方のないもの。

ポイントは、足許の株式市場は、「26億株強、金額で4兆円弱に及ぶ裁定取引買残(5月31日時点)」、「3兆円強の信用取引残高(5月24日時点)」が積み上がり、「利食いが出来ない状況」になっていたことである。株式市場に、「高水準の裁定買残と信用買残」というガスが充満していた。これだけでは「市場の爆発」は起きないが、誰かが「利食い」、或いは「ヘッジ売り」という「火種」を提供すれば、何時でも売りが売りを呼ぶ展開になってもおかしくない状況にあったことは間違いない。

金融市場の一つの特徴は、新規のポジションを構築する過程では価格変動は穏やかになり、既存のポジションが破壊される過程で価格変動が激しくなりやすいということ。新規ポジションの構築は、冷静な判断に従って慎重に、価格に応じて行われるが、既存ポジションの破壊は、ポジションの破壊そのものが最優先事項になるため、価格の優先順位が下がるからである。Volatilityの上昇が示すのは、「将来の予想変動率の上昇」ではなく、「既存ポジションが破壊されつつある」ことである。

選挙を意識して「逐次投入」されて来た「成長戦略」の最終章に、市場が「事前の報道の範囲」から逸脱した「異次元の成長戦略」になることに期待していたとする有識者や専門家達の見解は、彼らが金融市場の専門家ではないことを露呈するものでもある。

それにしても、「成長戦略第3弾」は、インパクトに欠けるものではあった。マスコミ等で散々取り上げられて来た「インターネットによる、一般医薬品の販売を解禁」。これ自体は大きな「規制緩和」の成果なのかもしれないが、連日これが「成長戦略」の象徴であるかのような報道が繰り返されてしまったことによって、アベノミクスの「成長戦略」自体が小粒で子細なものを掻き集めたものという印象を与えてしまったことは否めない。

「昨今の株価の動きに対しまして、『株価が下がったら、アベノミクスは終わりだ』という方までいらっしゃいます」

「成長戦略第3弾スピーチ」の冒頭部分でこのように語り、「成長戦略」こそがアベノミクスの本丸であることを強調した安倍総理。確かに、株価の下落によってアベノミクスが水泡に帰すことはないかもしれないが、「円安・株高」という麻酔が切れ始めたことにより、国民が痛みや疑問を感じ易くなることは、総理も認識しておくべきである。

日銀が4日発表した5月の資金供給量(マネタリーベース、月中平均)は、前年同月比31.6%増の154兆1412億円と、3カ月連続で過去最高を更新し、「異次元の金融緩和」が順調に実施されているかのような報道がなされていた。しかし、前年同月比で増加した約37兆円のうち、準備預金の増加額は34兆4439億円と、マネタリーベースの増加額の93%を占めている。黒田体制になった13年3月比で見ても、マネタリーベースは19兆4000億円増加しているが、その内97.6%に相当する18兆9376億円は準備預金の増加である。「異次元の金融緩和」によって供給された資金の殆どが、日銀の準備預金に還流して来ており、「金融システム外」には出て行っていないことが示されている。

想定通りに「金融システム外」に出て行かないマネー、想定通りの範囲に留まった「成長戦略」。つい少し前まで順風満帆と見られていたアベノミクスに、明らかに逆風が吹き始めて来ている。
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近藤駿介

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