ボラティリティは収まって来ている ~「無知」と「誤解」に働きかける日銀総裁

「これまで長期国債オペの弾力化の努力を行い、ボラティリティも大分収まってきている中で、今、何か新たなツールを決めて、いつでも使えるようにすることまでの必要性はないのではないか、ということだったと思います」

昨日の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田日銀総裁は、今回長期金利の乱高下に対応した対策を打ち出さなかったことについて、このように説明した。長期金利が急上昇したと言っても、一時的に1%を付けた後は概ね0.8%台という低い水準で推移しているという余裕もあったのか、黒田総裁は長期金利の動向について、「水準」よりも「ボラティリティ」を重要視している姿勢をとり続けた。

「日本銀行としては、特に長期金利に関して、ボラティリティが高まることによって上がることは非常に好ましくないため、様々な努力をしてボラティリティを縮小するようにしています」

黒田日銀総裁は、会見内でこのような発言も含め、何回も「ボラティリティ」という言葉を使い、「ボラティリティの上昇」を警戒している姿勢をみせた。しかし、会見を聞く限り、黒田日銀総裁が本当に「ボラティリティ」を正しく理解しているのかは大いに疑問である。

「ボラティリティが高まることによって(長期金利が)上がることは非常に好ましくない」と言っているが、「ボラティリティ」が高まるから長期金利が上昇するのではなく、長期金利が大きく変動するから「ボラティリティ」が上昇するのである。黒田日銀総裁の発言は「原因と結果」が逆さになっている。こうした「原因と結果」を逆さにした認識が、「2%という物価安定目標を掲げれば、2%の物価上昇を達成出来る」という誤った判断を生み、それが長期金利の上昇をもたらす原因となったことなど、全く念頭に無いようであった。

金融市場が不安定な動きになるたびに、マスコミや専門家といわれる人達が、やたらと「ボラティリティ」という言葉を使うようになって来ている。誰にでも分かる「株価」について話すと、「当った外れた」という世界に引きずり込まれてしまうので、殆どの人に馴染のない「ボラティリティ」に話を持って行くのは、専門家として賢明な判断である。しかし、中にはイメージだけで「ボラティリティ」という言葉を使う専門家もいるので要注意である。

「ボラティリティ」に関しての詳細は別の機会に譲るとして、「ボラティリティ」に関して若干誤解されていると感じることについて。

最近の金融市場の乱高下の原因について、専門家の間では、FRBの「出口論」などを中心とした「外的要因によるもの」という見解が主流のようである。しかし、「ボラティリティ」を通してみると、こうした見方の信憑性はかなり低いと言える。

12日時点での日経平均株価の「ボラティリティ(21日営業日ベース:以下同様)」は45.5%と、リーマン・ショック後の最高水準になっている。一方、FRBの「出口論」の震源地である米国のNYダウの「ボラティリティ」は11日時点で11.6%と、日経平均株価の4分の1のレベルでしかない。

本当にFRBの「出口論」が金融市場の乱高下の原因であるならば、震源地のNY株式市場の「ボラティリティ」はもっと上昇していて然るべきである。ちなみに、黒田日銀総裁が日本経済の不確実性要因として挙げている「欧州債務問題」の震源地である欧州の株式市場の「ボラティリティ」も、英国のFT100指数が17.2%、ドイツのDAX指数が16.3%と、日本の株式市場に比較して極めて低い水準、つまり「リスクが低い」状況にある。

主要国VLT比較

参考までに、2013年に入って主要国でパフォーマンスの悪いブラジルの株式市場(リターン=▲18.35%)の「ボラティリティ」は20.1%、ロシアの株式市場(リターン=17.24%)の「ボラティリティ」も26.3%と、日本に比較して遥かに低い水準にある。こうした事実から言えることは、日本の株式市場の乱高下をもたらしている原因は、「外的要因」よりも「国内要因」の方がウエイトが高いということである。

「これまで長期国債オペの弾力化の努力を行い、ボラティリティも大分収まってきている」

黒田日銀総裁の口ぶりは、「ボラティリティ」が収まって来ていることが、さも、市場との対話による成果であるかのようなものであった。しかし、「ボラティリティ」というのは金利や株価などのように上がり続けることはなく、水準とは別に自然に収まるものである。「ボラティリティ」がリーマン・ショック後の最高水準にある日経平均株価で考えてみると、イメージとして分かりやすいはずである。

12日時点での日経平均株価は13,289円、「ボラティリティ」は45.5%である。仮に、この先日経平均株価が連日1%ずつ上昇したとすると、1か月後の7月11日には16,377円まで上昇することになる。その時の「ボラティリティ(21営業日ベース)」は計算上「0%」になる(ケースA)。また、この先連日2%上昇と2%下落を繰り返した場合(ケースB)、7月11日の日経平均株価は13,500円と殆ど横ばいとなる。そして、その時の「ボラティリティ」は32.4%である。最後に、連日1%ずつ下落した場合、7月11日の日経平均株価は10,760円となり、その時の「ボラティリティ」も計算上「0%」となる。

日経平均Vlt

計算上0%になることはあっても、実際には0%になることはあり得ない。ポイントは、金融市場の「ボラティリティ」は、時間が経てば何もしなくても収まるものであり、それを以て長期金利の上昇を抑えるための政策を打ち出さないと主張するのは全く滑稽な話だということである。もちろん、「ボラティリティ」がこれ以上上昇しないということではないが、「ボラティリティ」が収まることと、株価水準(金利水準)が元に戻ることとは同義ではない。黒田日銀総裁がこうしたことを理解した上で発言しているのか、理解していないで発言しているのかは定かではないが、印象としては後者である可能性は高い。

「ボラティリティ」を通してみると、日本の金融市場の乱高下の原因をFRBの「出口論」に求めるのは難しいと言わざるを得ない状況にある。政府が日本の金融市場の乱高下を「外的要因」に押付け、日銀総裁が「ボラティリティ」という言葉を乱発して曖昧な回答をし続けられるのは、マスコミが「ボラティリティ」に対する認識を持ち合わせていない「金融後進国」の特権である。
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