数の呪縛 ~「株価」と比較して「出来高」の調整が遅れている株式市場

「3週間にわたって大幅下落が続いた日本株相場。14日の先物・オプションの特別清算指数(SQ)算出日を越えて、調整は最終局面に来たとの指摘がある。株価指標でみると底入れを示すデータが増えており、先物主導で大幅安となる展開は今後、徐々に沈静化するとの見方が出ている」

SQを過ぎたことで、「先物に振り回される相場展開」が終わるのではないかという漠然とした期待が高まっているようだ。確かに、SQ値は12,668円と、14日の日経平均の始値とほぼ同じで、「14日は日経平均先物・オプション6月物の特別清算指数(SQ)算出日であったが、前日までに持ち高の整理が進み、算出に伴う波乱は見られなかった」(15日付日本経済新聞)。

SQ算出に伴う波乱はなかったが、「東証1部の売買代金は3兆3千億円強と、SQ算出日としては3月以降で最も低い水準」(同)というのは気に掛かるところ。日経新聞は「18~19日に開催されるFOMCを前に、積極的な売買を手控える投資家が多かったようだ」という解説を加えているが、裁定取引は「相場観」に基づく取引ではないので、FOMCを控えていようがいまいが関係のないこと。SQでの売買が少なかったということは、日経が指摘するように「持ち高の整理が進んでいた」可能性もあるが、裁定買残が9月物にロールオーバーされた(先送りされた)可能性もあるということ。

株式市場が今後沈静化するとの見方の根拠は、指標面で「25日移動平均線からの下方かい離が10%を超えた」ことや、「13日の安値である1万2415円が、高値からほぼ半値押しの水準」になったことなどである。

14日時点での日経平均のボラティリティ(21営業日ベース)は49.8%まで上昇し、1990年のバブル崩壊時の45.0%(1990/4/19、日経平均終値29,945円)を上回っており、外的ショックを原因としない下落局面としては、ほぼ最高水準にあり、確率的にはこれ以上のボラティリティが上昇する可能性は高くない状況にある。しかし、「ボラティリティの低下=株価が安定、或いは上昇」ということではない。50%近いボラティリティが一変に20%前後に低下するわけではないし、日経平均が連日200円や300円上下に変動したところでボラティリティは低下して行くことを忘れてはならない。確かなことはボラティリティが低下するには一定の「時間」が必要だということである。

指標面では底入れの兆しは出ているかもしれないが、SQを越えたからといって「カラっとした視界良好な相場」(日経電子版)になると考えるのは早計である。相場の調整は、「価格」と「時間」によって行われていくが、「移動平均線からの乖離率」や「半値押し」というのは「価格」に基づいた分析であり、「時間」の概念は入っていない。

「時間」を推し量る一つの手掛かりとなり得るのは「出来高」である。

相場の起点を何処にするかによって誤差は生じて来るが、2012年11月14日の党首討論で野田前首相が「自爆解散」を宣言した日を「アベノミクス相場」の起点とすると、そこから先月5月22日に高値をとるまでの約半年間の東証一部の出来高の合計は4,318.6億株になる。そして、翌23日の急落以降、6月14日までの出来高の合計は735億株であり、高値をとるまでの期間の僅か17%に過ぎない。まだ、3,584億株が未整理のままと言える状況にある。「価格」面では「半値押し」の水準まで調整して来ているが、「出来高」の面ではまだ17%しか調整していないのである。

「アベノミクス相場」を加速させたのは、4月4日に黒田日銀が打ち出した「異次元の金融緩和」である。実際に「自爆解散宣言」から「異次元の金融緩和」が打ち出される前、4月3日までの期間、出来高1億株当たりの日経平均株価の上昇幅は1円36銭であったが、4月4日以降5月22日の高値までの出来高1億株当たりの日経平均株価の上昇幅は2円7銭と、それまでの1.5倍以上のピッチになっている。

黒田日銀が「異次元の金融緩和」を打ち出した4月4日の日経平均株価の終値は12,634円であり、6月13日の下落によって「異次元の金融緩和」の「株価」押し上げ効果は一旦全て掃き出された格好になっている。しかし、「出来高」を見てみると、4月4日から5月22日までの累計出来高1,444.9億株に対して、5月23日から6月14日までの累計出来高は735億株であり、「出来高」の調整は50.8%に過ぎない。

アベノミクス相場出来高分析

こうしてみると、足許の株式市場は、「価格」面での調整に比較して「出来高」面での調整が遅れている状況にあると言える。こうした「出来高」面での調整が「価格」に追い付けないのは相場の常であるが、「カラっとした視界良好な相場」に入るためには、もう少し「出来高」面の調整が進む必要がある。

ところで、15日付の日経新聞「まちかど~オプション市場で警戒感」では、オプション市場で7月満期の15,000円コールと10,000円プットの取引が活発であることが紹介されている。記事の中では「乱高下を経験した後だけにプットとコールを両方買い、株価が上下どちらに振れても『保険』にしようと備える機関投資家がいる」と記されている。そして、この記事は、「相場が大きく動けば再び値動きが増幅する要因になりかねない」という懸念を紹介して結ばれている。

ボラティリティが約50%の水準で、これらの勝てる可能性の低いオプションを両方買うような無駄金を使う、プロとは言えない機関投資家が多数存在するとは思えないが、こうしたポジションが市場で作られているとしたら、それはこの記事が紹介しているような「再び値動きを増幅する要因」ではなく、「将来日経平均株価のボラティリティ上昇を抑える要因」となるものである。

ボラティリティが50%の水準でオプションを購入した投資家がこのオプションを利食えるのは、日経平均のボラティリティが60%、70%、80%と上昇して行くことが前提だからである。参考までに、日経平均株価のボラティリティ(21営業日ベース)が60%を越えたのは、1985年以降、1987年のブラックマンデーと2008年のリーマン・ショックの2回しかない。ボラティリティ50%の水準で購入したオプションが利食える可能性は高くなく、こうしたオプションは満期までに投げられる可能性が高い。そして、こうしたオプションの損切は、ボラティリティを抑える要因になるのである。
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