過剰演出されるG8における「アベノミクスに対する評価」

「首脳から強い期待と高い評価が得られた。デフレから脱却し、強い経済を取り戻して世界経済の成長に貢献しなければならないとの責任を痛感した」

安倍首相は主要8カ国(G8)首脳会議を終えて記者会見し、成果を強調した。

「英国・北アイルランド、ロックアーンで開いた主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)は17日夜(日本時間18日朝)、世界経済に関する首脳宣言を発表した。安倍晋三首相の経済政策『アベノミクス』に関して『日本の成長は短期の財政刺激策、大胆な金融政策、民間投資を喚起する成長戦略に支えられている』と評価した」(18日日本経済新聞)

マスコミ報道でも、今回のG8で「アベノミクス」は概ね高評価を受けたと報じられている。それはそれで結構なことだが、「日本の成長は短期的な財政刺激策、大胆な金融政策および最近発表された民間投資を喚起する戦略により支えられる」という文章がコミュニケに入ったことをもって、「安倍内閣の経済政策に一定の評価」という報道になってしまうところが恐ろしいところでもある。

外務省のHPに掲載されている「G8ロック・アーン・サミット コミュニケ 世界経済(仮訳)」を普通に読むと、「日本の成長は,短期的な財政刺激策,大胆な金融政策及び最近発表された民間投資を喚起する戦略により支えられる。しかし,日本は,信頼できる中期的な財政計画を定めるという課題に応える必要がある」という文章は、日米欧経済の現状認識の中での一節に過ぎず、G8が「アベノミクスに一定の評価をした」結果わざわざ言及したものとはとても思えないもの。

コミュニケの最後には、「こうした背景を踏まえ,…(中略)… 我々は,本日以下に合意した」として、4項目が記されているが、それらは財政や金融政策の全体論が示されているだけで、「アベノミクス」を含めて各国の政策について具体的に触れた部分はない。「アベノミクス」は「こうした背景」の中の一つのパーツとして紹介されているだけで、総理とマスコミが強調しているような「G8首脳に評価された」という雰囲気は、このコミュニケからは全く伝わって来ない。

このコミュニケは「アベノミクス」に触れる直前の文章で米国についてこのように述べている。

「米国は、バランスのとれた中期的な財政の持続可能性に向けた進展及び成長を高めるための的を絞った投資が引き続き必要である。こうした中にあって、米国の回復は続いており、財政赤字は急速に減少している」

「米国の回復は続いており,財政赤字は急速に減少している」という表現は、米国が「成果」を上げていることを認めたもので、「日本の成長は,短期的な財政刺激策,大胆な金融政策及び最近発表された民間投資を喚起する戦略により支えられる」という単なる「事実」を紹介した文章と比較すると、G8が米国の政策をより高く評価していることが明白に伝わって来る。しかし、日本のマスコミは、財政赤字を急速に減少させているという米国の「成果」がG8で高く評価されていることは全く触れていない。

「期待に働きかける」ことが重要な要素になっているアベノミクスにとっては、国民に対して「G8で高い評価を受けた」という印象を与えることが必要不可欠なのかもしれない。しかし、G8で「アベノミクスは評価を受けた」とする総理の発言や報道は、「期待に働きかける」ための演出過剰の感は否めない。

今回のG8は、実際にはシリア問題に多くの時間が割かれたようである。そんな中重要な議題の一つとなったのは、英国キャメロン首相が強く主張して来た「多国籍企業による課税回避の取締り強化」。これについては、具体性には欠けるという批判はあるものの、「企業の所有者に関する透明性向上や税務当局間の情報共有強化などを目指す方針」で各国が合意した。

G8コミュニケでは「我々は、需要を下支えし、我々の国家財政を確かなものとし、…」という文言が何回も繰り返し掲げられている。これは、「国家財政を確かなもの」にする目的で実施した付加価値税増税が、「需要」を冷やし、さらなる国家財政の悪化を招いたユーロの失敗を繰り返してはいけないという強い意思の表れを感じさせるもの。そして、現実問題としても、「需要を下支えし、我々の国家財政を確かのもの」にするためには、国民負担を増やすのではなく、多国籍企業からの法人税徴収漏れを防ぐ以外の選択肢はなくなって来ていることを印象付けるものでもある。

バミューダ諸島やヴァージン諸島、ケイマン諸島など、複数の英領タックスヘイブンを保有する英国の首相が「多国籍企業による課税回避の取締り強化」の議論を主導するのもおかしな構図だが、先進国の財政問題を解決するための数少ない方策であり、曲がりなりにも合意に達したことは小さな前進。

G8が「多国籍企業による課税回避の取締り強化」で合意する中、国内では「経済産業省は2014年度の税制改正で、税務上の費用(損金)として算入できる役員報酬の範囲の拡大を要望する方針」であることが報じられている。法人税減税に加え、課税所得額を圧縮するために役員報酬の成果報酬分まで損金として認めるのは、「国家財政を確かのもの」にするために税収源を「個人から多国籍企業へ」と方針転換し始めたG8と理念を異にするもの。

損失が生じた際には繰越欠損金によって法人税を回避することが可能で、利益が出た場合には法人税減税と役員報酬の損金算入で納税額を圧縮するという「良い所取り」を法人に認めて行く過保護行政を繰り返す日本で、本当に国際競争力の強い企業が育つのだろうか。

今回のロック・アーン・サミットは地味なサミットであったが、日本と各国の認識の差が垣間見られるイベントであった。
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