金利上昇に「当惑」するFRB~緩和の「入口」で苦しむ日銀と「出口」で苦しむFRB

投資に「たられば」は厳禁である。

しかし、注目された20日のFOMC後に行われたバーナンキFRB議長の記者会見は、投資家にとって最も関心の高い部分に「たられば」が散りばめられていた。

「今後発表される経済指標がこの見通しとおおむね一致すれば、毎月の資産買い入れ規模を年内に縮小させることが適切であると、FOMCは現時点で予想している。さらにその後の経済指標が引き続きわれわれの現在の経済見通しとほぼ一致すれば、来年上半期を通して慎重なペースで買い入れを縮小していき、年央あたりに終了させる」(和訳はロイターサイトより、以下同様)

投資において厳禁であるとされる「たられば」を取り去れば、「毎月の資産買い入れ規模を年内に縮小させ、来年上半期を通して慎重なペースで買い入れを縮小していき、年央あたりに終了させる」ということになる。

バーナンキFRB議長が「資産買入れ規模の縮小」を示唆する可能性を市場は感じていたはずであるが、具体的な時期を明示するというのは「想定外」だったはずである。実際にこの記者会見の中でバーナンキFRB議長は「ここであらためて強調したいのは、政策に関する時期や日程について明示しないことが重要であるということだ」と矛盾するかのような発言している。「明示しないことが重要だ」と主張するFRB議長は、「たられば」を付け加えることで、「資産買入れ規模の縮小」に関して具体的な時期の「明示」を避け、市場への影響を抑えようとしたのかもしれない。

その他バーナンキ議長は、「資産買い入れを通じた緩和の打ち止めとFF金利の誘導目標を一段と正常な水準に向けて変更することによる緩和解除の開始にはかなりの時間的な開きがあると、FOMCは予想している」と述べ、「資産買入れ終了」が直ちに金融引締めを意味するものではないことや、「インフレ率が2%の目標に少なくとも徐々に近付き始めることが、私が説明している政策の道筋の前提条件の一つだ。こうした条件が実現しなければ、FOMCとしてなんらかの策を講じる必要が出てくることは明らかだ」と述べることで、「資産買入れ規模の縮小」が決定事項ではなく、経済状況によっては「資産買入れ規模の維持、拡大」にも含みを残すなど、極めて慎重に発言をしている。

しかし、バーナンキ議長が慎重を期した「たられば」発言に対する市場の反応は、引けまで1時間半程度という時間的な影響もあり、「ドル高・金利上昇・株安」という「教科書通り」のものとなった。

その他バーナンキFRB議長の発言の中で印象的だったのは、金利に関する部分。

「金利上昇についてはやや当惑している。妥当な範囲内での資産買い入れ規模の変更をもってしても説明がつかないほどの大幅な上昇となっている。そのため、景気に対する楽観的な見方といった他の要因が働いている可能性があると判断する。不透明性の高まりも一因かもしれない。ただ、金融政策見通しの変更によっても説明できないほどの大幅な上昇となっていることは確かだ」

「当惑している」、「金融政策見通しの変更によっても説明できないほどの大幅な上昇」という表現は、FRBが金利上昇をかなり深刻に捉えていることを示唆するもの。「財政政策やその他の向かい風に起因する短期的な阻害要因が後退し、向こう数四半期にわたり緩やかな成長が加速」と、これまで懸念を示して来た財政赤字という「向かい風」が弱まることを基本シナリオとして「資産買入れ規模の縮小」に向かおうとしているFRBは、財政赤字減少によってリスクプレミアムが低下し、その分金利が低下することを見込んでいたはずである。

「FRBはインフレが再び上昇すると予想している。…(中略)… 責務を最大限果たすためには、実質金利に変動余地ができるよう十分なインフレが必要」

金利の上昇とともにバーナンキFRB議長を悩ませているのが最近の低インフレ傾向である。今回の声明文では低インフレ傾向を「一時的」としているが、(期待)インフレ率の低下は実質金利の上昇をもたらすもので、「資産買入れ規模の縮小」が金融引締めを意味しないとしても、実質金利の上昇が実質金融引締めになってしまう可能性もある。最近の低インフレ傾向を「一時的」と見ていいものかについては、一部、市場との認識の違いはあるし、今回のFOMCでも「ブラード委員(セントルイス連銀総裁)は、最近のインフレ指標の低さを踏まえFOMCとしてインフレ目標を守る姿勢を一段と強く示すべきと主張」して反対票を投じており、FOMC内部でも意見の相違がみられている。

これらの懸念を抱えながらもFRBが「資産買取り規模の縮小」に踏み込んだのは、住宅価格の上昇に対して強い警戒感を抱いているからのようだ。バーナンキFRB議長は会見で「住宅市場については状況を注視したい。ただ、現時点でこれまでと異なる重要な点の一つは、国民が住宅についてより楽観的になっており、住宅価格が今後も上昇すると予想していることだ」と述べている。80年代以降、S&L危機、リーマンショックと、住宅バブルを経験して来ている米国にとって、住宅価格の上昇に対する警戒感は想像以上に強いようである。

「例えば、金融状況がわれわれの見通しの実現を阻む方向に動くようであれば、政策の調整を迫られる根拠となる」という発言は、雇用統計やインフレ指標以外に、長期金利の予想を上回る上昇が、「資産買入れ規模の縮小」の変更を迫る要因になり得ることを示唆しているようである。これまで「雇用統計」が最も注目されて来たが、この先暫くはインフレ指標や長期金利の動向にも注意が必要である。

大規模な金融緩和からの「出口」で長期金利のコントロールに苦しみ始めたFRB。大規模な金融緩和の「入口」で長期金利のコントロールに苦しむ日銀。FRBが「資産買入れ規模の縮小」の方向性を明らかにしたことで、次の焦点はFRBが長期金利をコントロール出来るのかということに移っていく可能性が高い。
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