FRB「資産買入れ規模縮小」が招く市場の混乱~「資金」はあれど「投資資金は細る」?

20日のNY株式市場は、前日のFOMC後の記者会見でバーナンキFRB議長が「資産買入れ規模の縮小」の「時期」に言及したことから、金融緩和が早期に終了するとの見方が広がったことから前日比350ドル安と、今年最大の下落を記録、2日間で500ドル以上の下落となった。

「米国の量的金融緩和が早期に縮小されるとの見方が強まり、資金流入が細るとして売りが続いた」

NY株式市場の大幅下落については、概ねこのような解説がなされている。しかし、本当に「資産買入れ規模の縮小」が「投資資金の縮小」に繋がるのだろうか。

米国の5月時点での準備預金の状況を見てみると、法定準備預金額1,171億ドルに対して、実際に積まれている準備預金額は1兆9840億ドルとなっている。つまり、法定準備預金額の16.9倍、金額にして1兆8633億ドルも余計に準備預金が積まれている。計算上は、毎月FRBが実施している資産買入れ850億ドルの22か月分に相当する自由に使える資金を準備預金に積んであるということ。

米国準備預金

こうした状況は日本も同様である。日本の4月時点での法定準備預金額は約8兆円であるが、これに対して、実際には法定準備預金額の約7.3倍に相当する58.6兆円の準備預金が日銀に積まれている。つまり、日本の金融機関は必要があれば何時でも余分に積んである約50兆円の資金を日銀から引き出して使える状況にある。

日本準備預金

日米とも「金融機関が自由に使える資金」は、中央銀行に潤沢に退蔵されており、仮にFRBが毎月実施している850億ドルの資産買入による資金供給を中止しても、理屈上は投資資金が直ぐに不足することはないはずである。FRBが早期に金融緩和縮小に向かうことで投資資金が減り、それで株価下落を招くという論理は、尤もらしく聞こえるが、必ずしも正しいとは限らない。もちろん、理論上正しいか否かに関係なく、多くの投資家がそう信じて行動すれば、その理屈は結果論としては正当化されることになるが。

これ以外の理屈もいろいろと考えられるが、それはさておき、気に掛かるのは先日の記者会見でバーナンキFRB議長が発した「金利上昇についてはやや当惑している」というコメント。

21日のNY市場は、ダウは小幅に自律反発したものの、金利は上昇。10年債利回りは約2年ぶりに2.5%台まで上昇した。バーナンキFRB議長が「資産買入れ規模縮小」の「時期」についてまで言及したことから、金利が上昇すること自体は理にかなった動きであるし、過去2回の金融緩和局面でも10年国債利回りの上昇は見られており、現象としては特殊なことではない。

ポイントは、過去2回の金融緩和局面では見られなかった「BEI(期待インフレ率)」の低下が顕著になって来ているところである。20日にはBEI(10年債)は1.95%と、2011年12月以来、1年半ぶりに2%を割り込み、5年のBEIも1.69%と1年ぶりの水準まで低下して来ている。

米国期待インフレ率

過去2回のQE局面でも国債利回りは上昇したが、BEIも上昇しており、「実質金利(名目金利-期待インフレ率)」自体の上昇は抑制されていた。しかし、今回は、BEIの低下傾向が鮮明になる中で長期金利が上昇して来ており、長らくマイナス金利で推移して来た「実質金利(10年)」もここに来て大幅に上昇。21日時点では0.55%と、2011年7月以来約2年ぶりの水準になって来ている。

バーナンキFRB議長が記者会見で「ブレークイーブンレートが低下していることは事実だが、現時点では依然として過去数年のレンジ内にとどまっている」と発言している通り、BEIは「過去数年のレンジ内にとどまっている」が、問題なのは「期待インフレ率」が「過去数年のトレンドから大きく逸脱し始めた」ことである。

BEIの低下による「実質金利」の上昇から想像されることは、QEが投資家の「期待に働きかける」ことが出来なくなって来ていることと、「インフレ率の低下は一時的」という公式見解を示しているFRBと市場の認識に乖離が生じて来ていることなどである。こうした認識の乖離は、FRBに対する信認の低下を招きかねないもの。

「資産買入れ規模の縮小」が政策金利の引上げ等、金融引締めを意味するものではないことを浸透させようとしていたバーナンキFRB議長にとって、市場金利の上昇は、FRBの意図に反して金融引締めが実施されることと同義。金融を引き締めることなくFRBのバランスシート拡大を止めることを目論んでいたバーナンキFRB議長と、FRBの意図に反して金融引締めに向かう市場。こうした乖離がバーナンキFRB議長を悩ませているようだ。

「金利上昇についてはやや当惑している」とコメントしたバーナンキFRB議長。議長が「当惑」しているのは、「何故FRBは市場の『期待に働きかける』ことが出来なくなったのか」ということかもしれない。

さて、先日のバーナンキFRB議長の記者会見に関して、前回書ききれなかった部分について簡単に追記。

バーナンキFRB議長の記者会見で印象的であったのは、住宅市場に対する強い警戒心を抱いていること。議長は、「住宅市場については状況を注視したい。ただ、現時点でこれまでと異なる重要な点の一つは、国民が住宅についてより楽観的になっており、住宅価格が今後も上昇すると予想していることだ」と発言し、FRBの見解は「住宅市場の回復は不十分」とする一般的な市場の見方と完全に異なることを明確にした。

こうした考えを反映して、バーナンキFRB議長は「出口戦略」に関する質問に対して、「FRBのポートフォリオの大部分が、財務省証券で構成されると参加者は引き続き考えるものの、かなりの多数が金融政策の正常化過程で住宅ローン担保証券(MBS)を売却しないと現在は想定している。ただ、より長期では保有するMBSの減少や削減に向けて、限定的な売却も行い得る」と発言し、MBSを市場で売却する可能性まで匂わせている。

同じ「資産買入」であっても、国債(財務省証券)の買入れは「量的緩和」の色彩が強く、MBSの買入れは「信用緩和」の意味合いが強い。バーナンキFRB議長は、住宅市場に関してはFRBが信用補完をする必要はないところまで回復して来ている、あるいはこれ以上の信用補完は副作用が大きいと考えているようだ。

バーナンキFRB議長は、「金融状況がわれわれの見通しの実現を阻む方向に動くようであれば、政策の調整を迫られる根拠となる」、「FRBはインフレが再び上昇すると予想している。それがわれわれの予想だが、懸念していないというのはまったくの誤りだ。われわれは懸念を抱いている。インフレを目標水準に戻したいと考えており、数値目標を考える上でこのことが一つの検討材料になる。資産買い入れを考える上でも検討要素になる」とも発言しており、「期待インフレ率」の低下と金利の上昇によって「実質金利」の上昇がみられた場合には、「資産買入れ縮小」を見直す可能性があることも示唆している。

バーナンキFRB議長が、住宅市場の動向に強い懸念を持っているとしたら、仮に「資産買入れ規模の拡大」に追い込まれた場合には、MBSはその対象から外れるのかもしれない。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

メルマガのお知らせ

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR