日本株「3つに下支え」?~米国金利上昇が誘発した「キャリートレードの巻戻し」

「19日のFOMCの結果発表後、20日までに米欧株は3%超下げた。これに対し日経平均は、20日の下落率が1.7%にとどまったうえ21日は1.7%上昇。同じ2日間で6%超下落したインドネシアなど新興国に比べ、直近は底堅さが目立つ。日本株を下支えする要因は、大きく3つある」

22日付日本経済新聞は、「日本株に3つの支え」という見出しで、「ドル高基調」「内需好調」「割高感解消」の3つが、日本株を下支えするという、お得意の根拠曖昧な楽観的観測記事を掲載した。

「新興国に比べ、直近は底堅さが目立つ」というのはその通りかもしれない。しかし、2013年の高値からの下落率でみると、日経平均株価の下落率は21日時点で▲15.3%と、NYダウの▲4.0%、英FT100の▲9.9%、独DAXの▲8.7%、インドの▲7.5%を大きく上回っており、香港の▲14.9%やMSCI新興国指数の▲16.8%とほぼ同レベルで「新興国に比べ底堅さが目立つ」とは言い切れない状況にある。

バーナンキFRB議長が「資産買取り規模縮小」の「時期」に言及したことに対して、為替市場は米国金利上昇を見込み、ドル高という「教科書通り」の反応を示し、株式市場は新興国市場を中心に大幅下落した。新興国市場を中心とした株価の下落に関しては、FRBの「資産買取り規模縮小」により、「投資資金が細る」という説明がなされている。

しかし、先日ふれたように、米国の金融機関がFRBに積んでいる準備預金額は、法定預金準備額の約16.9倍となっており、FRBが「資産買取り規模縮小」をしたところで投資資金に困ることはない状況にある。
【参照】FRB「資産買入れ規模縮小」が招く市場の混乱~「資金」はあれど「投資資金は細る」?

FRBが「資産買取り規模縮小」に向かっても投資資金に困ることはないにもかかわらず、何故新興国株が売られ、ドルが買われるのだろうか。

「緩和縮小が近づいていることを米金融当局が示唆したため、ボラティリティが1年ぶりの高水準となり、キャリートレードで損失が発生した。…(中略)… ドイツ銀行のG10・FXキャリー・バスケット指数 は昨年10月以来の低水準となった」(20日Bloomberg)

その原因は、バーナンキFRB議長の「資産買取り規模縮小」の「時期」に言及した発言が、ドルを「調達通貨」としたキャリートレードに対する死刑宣告に近いものだったからである。

キャリートレードとは「金利の低い通貨で資金調達して、金利の高い通貨で運用して利ザヤを稼ぐ手法」である。キャリートレードで「調達通貨」となるのは、「金利が上がらない」「(量的にも)調達が容易」「通貨高になり難い」という条件を満たす通貨であり、5月初旬位までは、米ドルはこれらの条件を満たす通貨であった(円に対しては昨年12月から円安・ドル高に転じていたが、新興国通貨に対しては5月初旬までドル安が続いていた)。

US$ Index vs MSCI EM

しかし、5月初旬を境に、ドルは「金利上昇」「通貨高」に転じ、キャリートレードの「調達通貨」としての条件を欠き始めてしまっていた。こうした状況変化もあり5月初旬から新興国株は調整色を強めていた。そこに飛び出したのがバーナンキFRB議長の「資産買取り規模縮小」宣告である。この宣告により、ドルは最後の「調達が容易」という条件までもが失われる可能性が高まることになった。バーナンキFRB議長の「資産買入れ規模縮小」宣告は、ドルを「調達通貨」にしたキャリートレードを行って来た投資家に引導を渡すものだったのである。

バーナンキFRB議長の「資産買取り規模縮小」発言以降のドル高は、キャリートレードを行って来た投資家が、借入れたドル資金の返済を急いだことによってもたらされている可能性が高く、円に対して「ドル高基調」に転じるかは別問題である。

CTFC(米先物取引委員会)が公表している 6月11日時点でのIMM日本円の大口投機玉は、前週と比べ9,838枚縮小し、ネットで72,906枚の売り越し(ドル買い)となった。5月末の99,769枚からは30%近く減少したものの、ドル買・円売りポジションは、依然として高水準なものになっている。こうしたポジションは対円での「ドル高基調」にブレーキをかける要因になるもので、ここ数日円安・ドル高に振れたことをもって「ドル高基調」と決め付けるのは早計である。

3つの支えの2つ目の「内需好調」。記事の中では「日本は消費主導で景気が回復しており、新興国よりも景気が安定している」という専門家の見解が紹介されているが、5月の全国コンビニエンスストア売上高(既存店ベース)が12カ月連続、全国スーパー売上高(同)が2カ月連続で前年実績を下回っているなかで、全国百貨店売上高(同)が2カ月ぶりに前年同月比でプラスに転じたことをもって「消費主導で景気が回復」と言い切るのは乱暴である。1571兆円に及ぶ個人金融資産を有する「かつての経済大国」の経済が、「新興国より安定している」のは当たり前である。そもそも、今回の日本株の調整は、「内需好調」の中で起きたことを無視してはいけない。

3つ目の「割高感解消」も、かなり微妙なもの。「5月22日時点では、企業の利益水準に比べた株価水準を示す予想株価収益率(PER)が17倍台にのぼっていた。…(中略)… しかし直近は14倍台に低下」したことを以て「割高感解消」というのも相変わらずの乱暴な議論。21日時点での日経平均の予想PERは14.78倍であり、一株利益を日経平均株価で換算すると895円ということになる。仮にPER17倍が「割高」だとすると、日経平均株価上昇余地はPERの2倍強、価格で1,800円程度になり、日経平均株価の上値の目処は15,200円前後ということになる。要するに「割高感解消」は、上値を追う理由にはならず、あくまで「支え」として期待されるだけである。しかも、PER14倍台が割安であるという根拠はどこにもない。参考までに東証一部全体のPERは15.32倍である。

直近の金融市場の調整は、米国長期金利の上昇がキャリートレードの巻き戻しを誘発した結果と考えるのが、最も自然である。「調達通貨」であるドルの金利上昇は、キャリートレードの巻き戻しの原因となるものである。キャリートレードの巻き戻しが起きれば、新興国を中心としたリスク資産は売られ、投資資金は「調達通貨」であるドルに回帰する。このところ米国のイールドカーブは全体としてスティープ化しているが、金利が上昇しているのは2年以上の部分である。1年以下の金利は僅かながら低下して来ていることは、ドル回帰した資金が米短期市場に流入していることを示唆する現象。

米国の準備預金額が法定準備預金額の17倍近くに達していること、その中で米国の短期金利が僅かながらも低下して来ていることから言えることは、米国金融市場には、投資資金は十分に存在するということである。投資家が念頭に置いておくべきことは、米国金利の上昇を契機に、キャリートレードが縮小を余儀なくされ、投資資金が米国外に流れ難くなったことである。そして、こうした現象は日本株の「下支え」になるかは不明だが、ドルを「下支え」する要因になるものである。
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