「売り注文増え株価値下がり」?~「相場」の問題ではなく、「金融取引」の問題である

「閑散に売りなし」

週明け24日の東京株式市場は、相場の格言通りにはいかなかった。中国本土株式市場が2009年8月以来の大幅下落を記録したことなどから、東京株式市場も薄商いの中、引けにかけて下落した。24日の出来高は22億9346万株で、今年に入って最低だった。

東京株式市場が下落したことについて、NHKのwebsiteは、「売り注文増え株価値下がり」という見出しで報じている。ごく一般的な表現なので、違和感なく聞き流してしまうかもしれないが、これはとても奇異な表現である。

それは、市場で価格が付く(取引が成立する)ということは、売りと買いが同数であるということを忘れているかのような表現だからだ。「売り注文が増え株価が値下がり」するということは、「買い注文も同じだけ増えていた」ということでもある。「売り注文増え株価値下がり」という表現は、「下り坂の方が多い」と言っているようなもの。

報道としては「売り注文増え株価値下がり」ということで十分に雰囲気は伝わるので、殆ど問題はない。しかし、投資家がこのような報道のように捉えていたのでは進歩はない。

市場で商いが成立し価格が付いているということは、売り注文と買い注文が同数であるということ。その中で株価が下落するというのは、価格面で売手が買手に歩み寄ったからである。それは、売手には売り急ぐ理由があったのに対して、買手には買い急ぐ理由が無かったということ。

アジア新興国の殆どの株式市場が下落し、ドルが堅調に推移した状況から推測されることは、金融市場はドルを「調達通貨」としたキャリートレードの巻き戻しという「乱気流」に巻き込まれているということ。

この「乱気流」の恐ろしいことは、ドル高になればより激しさが増す可能性を秘めているところ。「調達通貨」であるドルの上昇は、ドルの借手にとって、それだけで借金が膨らむことになるからだ。ドル高による借金の増加を避けるためには、借手は借りたドルを原資に投資した資産を売却し、早くドルを返済するしかない。しかし、こうした行為は、投資資産の価格の下落を招くと同時に、ドルのさらなる上昇を招く、投資家にとっては自殺的行為でもある。

「ドル高基調」「内需好調」「割高感解消」という3つが日本株の下支えになるという考え方は、バランスシートの「資産サイド」だけをみて、「負債サイド」を無視した日本人的考え方である。キャリートレードの巻き戻しは、借入ドルの返済という「負債サイド」に起因した「金融行為」であり、「資産サイド」に関する「相場」の問題ではない。従って、どんなに「相場議論」しても片手落ちの議論にしかならない。

投資資金が自由に国境を越えて行く経済においては、「ドル高基調」「内需好調」「割高感解消」などという「国内要因」を幾ら並べても余り意味はない。日本のファンダメンタルズとは直接関係のない、海外投資家の様々な事情の影響を強く受けるようになるからである。

先日、「日本株、海外勢の保有比率が最高の28% 12年度」という記事が日本経済新聞の一面を飾ったが、海外勢の保有比率が高まっているということは、投資判断も国際化して行くということである。「日本株、海外勢の保有比率が最高の28% 12年度」という記事を一面で報じた日本を代表する経済紙が、数日後に「日本株に3つの支え」という見出しで、「ドル高基調」「内需好調」「割高感解消」が日本株を下支えすると平然と主張するところが、日本が金融後進国であることの証明のようなものである。

株式とは反対に、海外勢の保有比率が8.4%まで低下した日本国債。キャリートレードの巻き戻しの原因ともなった米国金利は、10年国債利回りが5月初旬の1.66%から、先週末には2.53%まで0.87%程度上昇して来ているが、同期間の日本の10年国債利回りの上昇幅は0.25%程度(ドイツの10年国債は0.5%程度の上昇)と、その影響は限定的になっている。

「海外の成長」を取り込むために、多くの障壁を取り除くということは、それだけ他国の政策的失敗を含め、海外の影響を受けやすくなるということである。日本が幾ら国内的に正しい政策を打ち出したとしても、海外のどこかの国が誤った政策を推進すれば、日本もその代償を払わなければならないということに対して、日本はどの位覚悟が出来ているのだろうか。

「海外の成長を取り込む」ということは、「海外経済の失速」も受け入れなければならないということである。「良い所取り」は出来ないのである。「良い所取り」が出来ない以上、「海外の成長を取り込む」上で重要なことは、「海外経済の失速」などによる国内への悪影響を小さくするために「国内の成長」を果たし、「内需好調」を維持すことである。「国内成長なき海外成長の取り込み」は、日本経済を「乱気流」に晒すだけの危険極まりない行為である。

実体経済に先行すると言われる金融市場の動向から政策当局は何を学ぶのか。日本経済の将来はそこに懸かっている。
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近藤駿介

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Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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