異次元の金融緩和 ~ 「期待インフレ率は上昇し、実質金利は低下するはず」という「期待」に「賭ける」政策

「一時的に金利が上がり、ボラティリティー(変動率)も上がったが、日銀は鎮めてきた。名目金利の上がり方も、予想インフレ率の上がり方に比べて小さいので、実質金利は下がっている。市場も次第に落ち着くだろう」

岩田日銀副総裁は、日本経済新聞のインタビューに応じ、そのなかでこのようにコメントしている。

「ボラティリティーも上がったが、日銀は鎮めてきた」というのは、何とも学者らしいコメント。そもそもボラティリティーの上昇要因を作ったのは日銀であり、それを「鎮めて来た」というのは、完全なマッチポンプ。さらに、ボラティリティーというものは、株価などの価格と異なり、上昇し続けることの無いもの。放っておいても鎮まるのは当然。このような発言は、医者が風邪で熱を出した患者を治したことを成果として強調するようなもの。ボラティリティーも、風による発熱も、マーケットや人間が持ち合わせている自然治癒力で鎮まるもの。

日興国債IndexとVlt

岩田日銀副総裁は、「名目金利の上がり方も、予想インフレ率の上がり方に比べて小さい」と発言しているが、何を根拠に発言をしているのだろうか。物価連動国債と普通国債との利回の差で推測するのが一般的であるが、日本の物価連動国債の残高は僅か約3.5兆円であり、残高が30兆円ある「9年超~10年以下」の国債との利回り格差から算出される「予想インフレ率:BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)」の信頼性は低いとされている。

正確に測ることの出来ない「予想インフレ率」が上昇していると決めつけ、「実質金利は下がっている」と断じるのは、学者とは思えない、かなり乱暴な議論。

基本的に「期待」は「実績」によって芽生えて来るものである。そうした観点で、10年国債利回りから、実際の全国消費者物価指数の対前年同月比変化率を引いた「実績期待インフレ率」の推移を見てみると、直近では、消費者物価の下落に伴って、高止まりしている。少なくとも、「期待インフレ率」を上昇させるほど実際の消費者物価は上昇していないし、「設備投資や輸出や消費に影響を与えるという好循環が生まれる。そうした好循環は今、起こりつつある」と言い切れるほど実質金利は低下していない。

実績実質金利

もし仮に、岩田日銀副総裁が指摘する通り、実質金利の低下によって「好循環は今、起こりつつある」のだとしたら、安倍総理が「成長戦略」発表後に慌てて「投資減税」を追加しようとする必要はなかったはずである。少なくとも、多くの人は、岩田副総裁が強調するほど「期待インフレ率上昇」「実質金利低下」を感じていないということ。

「岩田氏は就任前に『(金融機関が日銀に資金を預ける)当座預金残高が10%増えれば予想インフレ率は0.44%上昇する』との見方を示した」そうである。著名なリフレ派学者であるから、当然根拠のある数字のはずである。

しかし、2000年以降の消費者物価指数の動きと、日銀の当座預金残高の推移からは、「当座預金残高が10%増えれば予想インフレ率は0.44%上昇する」という主張の根拠を見つけ出すことは困難である。最も日銀の当座預金残高が少なかった2008年5月と比較して、当座預金残高が約9倍、金額にして60兆円近く増加する間、実際の消費者物価指数は、2.4ポイントも低下しているのである。さらに、消費者物価指数が最も低かった2007年2月と比較しても、0.2ポイント下がっている。

CPIと当座預金

こうした現実を前に「当座預金残高が10%増えれば予想インフレ率は0.44%上昇する」と主張するその想像力には敬服するばかり。岩田副総裁の主張が正しいとしたら、市場は常に「予想インフレ率」を実際のインフレ率よりも高く見積もり、失敗し続けて来たということである。市場が「予想インフレ率」を高く見積もり過ぎてしまうことは多々あることかもしれないが、5年以上も期待外れが続けば、いい加減、当座預金残高増加という理由だけで「予想インフレ率」を実際よりも高く見積もらなくなるはずである。

「期待インフレ率」に関しては、バーナンキFRB議長は頭を悩まして来ているが、岩田日銀副総裁は、日本の「期待インフレ率上昇」に関しては、一点の曇りもないようだ。

個人的には「大胆な金融緩和」は必要であったが、「異次元の金融緩和」「量的・質的緩和」は、誤った政策であると考えている。日本の金融政策を、根拠の定かでない理論を唱える学者の実験の場にされてはたまらない。
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