「個人消費の眠れる需要」と「企業が抱える眠れる現・預金」

「アベノミクスで日本経済が浮揚しているが、問題はこれが持続するかどうかである。今後の鍵を握るのは国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費だ。眠る需要を掘り起こし、生活者の満足度を高めつつ消費を活性化するために企業がやるべきことは多い」(7月1日付日本経済新聞社説「企業主導で消費の掘り起こしを」)

「眠れる需要を掘り起こし」…。こうした企業努力は「ミクロ(各企業ベース)」では重要なものだが、「マクロ(経済全体)」にまで広げて論じると、無意味なもの。

「企業が低価格競争だけに目を向け、新しい需要を見落としている可能性はないか」

「眠れる需要」は、社会全体で見た消費者の有効需要に関係なく存在するものである。例えば、収入が減れば(有効需要減少)、低価格品に対する「眠れる需要」が顕在化するし、収入減が止まれば「生活の質を高める商品」に対する「眠れる需要」が増加することになる。これまで企業が「低価格競争」に目を向けて来たのは、低価格品に対する需要が増えていたからに他ならない。低価格商品という「新しい需要」を見落としたり対応できなかったりした企業はこれまで苦しい経営を強いられて来ただけのこと。

有効需要が増加しない限り、「眠れる需要の掘り起し」は限られたパイの中で繰り広げられる「生存競争」でしかない。つまり、「眠れる需要」を掴んだ商品・サービスの陰で、それを掴みそこなった商品・サービスが淘汰されているということ。

社説の中では高級スーパーの成城石井の成功例が挙げられているが、5月の全国コンビニエンスストア売上高(既存店ベース)は12カ月連続、全国スーパー売上高(同)も2カ月連続で前年実績を下回っており、成城石井の「眠れる需要」の掘り起しは、スーパー業界の売上増加には繋がっていない。それは、限られた有効需要を奪い合会っているだけで、有効需要全体が増えていないからである。

有効需要が増えない社会での「眠れる需要の掘り起し」は、企業の勝者敗者の決定要因ではあるが、これだけでは、この社説が主張するような「生活者の満足度を高めつつ消費を活性化する」「1年前に比べ、消費者の心理は明るくなりつつある。この流れをさらに確かなものにする」原動力にはなり得ない。

「日本銀行が19日公表した資金循環統計によると、企業(民間非金融法人)が保有する現金・預金残高は今年3月末で前年比5.8%増の約225兆円に達した。規模としては、イタリア経済や米企業が保有する流動性資産を上回る」(6月20日Bloomberg「日本企業の現・預金残高が過去最高に、安倍政権の成長戦略に影響も」)

成長戦略で「設備投資額を3年間で年約70兆円に回復させる」という目標を掲げた安倍政権。統計上、日本の企業はアベノミクスが掲げた設備投資目標を、外部からの資金調達なし(名目的に金利0%)で達成出来る「眠れる現・預金」を保有している。また、資金循環統計(2013年第1四半期の速報)によると、「民間非金融法人」は、25.8兆円と、国内最大の資金余剰主体となっている。こうした状況下、法人税率の引下げや投資減税が、企業の「眠れる現・預金」を呼び起こす「本丸」になることが出来るのだろうか。

「企業が低価格競争だけに目を向け、新しい需要を見落としている可能性はないか」

この社説は企業に対して、このような問いかけを行っている。各企業のこうした努力も不可欠だが、各企業の個別の努力は「生存競争」を生き延びるためのもので、それだけでは日本経済の復活には繋がらない。

日本経済復活を図るためには、「個人消費の需要を掘り起こす」より前に、政財界、学会を挙げて「有効需要を増やすために、企業の『眠れる現・預金』を呼び起こすような『大胆な政策』を見落としている可能性はないか」という問いかけが必要である。有効需要が拡大しない中で「個人消費の眠れる需要の掘り起し」に期待するだけでは、日本経済はジリ貧になる。
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コメント

景気は気だといいますが、本当に企業が投資すれば儲かると思えるような大胆な政策が必要ですね。

今の3本目の矢では、力不足です。

思い切って200兆円程度を4年程度で投入するようなインフラ整備が必要と思いますが、

その前に、まず第一段階として、誰が考えても景気の先行きに不安を感じざるをえない来年からの消費税増税を2年程度延長することが企業の国内投資を促進する上で有効だと思います。

ドクター国松様 コメントをお寄せ頂きありがとうございました。小生も、消費増税には反対です。
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近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
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ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

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