「時代に逆流」した日本のマスコミが報じるG20 ~「国際公約」ではなくなった日本の財政再建

「『マネー逆流』ともいえる動きにいかに協調して対応するかが焦点だった」、モスクワでのG20が、共同声明を採択して閉幕した。

米国のQE3規模縮小懸念に伴う「マネー逆流」が主要なテーマとなり、多くの時間を費やした会議でありながら、米国のバーナンキFRB議長が前回に引き続いて欠席したこともあり、共同声明の中身はほとんど実りあるものにはならなかた。

そもそも、「マネー逆流」の根本的要因となっている新興国の経済成長の鈍化は、中国のシャドーバンキング問題、ブラジルのインフレ、インドの双子の赤字等々、新興国固有の構造問題によるもので、米国のQE3規模縮小とは直接的には関係のないもの。もし、新興国の経済が堅固なものであれば、「マネー逆流」は一時的な金融現象で終わるはずである。

G20に参加した麻生財務相は、「お金が入って来て困るといい、出て行くのも困るという。どっちが正しいんだ」(21日付日本経済新聞)と発言、新興国を皮肉ったと報じられているが、まさにその通りであり、新興国の要求は、米国の金融政策で対応できる範囲を超えたもの。

G20共同声明には、「長期にわたる金融緩和のリスクや意図しない副作用に留意。金融政策を将来変更する場合は引き続き、明快な意思疎通をもって慎重に調整する」と明記され、一応新興国がFRBに対して圧力をかけた形となっている。しかし、日銀や中国人民銀行と比較して、政治からの高い独立性を保っているFRBにとって、G20のこうした共同声明が今後の金融政策に影響を及ぼすとは考えにくい。

「日本からは麻生太郎財務相と黒田東彦日銀総裁が出席した。閉幕後の記者会見で麻生財務相は来年4月の消費税率引き上げについて『今年10月ごろまでに答えを出したい。上げる方向で予定通りやりたい』と述べ、今秋の増税決定に意欲を示した」(21日付日本経済新聞)

G20が共同声明を採択して閉幕したことを日本経済新聞は、G20で日本の財政再建が議題になったかのような印象を与えるような書き出しで報じている。しかし、「ある米財務省高官は『G20の成長と雇用に関する見解が示す通り、成長か緊縮かという議論は決着したようだ』と指摘」(ロイター)、「G20当局者によると、ドイツは中期的な財政目標と日米両国に以前のコミットメント遂行を求めるより厳しい文言を盛り込むことを要求した。しかしドイツは、欧州は債務削減よりも成長を優先すべきだとする米国と韓国から批判を浴びた」(Bloomberg)という報道から察するに、日本経済新聞が消費増税を正当化するための過剰演出であった可能性が高い。

実際に、20日の21:38に更新された日経電子版の「米緩和縮小の混乱抑制へ各国協調 G20閉幕」という記事では、「今回、日銀の金融緩和への批判はほとんど出なかったものの、21日投開票の参院選後に財政再建の道筋を示すことは改めて国際公約となる」と、財政再建が「国際公約」であるかのような報道がされていた。

仮に「ドイツは中期的な財政目標と日米両国に以前のコミットメント遂行を求めるより厳しい文言を盛り込むことを要求した。しかしドイツは、欧州は債務削減よりも成長を優先すべきだとする米国と韓国から批判を浴びた」という報道が正しいのだとしたら、日本の財政再建は、G20において「成長か緊縮かという議論は決着した」なかでは、もはや「国際公約」としては扱われていないということになる。

20日の21:38分に更新された日経電子版は、「日本からは麻生太郎財務相と黒田東彦日銀総裁が出席した。黒田日銀総裁は『(安倍晋三政権の経済政策)アベノミクスに従って財政再建と成長戦略をしっかり遂行するのが大事だ』と述べた」という出だしで始まり、「21日投開票の参院選後に財政再建の道筋を示すことは改めて国際公約となる」という文言で締め括られていた。

しかし、ドイツの「日米両国に以前のコミットメント遂行を求めるより厳しい文言を盛り込む」という主張が退けられ、日本の財政再建が「国際公約」から外された格好になったことから、21日付日経新聞の朝刊の記事は、やや場違いな麻生財務相の消費税引き上げ発言を冒頭に据え、最後は「9月にロシアのサンクトペテルブルグで開く首脳会議で、先進国が『信頼出来る野心的な中期財政戦略』をつくることも改めて確認したが、日本や米国など個別国を名指ししなかった」と、失望感を滲ませる文章で締め括っている。

麻生財務相の発言は、閉幕後の記者会見での発言であり、G20の議論とは全く関係のない話し。それを、G20閉幕を報じる記事の頭に持ってくるというその神経は恐れ入ったもの。

確かに、今回の共同声明には「より強く持続可能な回復を達成すると同時に先進国の財政的持続可能性の確保も極めて重要である」(ロイター:以下同様)ことが明記されている。しかし、その前項で「われわれの目先的な優先事項は雇用・成長の強化であることで合意した」と、優先事項が「財政再建」ではなく「雇用・成長の強化」であることが明記されている。さらに、財政再建の重要性にふれたあと、わざわざ、「これらの戦略は短期的な経済状況を考慮し、十分柔軟なものになる」と断りを入れ、「雇用・成長の強化」が優先事項であることを確認するという徹底ぶりである。

「世界経済は依然弱過ぎ、回復はいまだ脆弱で均等でない」と世界経済の成長鈍化を明記した今回のG20共同声明が、「米国と日本では経済活動活発化の兆しがでている」と、日米経済が世界経済の一縷の望みであるとする中で、G20が日米両国に、成長に冷水を浴びせる消費増税などの緊縮財政を迫るはずはない。そのことは、ドイツの要望が退けられたことからも明らかなことである。

今回、バーナンキFRB議長が欠席した地味なG20で明らかになったことは、「独り立ちできない新興国」であり、「成長か緊縮かという議論は決着した」ことである。

さらには、日本を代表する経済紙が、そうした事実を客観的に伝えず、今でも世界の趨勢が「財政再建」「緊縮財政」にあるかのように報じることで、消費増税による財政再建の実現を目指す「財政再建原理主義者」の広報宣伝部隊に成り下がったことを露呈したことである。こうした「時代に逆流」したマスコミによる歪んだ報道を是正するためにも、マスコミの規制改革は必要不可欠である。

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