デタラメな「経済財政白書」~アベノミクス「3本の矢」の標的は「消費増税実現」なのか

「トヨタ自動車は新興国でエンジン生産を増強し、部品から組み立てまでの一貫生産体制を整備する。700億円を投じ、インドネシア、ブラジルなどで小型車用を中心に生産能力を計約40万基引き上げる」

7月24日付日本経済新聞の1面を飾ったのは、「全国津々浦々まで実感できる強い経済を取り戻す」という安倍総理の主張の実現性に疑問を感じさせる現実を報じるものだった。「トヨタ、新興国で一貫体制」という見出しの記事では、トヨタ自動車が700億円を投じ、新興国での一貫生産体制を整備することが伝えられている。

700億円を投じる期間については明確に記されていないが、トヨタ自動車単体での2013年度の設備投資計画は1800億円であるから、新興国に投じる金額は計画の38.9%に相当する規模ということ。もともと「トヨタ自動車グループの主要7社は26日、2014年3月期の設備投資計画を発表した。合計7583億円と前期実績比で7%増。うち海外は4063億円(14%増)の見通し」(2013/4/26)と、トヨタ自動車グループは設備投資の53.6%を海外に振り向ける計画が発表されているので、今回の報道がサプライズである訳ではない。

サプライズと言えるのは、23日甘利経財相が閣議提出した「2013年度の経済財政白書」。白書では、「緊急経済対策や日銀の『異次元の金融緩和策』によって、円安や株価上昇をもたらして国内経済に対する心理が好転し、『産業空洞化の懸念が後退する動きもみられる』」と、現実の動きを無視するかのような自画自賛の分析をしたことである。

トヨタ自動車の豊田社長は、7月11日の日本自動車工業会の会長会見で、「自動車が国内設備投資の牽引役になっているのではないか」、「本年1-6月の国内販売は前年同期で8%減となっており、国内の生産能力に余裕がある中、生産拡大に向けた設備投資は困難であると言わざるを得ない」、「先日給与の引き上げについては、それ以前に国内の雇用を守るのが精一杯というのが現実である」と語っている。

「国内設備投資の牽引役になっている」自動車産業トップによる「国内の設備投資は困難」という発言は、「産業空洞化の懸念が後退していないこと」を示したものであり、「雇用を守るのが精一杯」という発言は、「個人消費の増加が生産の増加につながり、所得の増加をもたらすという経済の好循環の芽が出ている」という政府の認識が「幻想」に過ぎないことを示したものである。

安倍政権が、日本経済の現実を無視し、景気の基調判断については「着実に持ち直しており、自律的回復に向けた動きもみられる」と3カ月連続で上方修正し、10カ月ぶりに「回復」の文言を入れたところに、何としても消費増税を予定通り行いたいという安倍政権の強い本音が透けて見えるようである。

それにしても、今回閣議に提出された「経済財政白書」の分析の厚かましさには驚かされる。

今回の白書では、「家計の『平均購入単価』が上昇している」ことを挙げ、「消費者の低価格志向は緩和されつつある」と分析している。確かに、株価の上昇に伴う資産効果が一部に現れていることは確かだが、家計の「平均購入単価」が上昇した原因としては、円安による輸入物価の上昇と、電気料金の価格の上昇により「販売価格」が引上げられ、「低価格志向」を継続出来なくなったという方が現実に近いはずである。生活必需品の「販売価格」が引上げられたことによる、仕方のない「平均購入単価」の上昇は、消費者の間で物価上昇期待とは無関係なもの。

株高に伴う資産効果も期待されるが、東京証券取引所などが発表した2012年度の株式分布状況調査では、3月末時点の個人の比率は外国投資家の28.0%を下回る20.2%(前年度比▲0.2%)に留まっており、株価上昇の恩恵を受ける家計は限定的である。さらに4-6月の3か月間に個人投資家は2兆2841億円売り越しを記録しており、日本株上昇による資産効果の持続性も限定的と言える状況にある。

「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」というアベノミクス「3本の矢」は、全体像としては今の日本にこれ以外の選択肢がないといえる政策パッケージである。しかし、「3本の矢」の標的が「消費増税の実現」に向けられ、このまま「白いものもクロだ」という政治判断が繰り返されるのであれば、アベノミクスが「全国津々浦々まで実感させる」のは、「強い経済を取り戻す」ことではなく、「苦しい生活が続く」という「絶望感」になる可能性が高い。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

近藤駿介

プロフィール

Author:近藤駿介
ブログをご覧いただきありがとうございます。
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験を持つと同時に、評論家としても活動して来ました。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚をお伝えしていきたいと思います。

近藤駿介 実践!マーケット・エコノミー道場

入会キャンペーン 実施中!

著書

アラフォー独身崖っぷちOL投資について勉強する

Anotherstage LLC

金融に関する知見を通して皆様の新しいステージ作りを応援

FC2ブログランキング

クリックをお願いします。

FC2カウンター

近藤駿介 facebook

Recommend

お子様から大人まで
町田市成瀬駅徒歩6分のピアノ教室

全記事表示リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

QRコード

QR