経済情勢を見極めるなら消費増税は中止でしょ ~「年率▲1.20%のマイナス成長」トレンド下での「年率3%成長」

「麻生太郎副総理・財務・金融相は23日の閣議後の記者会見で、2013年度補正予算案の来年の通常国会への提出を検討する意向を示した。…(中略)… 補正予算には住宅購入者への現金給付(3000億円超)や低所得世帯に現金を配る『簡素な給付措置』(約3000億円)などを盛り込む見通し。消費増税に伴う駆け込み需要の反動減や実質所得の減少を補うためだ」(7/23付日本経済新聞)

9月といわれる消費増税実施の最終判断を控え、「首相官邸と財務省とで思惑が交錯している」。政府は、9月9日に発表予定の4-6月期GDP改定値を見て最終判断を下したいとしているが、財務省は8月12日に発表される4-6月期GDP速報値をもとに、9月5,6日のG20までに消費増税を決め、「国際公約」にでっち上げてしまいたいようである。

注目される4-6月期のGDPは、民間の予測で概ね前期比0.7%、年率3%程度の高い成長となることが見込まれている。7月26日に発表される6月の消費者物価指数も、電気料金の値上げに続く、食料品の「値上げラッシュ」の影響で、久しぶりにプラスに転じることが確実であり、8月には経済統計上では、「デフレ脱却、高成長」が揃い踏みとなり、「アベノミクス効果」を強調するのに絶好の機会が訪れることになる。日本の大手マスコミが財務省の広報担当に成り下がり、消費増税の熱狂的サポーターと化している現状からすると、電気料金や食料品の値上げという、「アベノミクス効果」とは程遠い物価上昇も、マスコミの手によって「大胆な金融緩和による政策的効果」と演出され、消費増税容認世論を盛り上げる大々的キャンペーンが繰り広げられることは想像に難くない。

「年率3%の成長」ということ自体は日本経済に喜ばしいことであるが、これは対前期比での変化率の話し。日本経済の規模そのものに目を向けると、例え民間調査機関の予測通りこの4-6月期に「年率3%成長」を果たしたとして、名目GDPは480兆円程度である。

この約480兆円という名目GDPの規模は、名目GDPの推移からみると、大震災後の最高を記録した2012年1-3月期の479.85兆円と肩を並べるものとなるが、リーマンショック後の最高を記録した2010年7-9月期の486.3兆円にはまだ及ばない水準である。また、リーマンショック直前の最高値を記録した2007年4-6月期の515.2兆円と比較すると7.0%、過去最高水準であった1997年10-12月期の524.4兆円と比較すると8.6%下回る水準である。

2013年1-3月期と比較した瞬間風速では、4-6月期の名目GDPは「年率3%成長」といえるが、1997年10-12月期を基準とした長期トレンドでみると、「年率3%成長」を達成したとしても、依然として「年率▲0.58%のマイナス成長」トレンドの中にいる。さらに、2007年4-6月期を基準とした中期でみても、「年率▲1.20%のマイナス成長」トレンドの中にいるということになる(名目GDPの推移とトレンドを示したチャートはこちら)。

つまり、この4-6月期に「年率3%成長」を達成したとしても、日本経済はとても「Japan is back!」とは言えない状況にあるのである。1997年に実施された2%の消費税率引上げは、名目GDPを2年間で約21兆円、率にして4.0%減少させた。名目GDPが最高水準にあった時代にも、2%の消費税率引き上げは、結果的に名目GDPを4%押し下げたのである。1997年の消費税率引上げを境に、15年に渡って「年率▲0.58%のマイナス成長」に苦しんできた日本が、当時を上回る3%の消費税率引上げを、国際公約をでっち上げてまで、「前期比年率3%成長」を達成したという理由で、強行実施するというのは、余りにもリスクが大きいと言わざるを得ない。

財務省は、「消費増税に伴う駆け込み需要の反動減や実質所得の減少を補うため」に、「住宅購入者への現金給付(3000億円超)や低所得世帯に現金を配る『簡素な給付措置』(約3000億円)」などを盛り込んだ補正予算を組む方針のようだ。しかし、これは完全な「マッチポンプ政策」である。

日本の消費税収入は約10兆円であり、税率を1%引上げると約2兆円の増収になると言われている。単純に消費税率を5%から8%に3%引上げると、約6兆円の税収増になる計算である。この「とらぬ狸の6兆円」を目論んで、その10%を上回る6,000億円を超える補正予算を打つというのが賢明な判断なのだろうか。

住宅購入者への安易な現金給付によって、多くの国民を「一生に一度の買い物」に駆り出し、一時的な景気の落ち込みを小さく出来たところで、何の意味もないどころか、将来への禍根を残すことになる。「一生に一度の買い物」に駆り出された国民の多くは、殆どの貯蓄を掃出し、住宅ローンを抱えることになる。こうした状況下で消費増税による景気悪化は、所得の下方圧力を通して住宅購入者の住宅ローンの支払い能力を低下させることになる。

消費増税による景気悪化にも関わらず、安定した収入と十分な資産を持っていて支払い能力に問題のない人だけが購入者ならば問題はないが、こうした人達に住宅購入を促すのであれば、そもそも住宅購入時の現金給付など必要はない。問題は、「運よく」所得の減少がなければ住宅ローンを支払うことが出来る層である。政府が、「消費増税に伴う駆け込み需要の反動減や実質所得の減少」があることを認識していながら、「現金給付」という撒餌で住宅購入に走らせ、こうした層に「運が良ければ」返済出来る住宅ローンを組ませるというのは、国が潜在的ローン破綻者を増やす誤った政策である。

米国では、証券化という手法の発達によって、金融機関が低所得層に対して住宅ローンの提供が可能になった。そしてこれがサブプライムローン問題の原因となり、結果的にリーマンショックという100年に一度の危機を招くこととなった。このサブプライムローンも、米国経済が順調で、「運よく」住宅ローンを払い続けられていればリスクが顕在化しなかったものである。

財務省が検討しているとされる「住宅購入者に対する現金給付」は、国を挙げて「日本版サブプライムローン問題」を作り上げるような、とんでもない政策である。

財務省には、消費増税による経済の落ち込みを小さくみせようという「姑息な政策の立案」に能力を浪費するのではなく、日本の経済成長のためにその能力を使ってもらいたいものである。
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