「良いインフレ」に道半ば?~「悪いインフレ」の先に「良いインフレ」があるんですか?

「物価に上昇の動きが出てきた。テレビやパソコンなど耐久消費財の値下げが緩やかになり、円安・株高に伴う好調な個人消費が物価に上向きの力を及ぼしている。ただ、現時点では電気代とガソリン代の値上がりの影響も大きく、半数を超える品目が値下がりした。消費増が投資を呼び、賃金の上昇を伴って物価が上がる『良いインフレ』にはまだ道半ばだ」

26日に総務省が発表した6月の全国消費者物価指数(CPI)が生鮮食品を除く総合(コアCPI)で1年2カ月ぶりに前年同月比プラスに転じたことに関して、日本経済新聞電子版は「良いインフレ」に向かっていると好意的に報じている。

CPIが1年2か月ぶりにプラスに転じたことは、安倍政権も「政策効果」だと捉えているようだ。甘利経財相は「原油価格の上昇や円安進行が上昇に寄与したのではないか」との質問に対して、「円安による輸入物価の高騰を反映しているのも紛れもない事実だが、貿易による物価の上昇と一概に言えない。消費がけん引する景気回復の過程で物価が上昇しつつあると理解するのが素直だと思っている」との見解を示した。

CPI総合、コアCPI共にプラス圏に浮上し、CPI統計上は着実に「デフレ脱却」に向かっている格好になっている。しかし、CPI総合の前年同月比上昇分0.20に対する寄与度は、「光熱・水道電気代」が0.34、「交通・通信自動車関係費」が0.28(その内「ガソリン」が0.16)と、この2項目で0.5押し上げている。要するに、この2項目を除いた殆どの項目はCPI総合指数を0.3押し下げたということ。注目された「電気代」の対前年同月比上昇率は5月の8.71%から6月には9.87%へと、さらに上昇速度を速めている。

こうした事実を「素直に理解」すれば、CPIの上昇は「円安による輸入物価の高騰を反映している」ことになるはずである。もし、「消費がけん引する景気回復の過程で物価が上昇しつつある」のであれば、「家庭用耐久財」(前年同月比▲7.2%)や「教養娯楽教養娯楽用耐久財」(同▲3.3%)などが牽引して物価が上昇するはずである。

内容を無視してCPIの上昇を願う勢力にとっては、全国CPIと同時に発表された東京都区部の7月消費者物価(中旬速報値)は、力強い援軍になったはずである。全国CPIの先行指標とされる東京都区部のCPI総合は、前年同月比0.4%上昇、コアCPIで同0.3%の上昇と、全国CPIを上回る結果となった。牽引役となったのは、天候不順の影響を受け前月比で10.6%上昇した「生鮮野菜 」と、前月比で1.4%上昇した「電気代」。「電気代」の前年同月比の上昇率は 15.4%と、全国の6月の9.87%をはるかに凌ぐもの。さらに、「ガソリン」も前年同月比で10.2%上昇して、東京都区部のCPI上昇に貢献している(CPI及び電気代の前年同月比の推移はこちら)。

日経電子版は「消費増が投資を呼び、賃金の上昇を伴って物価が上がる『良いインフレ』には道半ばだ」と、「良いインフレ」にはなっていないものの、方向としては正しい方向に向かっているとの見解を示している。しかし、電気も、ガソリンも、生鮮野菜も、全て一般消費者にはストック出来ないもので、物価上昇に備えて先回りして購入することはあり得ない。つまり、物価上昇期待が需要を喚起して物価が上昇しているのではなく、コストが上昇しているから物価が上昇しているということ。

一般的に、エネルギー価格等コスト上昇によって物価が上がる「コストプッシュ型」は「悪いインフレ」、賃金上昇などを背景にした需要の増加によって物価が上がる「ディマンドプル型」が「良いインフレ」だと定義されているが、現状の物価上昇は「素直に理解」すれば、明らかに「悪い物価上昇」である。

「三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガ銀行が国債の保有残高を大幅に減らしたことがわかった。6月末の残高は合計で約90兆円と3月末から2割圧縮した。大規模な金融緩和を進める日銀の国債買い入れに積極的に応じたことが背景にある。…(中略)… 国債を減らした分の資金の大半は日銀の当座預金に振り替わっており、外国債券や株式への資産シフトは進んでいない」

26日付日本経済新聞は、「3大銀、国債2割圧縮」という見出しでこのように報じている。拙著「『大胆な金融緩和』を錆びつかせる誤射続きの『異次元の金融緩和』」でも指摘したが、黒田日銀は6月時点でマネタリーベースを3月比で28兆7962億円、率にして21.4%増加させているが、同期間の日銀当座預金残高は28兆7916億円増加している。つまり、黒田日銀が「異次元の金融緩和」と称して増やしたマネタリーベースの実に99.98%が日銀当座預金に「ブタ積み」されているのである。こうした事実は、「異次元の金融緩和」によっても、民間の資金は増えていないということ。従って、「異次元の金融緩和」の効果によって民間の物価が上昇するということは、金融面からは殆ど考えられない状況にある。

麻生財務相も「少なくとも物価上昇2%を目指そうという日銀の方針に関しては、ひとつの方向(が出てきている)」と評価する発言をしている。しかし、問題は、「物価上昇2%を目指そうという日銀の方針」が、どのような経済状況を想定したものなのかという点である。物価上昇の中身や、民間への資金流出状況など確認もせずに、政府・日銀がただただ経済統計上2%の物価上昇を目指して資金供給をするだけでは、現在の「悪い物価上昇」を加速するだけである。

そもそも、安倍政権が日銀に「2%の物価安定目標」を課したのは、景気回復が軌道に乗る前に、日銀が独断で金融緩和を打ち切らないようにさせるためだったはずである。日銀に独断で金融緩和を打ち切らせないためには、例えば安倍総理が掲げる「設備投資70兆円」を金融緩和の目標にしてもいいはずである。

「悪い物価上昇」をさらに加速させかねない「2%の物価安定目標」などを日銀に課すのはもう止め、「良い物価上昇」に方向転換できる目標に切り替えるべき時期に来ている。もう、十分に「行き過ぎた円高」の修正は達成したのだから。
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