安倍総理、消費増税の影響再検討指示 ~ 慌てた日本経済新聞の支離滅裂な「論理」

消費増税真理教の日本経済新聞にとって、想定外の衝撃だったのかもしれない。それもそのはず、6月の消費者物価指数(CPI)が発表され、「総合」と「コア(生産食料品を除く総合)」の両方が前年同月比でプラスに転じ、中身はともかく表面的には「デフレ脱却」という消費増税に向けての外堀を一つ埋められたはずであった26日、安倍首相が「来年4月に予定する消費増税による景気や物価への影響を再検証するよう指示した」ことが明らかになったのだから。

「消費増税修正にもリスク」という見出しの「解説」で、「デフレの克服は安倍政権の命運を賭けた事業だ。『アベノミクスで引き寄せたその端緒を、消費増税で失いたくない』という政治の論理が分からないわけではない」と、「デフレの克服」を「政治の論理」と決め付けている。そのうえで、「だが経済の論理で考えれば、やはり危うい賭けといわざるを得ない。消費増税そのものの見送りは論外として、税率引き上げの幅を見直すのもリスクを伴うだろう」と、「経済の論理」では消費増税見直しは「リスクを伴う」と断じている。

その後も「国際公約でもある消費増税の修正を、市場はどう受け止めるのか」と、先日のG20で日本の消費増税が「国際公約」として否定されたにも関わらず、何時までも消費増税が国際公約であるかのような印象を植え付けようと必死になっている。

さらには、「市場はどう受け止めるのか」と、消費増税を見送れば日本の国債が売られ長期金利が上昇するかのような「オオカミ少年発言」を繰り返す始末である。2013年3月末時点の日本国債の海外保有残高は81.5兆円で、発行残高の8.4%に過ぎない(チャート参照)。しかも、その内訳は46.3兆円が短期国債であり、長期国債は35.2兆円である。黒田日銀は「異次元の金融緩和」と称して「長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」としており、海外投資家が保有する全ての日本の長期国債を売却しても、黒田日銀が買入れようとしている長期国債の7割に過ぎない。

また、「異次元の金融緩和」によって日本の長期金利が上昇したことで、「異次元の金融緩和」が打ち出された4月には外債などへの投資を増やすとしていた生保各社も「ALM(資産と負債の総合管理)の観点から、国債を買っていくことである程度運用できる。外債投資を大幅に増やすととらえていないのではないか」(7月19日ロイターニュース)と方針変換して来ており、国内での資金需要が弱い現状では、国内投資家の国債買入れ余力は十分にある状況である。

さらに、26日付日本経済新聞が1面で報じたように、3メガ銀行の6月末時点での国債保有残高は約90兆円と、この4-6月期に国債残高を2割圧縮したこと、そして「国債残高を減らした分の資金の大半は日銀の当座預金に振り替わっており、外国債券や株式への資産シフトは進んでいない」状況にある。

つまり、海外投資家が売却出来る日本の長期国債の上限が約35兆円であるのに対して、日銀を含めた国内投資家の買入れ余力はそれをかなり上回っている状況にある。

金融市場での実践経験を持たない有識者達は、消費増税を先送りしたりした場合には、海外投資家の信認を失い、南欧諸国と同様に日本国債が売り浴びせられ、長期金利が急上昇するかのような警告を何かの一つ覚えのように繰り返している。しかし、これは国債の「海外保有比率」を無視した「非現実的なシナリオ」でしかない。

ソブリン危機に見舞われたギリシャ国債の「海外保有比率」は、2010年で70%台、ポルトガルは85%超、アイルランド80%前後、フランスも70%前後、イタリアも50%程度であり、僅か8.4%の日本とは状況が根本的に違っている。日本の国債発行残高は巨額かもしれないが、「海外保有比率」という観点からすると日本は「超優等生」なのである。

このような状況の中、1)全ての海外投資家の保有額を合計した売却可能な玉(国債保有額)が35兆円であるのに対して、国内勢の買い余力は35兆円をはるかに上回っていること、2)海外投資家がタイミングを合わせて一斉に日本国債の売却に動くことは考え難いのに対して、国内勢は日銀だけでも(資金の逐次投入せずに)35兆円買い向かえる態勢にある現状を鑑みれば、日本国債を売り浴びせるという勝ち目の薄い戦略を選択する投資家が少ないのは「経済の論理」から当然のことである。収益を確保することを唯一絶対の目的としている投資家は、初めから勝ち目のない戦略に賭けるという愚は犯さない。

「1997年度の消費増税と同じ轍を踏みたくない。安倍晋三首相にはそんな思いもあるのだろう。このときは消費増税も含めた国民負担増が9兆円近くに上り、景気悪化の原因になったといわれる。だが主因はアジア通貨危機や日本の金融危機であったとの見方が多くなりつつある」

日本経済新聞は、1997年度に消費増税が実施されて以降、「名目GDPが2年間で約21兆円、率にして4.0%減少した」(記事参照)原因を、アジアの通貨危機や日本の金融危機に擦りつけようとしているようである。

百歩譲って、消費増税のためなら「白いものもクロ」と平気で主張する日本経済新聞のその見解に一理あるとしよう。では、日本経済新聞は、1997年当時と比較して、現在の日本を取り巻く国際経済環境は好転しているというのだろうか。

現在は中国の景気減速とシャドーバンキング問題、低迷から脱せない欧州経済、米国の金融緩和の出口論…。少し考えただけでも、1997年当時と同様か、それ以上に不確実性が存在しており、日本経済がいつ悪影響を受けてもおかしくない状況にある。さらに、足許の日本の名目GDPは約480兆円と、1997年10-12月期の524.4兆円から約8.6%も縮んでしまっている(チャート参照)上に、貿易赤字国に転落し、非正規社員が2043万人と2000万人を超え(1997年1139万人)、その比率は38.2%と過去最高(同23.1%)となって来ており、1997年当時と比較して、日本経済の耐力自体が低下していることは明らかである。

1997年の消費増税以降の景気減速はアジア通貨危機や日本の金融危機によるものだという主張は、当時以上の外的不確実要因がある中では、何の意味もない。こうした主張をするならば、今回はそうした外的不確実要因がないことを示すべきである。

「内閣府も消費増税の影響を検討するため、民間エコノミスト約10人を招いた有識者会合を設置する。首相のブレーンで消費増税に慎重な浜田宏一、本田悦郎両内閣官房参与も加わる案が有力だ」

安倍総理が「消費増税による景気や物価への影響を再検証するように指示した」のは、アベノミクスの「大胆な金融緩和」の理論的後ろ盾となった浜田宏一イエール大学名誉教授が消費増税に慎重な見解を示していることが大きく影響しているはずである。その著書「アメリカは日本経済の復活を知っている」の中で、「いま増税すると財政再建は絶対不可能に」、「消費税二倍で社会的損失は四倍に」と主張している浜田宏一名誉教授には、「経済の論理」で考えれば、消費増税の実施見送ることが「危うい賭け」ではなく、「当然の選択」であることを分からせ、消費増税真理教を一掃して頂きたいものである。
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