日米両国の経済を悩ませる「好調な住宅投資」

金融市場にとっては朗報、バーナンキFRB議長にとっては悩ましい内容だったのかもしれない。

米商務省が31日発表した4~6月期の実質GDP成長率は+1.7%と、事前予想の+1.0%を上回った一方、1~3月期の実質GDPは+1.8%から+1.1%に大幅下方修正された。全体として、FRBが早急に資産買入規模縮小に踏み切る程には強くなく、政府支出が逆風となる中でも個人消費が景気を牽引できることを示した点で、金融市場には理想的な内容だったのかもしれない。

一方、個人消費支出(PCE)価格指数は前期比変わらずと、同+1.1%であった前期から低下。エネルギーと食品を除いたコアPCE価格指数は前期比+0.8%(前期は同+1.4%)と、FRBが目標とする+2.0%を大きく下回った。

そうした中、「民間住宅投資は4~6月期も前期比年率で13%増と急伸した。6月の一戸建ての新築住宅販売(季節調整済み、年率換算)は49万7千戸と前月比8.3%増え、5年ぶりの高水準にある」(日本経済新聞)。民間住宅投資は、GDPを0.38%押し上げた。

PCEがFRBの目標である+2.0%を大きく下回っていることからすると資産買入れ規模の縮小は難しい。一方、「住宅ローン金利はいくらか上昇」(FOMC声明文)する中でも民間住宅投資が2桁の伸びを示していることを考えると、出来れば早めに資産買入れ規模の縮小に踏み切りたいところ。FRBにとってやっかいなのは、民間住宅投資が2桁の伸びを示す中で、「家具及び住宅設備PCE」は前期比▲2.8%と、5期連続でマイナスとなっており、住宅投資の増加が「家具及び住宅設備」の価格上昇に結び付いていないどころか、足を引っ張っているところ。

今回、「FOMCは、1カ月あたり400億ドルの住宅ローン担保証券の追加購入と1カ月あたり450億ドルの長期米国債購入を継続する」(同)ことを決め、「長期金利を押し下げるとともに、住宅ローン市場を支援し、幅広い金融市場の状態をより緩和状態にする」(同)ことにしたが、「住宅ローン金利はいくらか上昇」する中で2桁の伸びを見せた民間住宅投資を、「長期金利を押し下げる」ことで「住宅ローン市場を支援」するという政策は出来れば避けたいところ。

こうした現状でFRBが早急に採り得る政策の一つは、1カ月あたり850億ドルという資産買入れ規模を維持しつつ、「1カ月あたり400億ドルの住宅ローン担保証券の追加購入と1カ月あたり450億ドルの長期米国債購入」という割合を変更すること。

住宅市場が好調なのは、日本も同様。

「国土交通省が31日発表した6月の新設住宅着工戸数は前年同月比15.3%増の8万3704戸で、10カ月連続の増加だった。伸び率は5月(14.5%増)に続き2ケタを記録した。…(中略)… 10カ月連続の増加は、1997年4月の消費税率5%への引き上げを控えた96年3~12月以来」(日本経済新聞)

日本の住宅市場の問題点は、活況を演出しているのが消費増税を控えた駆け込み需要であるところ。実際、「様々な駆け込み要因が演出している住宅市場活況の持続性には懐疑的な見方もある。前回の消費増税時は駆け込みの反動も大きく、97年度の住宅投資は前年度比19%減と落ち込んだ」(日本経済新聞)。今回に関しては、「政府の住宅購入支援策がうまくいけば前回97年の増税後のような大幅な反動減にはならないはず」(同)という期待もあるようだが、残念ながらこうした淡い期待は打ち砕かれる運命にある。

新設住宅着工件数と同じ31日、厚生労働省が発表した6月の毎月勤労統計調査(速報)で、基本給やボーナスなど給料の合計を示す現金給与総額が前年同月比0.1%増の43万3568円と、5カ月ぶりに増えたことが示された。これはこれでいいニュースではあるが、毎月勤労統計調査の2012年平均の賃金指数は99.1と、1997年(年平均賃金指数113.6)比では、12.8%低下している。これは、この15年間賃金が年率▲0.9%で下落して来たということ。6月の賃金は前年同月比で0.1%増と、5か月ぶりの増加を記録したが、1-3月期の賃金指数は、前年同期比▲0.6%と、過去15年間の平均下落率▲0.9%と比べれば穏やかな低下になったものの、下げ止まったわけではない。

賃金が低下している中での新設住宅着工件数の増加は、「需要の先食い」でしかない。つまり、「増税後の反動減」は必至の情勢であり、場合によっては、「増税後の反動減」が前回よりも大幅になる可能性を秘めているということ。社会全体として給料が下がる中で、「一生に一度の買い物」といわれる住宅着工件数が増え続けるというのは、常識的には考え難い(住宅着工件数と賃金指数の推移のチャートはこちら)。

「需要の先食い」がなければ景気回復は遅れ、「需要の先食い」が生じればそれが一時的な「内需中心の景気回復」を演出し、消費増税実施の大義名分に使われ、内需を細らせる原因になるというのは、何とも皮肉な構図である。

好調な住宅市場は、米国ではFRBを悩ませ、日本では将来国民を苦しめる要因となっている。
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近藤駿介

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